第四章・復讐の妖精怪人とハンター天使と必殺パンチの海中女

① 白玉栗夢

『白玉栗夢』は、和菓子屋の奥にある手術室の改造手術台の上で目覚めた。

 見上げる視線の先には、消灯した手術灯が見える。

(改造手術……終わったんだ)

 手術台の上で上体を起こした栗夢は、自分が裸なのに気づき裸体に掛けられていた。

 白いシーツで体を包むと周囲を見回して、手術前に自分が着ていた衣服と、その上に置かれた眼鏡を発見する。

 クリーニングされて、ワゴンの上にたたんで置かれていた下着と衣服を身につけて眼鏡をかけた栗夢は、手術室を出て和菓子屋の店舗の方へと向かう。

 店には、顔や手に包帯を巻いて片目だけを包帯の間から見せている男が、和菓子屋の法被を着て立っていた。

 栗夢が店の奥から、遠慮気味に店にいる包帯男に声をかける。

「あのぅ……」

「おっ、麻酔が切れて起きたか……術後の経過はどうだ? どこか体で痛む箇所は無いか?」

「特に痛む箇所は」

「そうか、改造手術は成功だな」

 栗夢が包帯男に質問する。

「あのぅ、どうしてそんな姿に?」

「覚えていないのか、手術終了後に麻酔で眠っている、おまえが寝惚けて壁に突き飛ばしたんだよ……怪人のパワーで」

「えっ!?」

「ちょっと片腕を持ち上げて状態を確認しようとしたら『やめてぇぇ! あたしに触らないで!』と言って、壁に突き飛ばされたオレはエジプトの壁画みたいになった」

「す、すみません……ぜんぜん覚えていないです」

「気にするな、術式中にはよくあるコトだ……早く、家に帰れ。改造するのに一週間かかったからな、イチゴ大福女の母親には改造手術の終了は伝えてある」

「はぁ、改造していただき。ありがとうございます」

 栗夢は和菓子屋を営んでいる、改造人間製造の天才外科医に頭を下げると、老舗の和菓子屋を出て自宅へと向かった。


 自宅に帰ると玄関先で出迎えてくれた、母親と弟がパーティークラッカーを鳴らす。

「お帰りなさい、改造人間になった気分はどう」

「お姉ちゃん、二度目の誕生日おめでとう」

 クモ糸のように、頭に引っ掛かったクラッカーの紙テープを取りながら、少し戸惑う栗夢。

「あ、ありがとう」

 弟がいきなり姉の腹にパンチを入れてきた。

 改造前だったら、痛みに腹を押さえて、うずくまるであろう弟のパンチを受けても栗夢は平気だった。

「お姉ちゃんすごい! 本当に改造されたんだね」

 パンチをされた腹を擦りながら栗夢は、改造されたコトを実感した。


 家のキッチンにある食卓の椅子に、母親と向かい合って座った栗夢は母親が煎れてくれたお茶をすする。

 弟は二階の自分の部屋にいる、栗夢に母親が質問する。

「ねぇ、改造手術どうだった? あたしが改造を受けた時から、技術も進歩していた?」

 栗夢の母親も改造人間で、元々はイチゴ大福を人間遺伝子で改造した怪人だった……朝になると、今でもたまに顔には大福の白い粉が出ている時がある。

 母親が伸びる色白の皮膚を引っ張りながら言った。

「この皮膚の下にはアンコとイチゴが詰まっているんだけれどね……見せてあげられないのが残念、ねぇ改造手術のコト教えてよ、どうだったの?」

「どうって言われても、麻酔で眠っている間に手術されて、起きたら終わっていたから」

「そっか……変身できるんだよね、人間形態から怪人体に変身してみせて」

「うん」

 椅子から立ち上がった、栗夢はクリーニングされた衣服のポケットを探る。

「確かポケットの中に変身の方法を書いてくれた紙が……あ、あった。えーと、脇の下の窪みを押して『変身』と言う……変身」

 栗夢の体を光が包み、リボンのようなモノが体に巻きつく──数秒後、白玉栗夢は怪人に変身した、変身した栗夢が言った。

「これが、あたしが希望した世にもおぞましい怪人の姿で……あ、あれ?」

 栗夢の姿はヒラヒラのコスチュームに身を包んだ、どこかの少女アニメキャラのような姿に変わっていた。

「なに、これ……これが、禍々しい怪人?」

 変身した娘の顔を凝視していた母親は、栗夢の顔の前を数回、手で払う動作をした。

「何しているのお母さん、あたしの顔に何かついているの?」

 首をかしげる栗夢の母親。

「別に顔面に貼りついているワケでもなし、画像処理? 何か変なガス吸った?」

「何も吸っていないけれど……あれ? 眼鏡なくても、はっきりと見えている。眼鏡は……あ、ちゃんとかけている。変身すると眼鏡が透明になって見えなくなるんだ」

 何気なく眼鏡を外してみた栗夢の意識がブラックアウトして、栗夢はそのまま床に倒れた。


 栗夢が数分後に意識を取り戻した時、変身は解除されていて、眼鏡もかけられていた。

 上体を起こして、なぜか怯えている母親に問う栗夢。

「お母さんが眼鏡かけ直してくれたの?」

「ちがう、栗夢が倒れたら、いきなりアレが柱の後ろから飛び出してきて眼鏡をかけ直したの」

 母親は柱の陰から、こちらをうかがっている。銀色の小型ロボットを指差す。

「なんなのアレ?」

「知らない」

 栗夢が母親に訊ねる。

「さっき、あたしの顔の前を手で払うような仕草をしたけれど……あの仕草の意味は?」

「変身したら、顔の目の位置にモザイクや目線が現れたのよ……声も変な声に変わっていたし」

「???」

「一度、和菓子屋さんにもどって直接聞いてみた方が良くない」

「わかった、そうする」

 栗夢は自分の体をよく知るために、近所の和菓子屋にもどった。

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