⑤ 黄色いカメ怪獣出現


 数時間後──国防、東雲、山吹の三人はガニィ星人姉妹のちゃぶ台が置かれた部屋にいた。

 三人の前にはTシャツと下半身下着姿で、ちゃぶ台を挟んで不機嫌そうな寝起き顔で胡座をかいている夜型活動ガニィ星人の『藍』がいた。

 なぜか西日が差し込む部屋で、冷めた茶をすすりながら藍が国防たちに言った。

「話しはだいたい、分かった。村を襲わせる侵略怪獣ねぇ、こちらとしたらメリットが無いわね。現在目覚めている侵略怪獣が一体いることは、いるけれど」

 藍に訊ねる国防。

「どんな怪獣だ?」

「用心棒怪獣で『黒井キング』っていう名前の、陸海空万能な怪獣なんだけれど」

「すごいじゃないか、そんな怪獣を所有していたのか。その黒井キングで、平和な山村を襲撃……村人を恐怖に」

「それがねぇ、弱点だらけの怪獣で──空を飛べば高所恐怖症で目眩がして墜落、海では溺れる、陸では立ち眩みや足がつる、おまけにビルの角に足の小指をぶつけるそそっかしさ」

 東雲がチラッと国防を見て呟く。

「なんか弱点だらけって、国防に似てない」

「オレと比べるな、しかし困ったな……こうなると打つ手なしか」

 藍が体をポリポリ掻きながら言った。

「いっそうのコト、貧困で困っている巨大ヒーローに金でも渡して、村を襲うように頼んでみたら?」

「いやいや、それやったらもう正義のヒーローじゃないだろう」

 山吹は正義の巨大ヒーローと正義の巨大ロボットが戦う場面を想像して肩をすくめた。


 夕暮れに染まったガニィ星人の部屋から出て、日中の商店街を歩く国防たちはビネガロンを連れ戻す方法を、アレコレ思案し続けていた──国防が思いついたアイデアを適当に出す。

「巨大な宇宙戦艦や宇宙母艦が村を攻撃するってのはどうだ、隕石爆弾を雨のように村に降らせて」

「それは被害が大き過ぎるんじゃない、軽くビネガロンが戻るように仕向ければいいんだから……そこまでやったら本当の戦争だよ」

「それなら、モノホンの人類の戦闘機とか戦車で村を攻撃するとか」

「そんな殺傷力が高い軍隊兵器所持している国がどこにあるの……魔王家の軍隊やイロコイ国でさえ、できる限り殺傷力が皆無に近い兵器だって言うのに……それに軍隊を蹴散らす正義のロボットって後々の印象悪いよ」

 山吹は機動戦闘車や多連装ロケット発射車両や戦車を蹴飛ばしたり、持ち上げたりして戦闘機や大地に向かって投げつけている正義のロボットを想像して肩をすくめた。

「万策尽きたな、いきなりビネガロンの村に地底怪獣でも現れればいいのに」


 国防がそう呟いた時、傍らの電器店の店壁一面に並んだ多数のモニター画面に一斉に臨時ニュースの文字が並び。

 地中から土埃を巻き上げて現れる、スッポンのような黄色い怪獣の映像が映し出される。

 画面のテロップに『○○地域に地中怪獣現れる』の文字が示され、女性ニュースキャスターの声が聞こえてきた。

《えーと、また温泉好きな黄色いカメ怪獣が現れたので怪獣の進行方向に住む方は、適当に避難してください》

 ニュースキャスターの女性も、またかといった顔で緊張感はまったくない。

 ただ、国防たちだけがカメ怪獣が現れた地域名に注目していた。

「ビネガロンがいる村の近くじゃないか!」

「なんという、ご都合主義な偶然!」

「国防、もちろん行くんだろう……ビネガロンのところに」

「もちろんだ! ビネガロンチーム出動!」

「ラジャー! ニャンダバダバ」

 山吹の頭の中には、昔の特撮番組で戦闘機の出撃時にBGMで流れる、男性コーラスの勇猛なメロディが繰り返し流れていた。


 黄色い地中怪獣出現のニュースは、魔王城地下の亜区野組織、総司令室でも分割モニターに映し出されていた。

 移動していくカメ怪獣『スッポンドン』を見ながら、瑠璃子が隣に立つ荒船に訊ねる。

「今回も地上で温泉を堀り当てて、温泉巡りをするつもりでしょうか?」

「でしょうね、まぁ『スッポンドン』ならたいした被害も出さずに移動しますから、放っておいても大丈夫です」

 モニターいっぱいに、総司令室の通信に割り込んできた。下膨れで白塗りの平安時代の公家のような男性の顔が映る。

《おほほほっ、誰が白塗りの化け物でおじゃるか》

 荒船が、モニターに映る、頭にアリの触角が生えた地中人に言った。

「これは、お久しぶりです……地中人国の帝〔みかど〕誰も化け物とは言っていませんが?」

《そうでおじったか、マロの空耳でおじゃるか》


 地中人とは、その昔、源氏の追撃から逃れるために地下に逃げのびた平家の末裔で。頭にはアリの触角がついていて……何者かからの人為的な遺伝子操作が行われていると思われるが、地中人たちはそのコトに関しては誰も触れない。


 白塗りの帝が言った。

《また、娘の『京紫の君』のペットで気分が沈んだスッポンドンが、気分転換を求めて地上に出てしまったでおじゃる……地上人の適度な対応をお任せするでおじゃる》

「わかりました」

《ほほほほっ、荒船どのは本当に信頼できる地上人の盟友でおじゃる。時に京紫の君もスッポンドンと一緒に行方不明でおじゃるが、知らないでおじゃるか?》


 国防たちは、山吹がレンタルした自転車をこいで。スッポンドンの出現した地域へと向かっていた。

 汗だくで山道で、ペダルをこいでいる国防が山吹に質問する。

「どうして、レンタカーじゃなくてレンタサイクルなんだ?」

「だって国防、自動車だと酔うだろう」

「納得、おっ、カメ怪獣の背中が見えてきた」

 スッポンドンは、地面を掘って湧いた源泉の池に浸かり、タメ息を漏らしていた──黄色いカメ怪獣の頭上には灰色の雲が渦を巻いている。

《はぁ……虚しい》

 ローテーションで鬱々な曇り怪獣だった。

 温泉池から出たスッポンドンは頭に手拭いを乗せた格好で、トボトボと別の源泉を目指して歩きはじめた。

 スッポンドンの進行方向を見て慌てる国防。

「そっちじゃない、ビネガロンがいる村とは反対方向だ。おーい、良質な温泉はこっちにあるぞ! こっちゃこい!」

 国防の声に方向転換をしたスッポンドンは、タメ息を漏らしながら、ビネガロンがいる村の方向へ歩みを進める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る