③ 怪人ヒーロー〔モリブデン〕
店の外に蹴り出された黄砂が、横座りでいじける。
「なによ、あたしがモリブデンさまの横に座ったから、マスターのジェラシー!?」
立ち上がった黄砂が、店の前に停めてあったモリブデンのママチャリ【黒烏号】〔くろがらすごう〕に嫉妬して蹴り倒そうとするのを窓の所に立って、ジッと見ていたおやっさんの呟き声が店の外に聞こえてきた。
「お客の自転車を蹴ったらどうなるか……わかっているだろうな、オレは一時期、怪獣退治の専門チームでチーフを務めていたコトもあるんだぞ」
凄む、おやっさんに黄砂は。
「ふんっ」
と、言って。オートバイに変形すると走り去っていった。
カウンターの中にもどった、おやっさんがモリブデンに言った。
「おまえも大変だな、ストーカーのオカマオートバイに、つきまとわれて」
「そうっすね」
何回目かのループさせたコーヒーを味わいながら、モリブデンは回想した。
【モリブデンの回想】
亜区野組織とヒーロー連合の一大決戦前──採石場に設置した、個人テント前の簡易布椅子に座り、焚き火で沸かしたポットの早朝コーヒーを味わっている、モリブデンの姿があった。
ソロキャンプをしているモリブデンは、朝焼けに染まる空を眺めてから、テント近くの平らな岩の上に腰を下ろしている、オートバイ乗りヒーローに向かって言った。
「どうですか、火の近くに来てコーヒーでも一杯」
「いらん! 怪人からの施しは受けん!」
「だからぁ、何度も言いますが。オレは怪人じゃなくて、あなたと同じヒーローですって」
「おまえみたいな不気味なヒーローがいてたまるか! オレは認めんからな!」
「だから、決闘状で、この場所にオレを呼び出したんですか」
「そうだ、怪人はヒーローに倒されるのが宿命だからな……それなのに、おまえは」
オートバイ乗りの仮面のヒーローは、モリブデンが設置したソロテントを指差す。
「どうして、指定した日時より一日も早く到着して、キャンプしているんだよ!」
「だって、待たせたら悪いと思ったもので」
「怪人だったら、もっと卑怯にオレの知り合いを人質にするとかしたらどうだ!」
「そんなコトできませんよ」
「まったく、調子狂う怪人だ──指定した時間だ、場所を移動するぞ」
「ここじゃダメなんですか?」
「正義の味方のパンチやキックを受けて、坂とか崖を転がり落ちて爆死する……ってのが怪人の定番なんだよ、ちったぁ空気読め!」
モリブデンと仮面のヒーローは、採石場の高い崖のような場所に移動した。
仮面のヒーローが、崖から下を見下ろして言った。
「ふふふっ……この高さから落ちたら怪人は、ひとたまりも……おいっ、腰を沈めてなに、戦闘体勢に入っているんだよ?」
両手を広げて低姿勢になった、モリブデンの口が開き深海魚のような鋭く細い牙が覗く。フルフェイスマスクのフェイスガードの中にある発光器官が光り。
モリブデンの肘と踵〔かかと〕から、湾曲した刃のような突起物が露出する。
背ビレと脇ビレを広げたモリブデンが言った。
「だって、空気読んで少し卑劣にって言ったじゃないですか……だから、先制攻撃してみます、オレのキックに耐えてください……トーッ、モリブデンキッック!」
飛び上がり仮面のヒーローに向かって、空中からキックを放つモリブデン、動揺する仮面のヒーロー。
「ち、ちょっと待て! 立ち位置が悪い! こんな位置でキックなんかされたら! ごぼっ!」
モリブデンのキックをモロに体に受けた、仮面のヒーローは。
「ウギィィィィ! なんで、ヒーローのオレが! ヒーローばんざ~い!」
そう叫びながら崖を転がり落ちて、派手に爆発した。
崖の上からモリブデンは、燃え盛っているヒーローの落下場所に向かって。
「大丈夫ですかぁぁ?」
と、声をかけ。
ヒーローを倒してしまったモリブデンの勇姿を木の後ろから見ていた【疾風の黄砂】は。
「すてきぃ、モリブデンさまに、あたしの上に乗ってもらいたいわぁ」と、目をハート型に煌めかせた。
回想からもどってきたモリブデンは、カウンターの中にいる改造人間のマスターに向かって。
「おやっさん、新しいコーヒーをもう一杯」
と、言った。
町の電気店から、カッパーロボの修理が終わったと連絡を受けた狂介とメッキは、電気店に向かった。
店に入ってきた狂介とメッキを、眼鏡の奥からジロッと見た店主は、手にしたハンダゴテの先で店の奥を示す。
「正常に動くかどうかのテストは済んでいる……勝手に持っていけ」
店の奥に目を向ける狂介。
「カッパーロボは、どこに?」
「ふん、そこに居るだろう……おまえの目は節穴か」
店の奥には、上半身日焼けした赤銅色の裸身で胸と額に和数字の『壱』と書かれた若い男が鉄アレイを持って、筋肉トレーニングをしていた。
老人姿のメッキが訝って、両目を細める。
「どこにも、ロボットなんていないぞ……変な兄ちゃんが筋トレしているだけだ?」
電気店の店主が、家電を修理しながら答える。
「その筋トレしている男が、リニューアルした【カッパーロボ】だ」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
筋トレをしながら若い男が、白い歯を見せて笑いながら狂介に言った。
「よっ、久しぶりだな狂介──博士から聞いたぞ、バラバラになっていたオレを運んできて修理してもらったんだってな、ありがとうよ」
狂介が町のロボット工学、発明おじさんに詰め寄る。
「どういうコトだ、説明しろ!?」
「カッパーロボは、以前から合体とか変形を希望していたからな……リニューアルした機会に、人間の男そっくりなアンドロイド形態に変形できるようにした」
「どう見ても、人間そのものじゃないか! 胸と額の和数字が無かったら、人間と区別できないぞ」
「ふん、よく見れば体にビスみたいなのが、ポツポツと付いているわい……心配するな、『壱』のアンドロイド形態は変形後の姿だ、普段はロボット形態をしておる」
「なんて厄介なコトを……ちょっと待て、今『壱』って言ったな。もしかして他にもいるのか?」
狂介がそう言った時、店のさらに奥から、銅色をしていて。
ドーム型の頭で、ガスボンベのような胴体をしていて、輪っかハサミの蛇腹アーム等身ロボット
が二体、前後に連結して出てきた。
前の銅色ロボットの額と胸には『弐』の和数字、後ろのロボットには『参』の文字が書かれている。
弐号ロボットが言った。
「壱号はいいよなぁ、アンドロイド形態に変形できて」
壱が言った。
「ひがむな、ひがむな、博士にも予算の都合ってもんがあるから」
壱がクルッと体を前後回転させると、弐や参と同じロボット形態に変わった。
壱が言った。
「ついでだから、狂介に縦合体を見せるぞ」
「おおっ!!」
三体のロボットが、トーテムポールのように繋がり。天井に頭が擦れそうになりながら、六本の蛇腹チューブ腕を振った。
腕を振る縦連結のカッパーロボを横目で見ながら、町の電気屋店主が狂介に言った。
「噂では、ジャアクマンの連中が箔をつけてヒーローたちに自慢するためだけに、魔王の息子を倒す目的で巨大白骨走行メカ【河骨】〔こうぼね〕の復活を目論んでいるらしい。
あんな巨大車輪のメカが、この商店街を通過したら大変なコトになる」
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