⑦ 【マオマオくん裏地球に回される】『1』完結

 いきなり、ダークネス真緒が聞いたことがない特撮ソングを口ずさむ。

「デ、デ、デ、デルナー! アイツは誰だ? 仮面デルナー 」

 真緒が質問する。

「何、その歌?」

「知らないのか……特撮番組の仮面デルナーのOPだ、あっそうか裏では放送していないのか」

「うん、知らない。でも閃光王女狐狸姫のアニメなら放送しているよ」

「なんだそれ?」

 別世界の真緒同士の趣味の会話は決して交差しない。

 気を取り直したダークネス真緒が言った。

「あと少しだけ二択の選択時間をやる……降伏か、服従か好きな方を選べ」



 二人の青賀エルの大剣が、ぶつかり火花を散らす。表地球の日焼けしたエルが凶悪な機械の翼で、裏地球のエルを襲う。

「ムダなあがきはやめて、地獄に堕天しろ!」

 飛び下がり距離を開けた、裏地球のエルは頭の光輪をギザギザのノコギリリングに変化させると、表地球のエルに向かって投げつけた。

 飛んできた光輪を大剣で、真っ二つに切断する表地球のエル。

「おまえは、あたし……手の内は読めて……くさっ!?」

 日焼けしたエルの鼻先に切断された匂い袋が張りつく、裏地球のエルは光輪で隠すように瑠璃子の、屁の匂いが詰まった匂い袋も一緒に投げていた。

 モロに瑠璃子のスカンクの分泌液に匹敵する匂いを嗅いでしまった、表地球のエルは白目を剥いて。

「おごぉぉ……ぐぉぉ」

 と、地面にうつ伏せに倒れ気絶した。



「邪眼厄災! 金タライ!」

 裏地球の百々目一色を、天井から落ちてきた大量の金タライが襲い、見る間に一色の姿が埋もれて見えなくなる。

「これが、表と裏の格の違いだ」

 横を向いた表地球の百々目一色の姿は、プラナリアの再生力でおぞましい容姿に変貌していた──白い肉堺のような体に、無数の目が網目に連なっていた。

 表の一色が言った。

「あたしは、金タライで金害を起こさせるコトができる……金タライの海から押し寄せる大量の金タライ、金タライの山から崩れて押し寄せる金タライ、町を埋め尽くす金タライ……とにかく、金タライ」

 裏地球の一色が金タライの中から這い出してきて、にこやかに微笑む。

「今、その姿で確信が持てた。あなた──邪眼厄災特化しすぎて、金タライしかできないでしょう」

「それがどうした、金タライ最高!」

 裏地球の一色の太モモと腕に、邪眼が連なり現れる。

「見せてあげる、本当の邪眼の使い方を……邪眼厄災『いきなり静電気でビリッ』」

 表地球の一色が触れた場所から、静電気が流れる。

「ぎゃあぁ!?」

「続いて『足の小指を角でゴーン』」

 表一色が足の小指を何かの角にぶつける。

「おごっ!!」

「厄災『肘のあそこぶつけてビリビリ、ファニーボーン』」

「おわっ!?」

 表一色がぶつけた肘のあの部分が痺れる。

「最後にこれを受けてみなさい『両足こむらがえり』」

「うぎゃああああぁぁぁぁ!! もう、やめてぇぇ!!!」

 女医の姿にもどって、地面に転がった表一色は悶絶した。



 表一色のこむらがえり悲鳴が、ダークネス真緒とマオマオがいる広間に聞こえてきた。

 ダークネス真緒が言った。

「青賀エルと百々目一色は倒されたか……使えないヤツらだ。まぁいい、返答の時間だ」

「う~ん、降伏と服従の違いがよくわからないんだけれど……ねぇ、どうしてダークネスは、そんな風になっちゃったの?」

「オレがこうなった理由か、いいだろう教えてやろう……同じ顔をした、魔王の息子同士が真剣に闘ったら二つの世界に、どんな影響がでるのかわからないからな──できれば、それは避けたい」

 ダークネス真緒の背後では、海斗を飲み込んだ食肉植物から、回転ノコギリの刃が出てきて食肉植物を内側から切り裂いていくのが見えた。


「裏地球のマオマオ、子供の時に海岸で迷子になった時のコトを覚えているか……青潮シャコと磯で遊んだ日だ」

「うん、覚えている。夕方に母さんが迎えにきてハグしてくれた」

 ダークネス真緒は、厳しい表情でマオマオを指差して言った。

「オレの表地球では、母さんは迎えに来てくれなかった……その後も一度も、母さんはハグをしてはくれなかった──だからオレは呪術を修得して表地球を支配した!」


 ダークネス真緒の話しを聞いたテラ美が、冷めた目でダークネス真緒を眺めながら言った。

「なーんだ、結局はハグしてもらえなかった腹いせ? 表地球の子に、絆創膏が一枚も貼られていないから、変だと思った」

 テラ美は、どこからか取り出した、恐竜入りのアイスキャンディーをナメながら言葉を繋げる。


「表地球の真緒は、もしかしたら世界を破壊する力も。世界を再構築する力も持ってないんじゃない。

だから呪術を修得した──内心は、裏地球のマオマオの力を恐れているから」

 テラ美の言葉に動揺するダークネス真緒。

「バカなコトを言うな! 誰が裏のマオマオを恐れてなんか!」

 その時、ウツボカズラの食肉植物を切り裂いていく、大量の液体と一緒に海斗が外に転がり出てきた。

 立ち上がって海斗が言った。

「なんか甘ったるい汁で、体がベトベトする……あの程度の食肉植物に溶かされてたまるかよ……ウツボカズラの壺の中で、聞きづらかったけれど外の話しは所々聞こえたから、なんとなく外の状況はわかった──マオマオが表地球のヤツから危害を加えられた時の、ボディーガードで一緒に来たが、どうやらオレに出番はあまりなさそうだ」

