歩み

「私達はどこに向かっているのですか?」


私は、手を握られながら、彼女の後をついていく。


「私たちがずっと一緒にいられる場所です。」

彼女は明るい声で答えた。


ずっと一緒にいられる場所、という言葉が気になった私は、

「私達はこれまで一緒にはいなかったのですか?」

と聞いた。


彼女は低めの声で返事をした。

「そうですよ、、そうです。私達の愛はずっと邪魔をされてきました。本当に忌々しい。」


何か訳があって逃避行中のようなものなのだろう。それはきっと、私にとっても、彼女にとっても良い思い出ではないのだろう。


私がそんなことを考えていると彼女は、


「そんな話より、楽しい話をしましょう。

私たちが出会った日のことは覚えていますか?」

彼女はさっと話を変えた。


「いいえ、すいません。あまり…」


と言うと彼女は、


「あまり…だなんて、ふふ、全く覚えていないのではないですか?」


彼女にはわたしのことなんてお見通しのようだ。


「すいません、、」

と謝ると


「あら、謝ってばかりですね。そんな調子じゃちっとも楽しくないですし、幸せが逃げますよ。旅は長いのですし、ゆっくり思い出せば良いんです。」


はにかんでいう彼女の顔は眩しく見えた。


なんて強い人なのだろう。夫は記憶がなく、ここがどこかわからないのに、人を気にかけ、笑いかけることができる。なんて良い妻なのだろう。私は彼女のよき夫であったのか。そんなことを気にしながら、


「ありがとうございます。良ければ、出会いを教えてくださいませんか?」


とお願いすると、


「ええ、もちろん。

では、お話ししましょう。」


そして、彼女はまた明るい口調で話を続けた。

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