④「オレにかまうな」

 翌日──マオマオが通う学園のグランドに国防はいた。

 陸上トラックを周回している体操着姿の生徒たちを、ピンク色のジャージ姿で見ている体育教師の『斧石ピンク』の近くに立った国防がピンクに話しかける。

「なあ、頼むよ……亜区野組織の巨大ロボットで、ビネガロンがいついている村を襲ってくれるだけでいいんだからさぁ。

亜区野組織のロボット使い幹部『デスミント』なら、簡単だろう……それとも元・正義の戦隊『恋愛戦隊恋戦ジャー』の『恋戦ピンク』の名で頼んだ方がいいか」

 斧石ピンクは、国防を横目で睨みつける。

「学園にいる時は、どちらの名も口にはするな! 今のあたしは体育教師の斧石ピンクだ」

 斧石ピンクは、陸上トラックを周回している生徒に向かってホイッスルを吹く。

「そこ、怪人化して走らない! 他の人間生徒が困るでしょう。

こらっ! サイやライオンの怪人になって前方を走っている人間の生徒を追わない!!」

 斧石ピンクは国防に吐き捨てるように言った。

「悪いな他当たってくれ、機械友は出撃させられない」


 同時刻──東雲は春髷市の釣り堀にいた。

東雲が話しかけているのは釣糸を垂れている。亜区野組織、怪獣ブリーダーの『紫獣』だった。

「どうしても、怪獣をビネガロンがいる村で暴れさせるコトはムリですか?」

 作業着姿でサングラスをした若い男、紫獣は首を横に振る。

「ダメだな、そんな理由で生身の怪獣たちを、金属の化け物とは闘わせられない……他を当たってくれないか」

「そこをなんとか」

「君もしつこいなぁ」

 釣竿が大きくしなり、紫獣は釣り堀からアノマノカリスを釣り上げた。

 釣り上げられ、床で暴れるアノマノカリスに、紫獣の背中が割れて粘液にまみれた虫の腕のようなモノが現れて、アノマノカリスを串刺しで気絶させると背中にもどる。

 紫獣の本体は人間の皮を被った『画皮』という名の未知生物だ。東雲が気絶したアノマノカリスを指差して紫獣に質問する。

「釣ったそれ、どうするんですか?」

「焼いて食べるんだよ、フライや刺身にしても美味いぞ」

 ポリバケツに縛ったアノマノカリスを放り込んで紫獣が言った。

「田舎で暴れさせるなら『戦慄戦隊・ジャアクマン』の巨大ロボット白骨機体『オレ・グロイゼ』でも良くないか? 見た目は悪のロボット風だから」

 東雲は、オレ・グロイゼの牙があるユニコーンが白骨化したような頭部や、ヘビのようにくねる長い骨首を思い出して、悪寒のする体を両腕で抱き締め首を横に振る。

「ムリ、ムリ、ムリ、あの不気味なロボットだけは絶対にムリ!  コードやパイプが血管や臓物のように白骨機体の肋骨内や腹にあって、黒い球体コアの操縦席『ハラ・グロイゼ』が見える、あの機体だけは生理的にムリ!」


 山吹はマオマオの魔王城がそのまま移ってきた、魔王家屋敷の応接室で瑠璃子が用意した紅茶をすすりながら。

 執事の『荒船・ガーネット』に巨大化して村を襲うように交渉を続けていた。

 山吹のスマホには、すでに国防と東雲からの巨大ロボットと怪獣の交渉失敗の連絡が届いている。

 山吹が荒船に頭を下げる。

「どうしても、巨大怪人化して村を襲ってはいただけませんか?」

「協力したいのはやまやまですが……怪人で巨大化するのには、それなりのリスクもありますので」

 荒船は頭部だけをナゲナワグモ怪人化させると鋏角を蠢かす。

 山吹が言った。

「その昔、巨大怪人化した荒船さんが、巨大ロボットを宝蔵院槍で串刺しにして頭上に掲げた出来事は今でも伝説として語り継がれています……ビネガロンを串刺ししないでもいいので槍術で、少々村人を震えさせてもらえれば」

「あの串刺し事件は怒りで我を忘れた、わたしにとっての黒歴史です……お力になれずに申し訳ありません」


 腕組みをした山吹は、少し考えてから言った。

「それなら、未確認生物巨大生物の『インカニヤンバ』や『ネッシー』や『ナウエリート』を貸してもらえれば」

 山吹のティーカップに二杯目の紅茶を注ぎながら、瑠璃子が言った。

「ここでは存在を確認されていますから、未確認生物〔UMA〕という呼び方は間違いですね。真緒さまは親しみを込めて彼らを『優魔』と呼んで彼らも、その呼び名を気に入っています……ネッシーやナウエリートみたいな水棲優魔は、総じてシャイで人見知りですから村を襲うようなコトはできないですよ……インカニヤンバは土用丑の日が近づくと、ビクビクするほどの気が弱い巨大ウナギですから村を襲わせるというのはちょっと」

 瑠璃子はスカンクに似た白黒模様の、ゾリラという生物怪人にメイド服姿で変わって話し続けた。

「ちなみに魔王城敷地内にいる恐竜やドラゴンたちにも、B級モンスター映画のような市町村に迷惑をかける暴れはさせたくないです……お引き取りください」

 本当に困り顔で山吹が言った。

「う~ん、困りましたね」

 山吹の困っている様子を見かねた瑠璃子が助言する。

「ガニィ星人姉妹の方を、あたってみたらどうですか……彼女たちなら侵略怪獣の一体や二体くらい所有していますよ」

「そうですね、国防と東雲に合流してガニィ星人のアパートに行ってみます」

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