 海斗は怪人化を解除すると、果実に言った。


「今のダークネス真緒に一番効果がある攻撃は……ハグする母性の優しさだ、果実おまえの真緒に対する想いと愛を表地球の真緒にぶつけてやれ!」

 顔を真っ赤に照れまくる果実。

「な、なに言っているの! べ、別に真緒に想いとか愛なんて!」

 アイスキャンディーを食べ終わった蒼穹テラ美が、ダークネス真緒に近づきながら果実に言った。

「今さら誤魔化しても、もうバレバレなんだから……裏地球のあたしの体の上で、毎晩マオマオのコトを想いながら、あんなコトを……」

「誤解を招くような言い方しないで! 真緒がアニメで夜更かししないように、荒船さんや瑠璃子さんと連絡取り合っているだけよ!」

「とにかく、ダークネス真緒が欲しているのは、これよ」

 テラ美はダークネス真緒を、ムギュゥゥと抱きしめる。

 生まれて初めて女性から抱きしめられた感触に、抵抗できなくなるダークネス真緒。

 ダークネス真緒の目から無意識に涙がこぼれる。

「や、やめろぉ」

「寂しかったんでしょう……思いっきり泣いてもいいのよ、世の中には力だけで解決しないこともある……優しさが必要な場合も、よしよし」

 嗚咽を漏らす表地球の真緒。

 テラ美が、呆然と立ち尽くしている果実に言った。

「女性のハグする愛力が足りない。果実の愛をダークネス真緒に注いで、ハグして」

「な、な、な、なに言って!?」

「果実、表地球のボクを抱き締めてあげて……果実の愛を表地球のボクに注いであげて」

「真緒、あんたねぇ……しかたないわね、これは二つの世界を守るためなんだからね……べ、別に真緒のコトなんかなんとも……ムギュゥゥ」

 暗闇果実が、テラ美と一緒にダークネス真緒を挟み込むように抱きしめる。

 前後から女性の柔らかい胸で挟まれ、号泣するダークネス真緒。

「母さん、母さん、うわぁぁぁ!」

 ダークネス真緒が、今まで心の奥に抑えていた感情が溢れ出す。

 ダークネス真緒は、母親の愛情に飢えていた。

 ダークネス真緒の体が光りに包まれ、乳幼児化した。

 驚く果実。

「赤ちゃんになっちゃった?」

「もしかして、これが表地球の真緒が持っていた、秘めた力? 自分に対する再構築力?」

 長ランの中から赤ちゃんになった、ダークネス真緒を抱えあげた果実は、乳児になった真緒の股間にちょこんとついている男性性器を見て顔を赤らめた。

 赤ん坊になったダークネス真緒は、安らいだ表情で女性の胸に抱かれてスヤスヤと眠った。


 裏地球の魔王城地下──魔法円のこちら側と向こう側には、裏地球の者たちと表地球の者たちに別れて立っていた。

 表地球の子に抱かれているダークネス真緒の乳児を、裏地球側から荒船ガーネットは目を細めて眺める。

「思い出しますな、真緒さまがお生まれになった時のコトを……夢の世界から連絡がありました、表地球からの悪夢使者は撃破したそうでございます」

 表地球の擬人化娘が産着にくるまれている、ダークネス真緒を見ながら言った。

「お手数をおかけしました、こちらの地球のマオマオくんは。今度は優しい子になるようにみんなで協力して育てます」

 裏地球の魔王真緒が言った。

「うん、ボクを育てて……きっと、いい子に育つと思うよ。表地球の果実は、コウモリの姿のままでいいの? 呪いを解かなくても」

 表地球側にいるコウモリ果実が言った。

「あたしは、このままでいいです……その時がくれば呪いを解いてもらえれば」

 子供姿の桜菓が言った。

「それじゃあ、表と裏の繋がる魔法円を閉じるよ……もう二度と魔法円が開くコトはないと思うけれど、そっちの世界の呪術空間に一時避難させた人たちは、もどっているはずだから」


 士官姿の緋色が、裏地球の緋色に向かって手を振る。

「狂介をお願いね、手がかかるパートナーだけれど……表地球の魔王城は、この魔法円が閉じると、恒河沙の力で表地球の元の場所にもどるから……じゃあ、お元気で」

 魔法円が閉じて消えると、表地球の魔王城も空中に浮かび雲の中に消える。


 海斗が言った。

「やれやれ、とんだ騒動だったな……なあ、マオマオ。

オレたちがいる世界を、ずっと裏地球って呼ばれていたけれど……表の連中が去ったんだから別の呼び方をしないか、裏ってのも……ちょっとなぁ」

 なにも考えていないマオマオが、適当に思いついた名称を口にする。

「じゃあ、下地球とか底地球とか斜め地球とか」

 海斗がポツリと呟く。

「やっぱり、裏地球でいいな」


 マオマオくんの世界は、今日もすこぶる平和です。


第六章【お気楽な世界再構築と顔を蹴られた裏地球の娘〔こ〕】~おわり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る