④ 戦慄戦隊ジャアクマン

 狂介とメッキが町の電気屋で、リニューアルされたカッパーロボに驚愕していた頃──若い姿の魔女、桜菓は緋色から聞いた恒河沙に興味を持って、よく恒河沙が目撃されるという春髷〔はるまげ〕神社に魔法の和ホウキに横座りで空を飛んで向かっていた。

(ご都合的な戦闘空間というのは、興味深い……新しい魔法開発の参考になるかも知れない)

 西洋魔女の尖り帽子を被り、額には中華道士の無限呪符を貼り、ミニスカな和の巫女服を着て、ブーツを履いた桜菓は、見下ろした路上で人垣ができている場所を発見した。

 どうやら、単体アイドルの路上ライブらしかった。ちょっと気になった桜菓は低空飛行から着陸する。


 路上ライブを行っているアイドルの近くに立てられた、昇り旗には『春髷市のアイドル・水浅木音恩』の文字があった。

 音恩が握ったマイクを通して、路上ライブに集まった通行人に向けて言った。

「みんなぁ! ノットるんぅ! 口角あげていこうぅ♪」

 お揃いのハッピを着た、数名の男性だけが盛り上がる。

 音恩が言った。

「今日は、あたしの路上ライブに楽しんでいってね、楽しんでいかない悪い子には百裂握手しちゃうぞぅ」

 親衛隊から「百裂握手ぅ」という、奇妙なかけ声が入る。

「それじゃあ、歌うよ。最初の曲は『てめぇの父ちゃん、大デベソ! オレも遺伝で大デベソ』」

 音楽家電から、イントロが流れはじめた時……集まっていた観客の中から迷惑そうな口調の女性の声が聞こえてきた。

「やめてください! 迷惑なんです! 近づかないで!」

 声が聞こえてきた方向を見ると、若い女性が大柄な迷彩服男と、小柄な忍者に絡まれていた。

「いいじゃねぇか、こんな路上ライブ観ているくらいだから、ヒマなんだろう」

「オレたちと、遊ぼうぜ」

 どうやら女性が、悪質なナンパをされているらしかった。桜菓が額の呪符を一枚剥がして

 見かねた親衛隊の一人が勇気を出して、大柄な迷彩服男と小柄な忍者に注意をする。


「音恩ちゃんのライブを邪魔しないでください、ナンパならその女性を建物の陰にでも連れていって、好きなだけナンパしてください」


 迷彩服男が服から吊られていた、球体の小型爆弾を一個取り外して、ネジを巻きながら注意してきた男に言った。

「なにをぉ、オレたち正義の味方のジャアクマンに向かって一般人が説教するつもりか、覚悟はできているだろうな」

 注意をしてきた親衛隊男性に向かって投げられる、凶悪な笑い顔が書かれた『ネジ巻き式コショウ爆弾』

「ひっ!!」

 両目を閉じて、顔を片腕で被う親衛隊男性。

 桜菓が額に貼られている無限呪符を、一枚千切って爆弾に投げつけるより先に、観客を飛び越えて飛び出してきた【水浅木音恩】が、爆弾が爆発する前に回転蹴りで遠方に吹っ飛ばして爆発させる。

 マイクを握った、音恩が怒りの表情で迷彩服のジャアク・マダニと、忍者装束のジャアク・コバエに向かって怒鳴る。

「みんなが楽しんでいるライブを邪魔するな! 町の害虫ども!」


 マダニが、ネジ巻きした爆弾を音恩に向かって放り投げる。 

「てめぇ、新人アイドルだか、格闘アイドルだか知らねぇが。先輩ヒーローに対する口のきき方を教えてやる!」

 音恩は手刀で飛んできた、小型コショウ爆弾を弾き飛ばすと。

 前方転回転でゴロゴロとマダニとの間合いを瞬時に詰めた、音恩は勢いよくマイクを持った手をを突き上げて、マダニの顎を下から強打する。

「『アイドルマイク拳』!!」

「ぐはぁぁ!!」

 不意を突かれて吹っ飛ぶマダニ、音恩は舌先をチロッと出して片目をつぶると、破損したマイクを路上に捨てる。

 仲間のマダニが、吹っ飛んだのを見たコバエが、音恩の回りを円周して分身を生み出す。

「どうだ、オレの分身の術を見切れるか」


 音恩は、両手で逆立ちすると両足をパカッとT型に開きコマのように高速回転して、次々と分身したコバエを蹴り倒していった。

「『おっぴろげ竜巻脚』!!」

「ぎゃあぁぁ!!」

 吹っ飛んでいく、コバエの分身たち。

「本体には、小足払い……ペチペチペチ」

 音恩の背後からユラッと近づいてきた、マダニが音恩の体を後ろから締めつける。

 音恩の体からメキッメキッという骨が軋む音が聞こえてきた。

「このまま、全身の骨を絞め砕いてやる!!」 

「砕く? この程度の力で? マッサージしてくれているかと思った」

「なに?」

 音恩は、両腕を広げてマダニの地獄の抱擁を外すと、向き合って空中に巴投げでマダニを放り投げた。

「『地獄巴空中五段投げ』!!」

「うぎゃあぁぁ」

 二度~三度と、空高く投げ飛ばされていくマダニの体が、ビルの壁に激突して。

 音恩は何事も無かったらように着地して、ナンパされていた女性に声をかける。

「大丈夫?」

 女性の姿が、愛玩用の小型犬チワワ怪人に変わる。身長三十センチほどのチワワ怪人が言った。

「助けてくれて、ありがとうだワン……ファンだワン」

「ありがとう、これからも応援よろしくね……みんなぁ、ライブ再開するよ。みんなぁ、ノットるん! 口角あげていこう!」

「ノットるん!!」


 再開された路上ライブで音恩の歌声が響く中、桜菓は路上にうつ伏せで倒れてピクピクしている、マダニとコバエをブーツの先で軽く踏みつけてから。

 魔法のホウキに乗って、その場から飛び去っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る