③「オレは正義の農耕ロボットとして生きる」

 頭にティアラを乗せた天才ネズミ王女『鉛谷ズ子』〔なまりだにずこ〕は、ハムスターの手で広げた設計図を眺める。

 ズ子はドブネズミの国王と王妃に育てられた、ゴールデンハムスターだった。


 ズ子の近くには、ケットシーの猫王子でズ子の恋人の『フレッシュ・三世』がゼーゼー言いながら猫背で後ろ足立ちしている。

 度が強いビン底眼鏡、頭には王冠を被り、黒革のライダーライディングパンツと革のブーツを履いた、ガリガリの貧弱な二足歩行の白猫だ。


 ズ子とフレッシュから少し離れた切り株には、魔王家にペットのように入り込んでいる。

 ケットシー族の黒猫『白夜』が座り、缶ビールを飲みながら、英字新聞を読んでいる。英字新聞を読む白夜の呟く声が聞こえてきた。

「ほぅ『本家イロコイ国と元祖イロコイ国をそれぞれ統治する兄と弟の第三百次口喧嘩戦争が勃発!!』両国民は、三百回を記念したイベントを開催か……平和だなぁ」

 ズ子が図面を見ながら言った。

「この『超人覚醒銃』を完成させるためには、どうしてもレアメタルが必要でチュウ。

ちょうど、あそこにアホ面の人間が立っているから聞いてみるでチュ──おい、人間教えるでチュ。この村で銀河探偵と宇宙怪人が闘った場所を」

 ハムスターから、アホ面と言われた国防はムッとした顔でズ子に向かって、あっかんべーをする。

「知っていても誰が教えるか、ベー」

「なんでチュか!! その態度は!! 人間の分際で!! フレッシュ王子、やっちゃってくださいでチュ」

 ズ子にベタ惚れのフレッシュ三世が、特殊なネコ缶を開けて食べると、王子の体が筋骨隆々のケットシーに変わる。

 フレッシュの体から陽炎のような揺らぎが沸き上がる。

「こぉぉぉぉっ」

 ボクシングポーズで構えてハムスターやネコに身構える国防。

「やんのか!! 相手になるぞ!!」

 さすがに人間がハムスターやネコ相手に、本気で拳を握る低俗な状況はマズイと感じた山吹が両者の間に割って入る。

「まあまあ、国防も落ち着いて……確か記憶だと、銀河探偵と宇宙怪人の闘いはあの山の麓にある、少し開けた場所のはずですよ」

「そうでチュか、そういう風に素直に教えてくれればいいんでチュよ人間。行くでチュよ王子……何か乗り物が欲しいでチュね」

 ズ子が指笛を吹くと、セーラー制服姿の女子高校生が動物のように四つ足走りで走ってきてズ子の前に止まった。

 女子高校生は「チュウゥ」と鳴く。ズ子が試験的にネズミの心を植えつけた人間だった。

 薄汚れた顔に、破れた制服を着ていて、カエルのような格好でしゃがんでいる。

 肉体強化ネコ缶の効果が切れたフレッシュ三世が、貧相なケットシーにもどってネズミ女子高校生の背中によじ登る。

 ズ子とフレッシュ王子の元親衛隊隊長で、王子の幼馴染みで、人間界へ侵略尖兵で派遣されていた白夜が女子高校生の背中に飛び乗ると。

 ズ子たちを背中に乗せた女子高校生は一声。

「チュウゥゥゥ」

 と鳴いて、四つ足走りで、山吹が教えた山の方へと走り去っていった。

 その様子を見て東雲が一言ポツリと呟いた。

「悪趣味だな、ネズミの王女は」


 畑にしゃがんだ格好でストローハットを被り、首にタオルを引っかけた巨大ロボットビネガロンは、ミニチュア園芸のような農作業をしていた。

 トラクターを運転して通りかかった、初老の男性がビネガロンに話しかける。

「精が出るねぇ、ビネ吉」

 顔を上げて額の汗を手の甲で拭くポーズをするビネガロン。

《いろいろと農作業を教えてもらいましたから》

「今、植えているのはなんの苗だい?」

《バロメッツの苗です、秋には実が割れて生まれてきた羊を収穫できます》

「そうか、あまりムリするなよ、むっ!?」

 いきなりトラクターが変形して立ち上がり、ロボット二脚、ロボット二腕のトラクターに変形する。

 トラクターを運転する初老男性は、殺傷能力が皆無なリングベルト給弾の機関銃を畑に群がるカラス群に向けてぶっぱなす。

「こんのぅ、いたずらカラスども! オラの畑を荒らすでねぇ!」

 初老の男性はカラスを追っ払いながら、変形したトラクターで走り去っていった。


 ビネガロンが農作業を続けていると、足元から国防の声が聞こえてきた。

「探したぞ、ビネガロン」

 ビネガロンはチラッと国防たちを見てから、無視するように農作業を続ける。

「おい、聞こえているんだろう! 迎えに来た『迷彩ベース』に帰るぞ」

《オレのコトは放っておいてくれ……オレはこの村で赤い農業ロボットとして生きていく》

「なに勝手なコト言っているんだ! おまえ、太平洋に水平線から昇る朝日を見にいったんじゃなかったのか? どういう経緯でこうなった」

《なぜか、見たのは海に沈む夕日だった……ナビゲーションを無視して大型バイクで疾走したら日本海に到着した》

 東雲が小声で「日本海側でも場所によっては海からの朝日も可能だけれどな」そう呟く声が聞こえた。

《オレは日本縦断の途中で、この村で行き倒れ……田中伊藤鈴木中村渡辺山田Jrさんに助けられ》

「ち、ちょっと待て。ロボットの行き倒れにツッコミはしたいところだが……複数の村人に助けられたのか?」

《助けてもらったのは一人だ、さっきまで。田中伊藤鈴木中村渡辺山田Jrさんは、変形するトラクターに乗ってカラスを追い払っていた── 田中伊藤鈴木までが苗字で、中村渡辺山田Jrが名前だ》

「また、ややこしい……本当に帰る気はないのか?」

《オレはこの村に骨を埋める覚悟だ! おまえたちは帰れ帰れ! ヲタクの巨漢男とボーイズラブ妄想女と、閉所恐怖症で、ロボット操縦していて乗り物酔いでマーライオン化する痩せすぎパイロットはいらねぇ》

「そうか、このわからず屋が。東雲、山吹、帰るぞムダ足だったな」

 スタスタとビネガロンに背を向けて歩き出す国防を、東雲と山吹が慌てて追う。

 歩きながら山吹が国防に質問する。

「本当に、ビネガロンを残して帰るのか?」

「仕方ないだろう、本人がもどる気がないんだから」

 ちょうど、後方から走ってきた村営バスに向かって国防が片手を挙げると、バス亭でもないのにバスは停まり国防たちは乗り込んだ。

 バスの座席に座った東雲が言った。

「この村を巨大ロボットとか怪獣が襲ってきたら、ビネガロンの考えも変わって帰ってくるんじゃない? うちらの必要性を感じて」

「自立型人工知能のロボットにパイロットの必要性か……う~ん、うぷっ……ヤバい。バスを停めろ! 早く!」

 両腕を組んで考えていた国防は、乗り物に酔って緊急停車したバスから慌てて降りると……そのまま道端で豪快にリバースした。

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