新生活

 ユウトとアヤナは、街の物価を調べていた。

 路銀ろぎんがどれくらいもつのか知りたかったからだ。


 ユウトが言う。

「宿、酒場、食材はそれなりだね。ギルドの有料セミナーが高額すぎただけだね。

 公営の教育施設がないから、教育費用は青天井になるのか」


 アヤナは、ユウトが書いてくれた数字とアルファベットらしきものの表をみて、文字の勉強をしながら、ユウトについて行った。


 アヤナが言う。

「どれくらいもつのかな? ギルドで任務請け負えばいいお金になるの?」


 ユウトが言う。

「かなりもつけど、先を見据えると節約しないとダメだね。

 ギルド任務は推奨等級で段違い。低い等級だとギルド任務だけじゃ食べてゆけないと思う」


 アヤナが言う。

「アルバイトとかあるの?」


 ユウトが言う。

「ギルドに日雇いの求人票があったよ」


 アヤナが言う。

「私弱いし、足引っ張ると申し訳ないから、日雇いに専念しようかな?」


 ユウトが言う。

「ダメ。とりあえず、7等級上の瑠璃等級を目標にしてみよっか。

 最終目標は銅等級にしておこう。

 銀等級以上は審査が厳しくてかなり難しいみたいだから。

 銅等級でも、かなり立派な冒険者らしいよ」


 アヤナが言う。

「うん。わかった。

 てか、ユウトは、いきなり銀等級なんだよね。

 いいなぁ、凄いなぁ ……って、どしたの?」


 ユウトが言う。

「いあ、可愛いなって思って」


「え?」

 アヤナが赤面する。


 ユウトが言う。

「ごめん、不意打ちすぎたね。

 この短時間でかなり雰囲気変わったからつい……」


 アヤナが言う。

「ユウトって、天然なところあるよね。

 女子から告られたこと何回かあるって噂を聞いたことあるけど。

 なんとなくわかった」


 ユウトが言う。

「あはは。そうか。気を付ける。

 ついにアヤナにも乙女心がわかるようになってきたか」


 アヤナが言う。

「もーそれ、感じ悪いよ?」



 ユウトとアヤナは冒険者ギルドに戻り、情報収集することにした。

 ギルドの2Fに相談窓口があったので、どんな任務を、どんな準備をして臨めばよいのか相談してみることにした。


 相談窓口のラミアのお姉さんが、二人の冒険者証を見ながら言う。

「銀等級と琥珀等級のカップルか……初々しいわねー。

 彼女ちゃんの等級上げ優先だと、2〜3等級程あげて、大理石等級か珊瑚等級の任務を狙ってみるのがいいかも。

 多少危険はあるけど、彼氏くんがいれば全然問題ないと思うよ。

 準備については、任務ごとに受付窓口に相談してもらうと確実かな。

 それでも心配なようなら、酒場の先輩冒険者さんに聞いてみるといいよ」


 ユウトが言う。

「わかりました。ありがとうございました」


 アヤナが言う。

「ありがとうございました」


 ラミアのお姉さんが言う。

「いえいえ、またよろしくねー、いつでもおいでー。

 彼女ちゃん、素敵な彼氏くんだねー。しっかり捕まえておきなよー」


 ユウトとアヤナは1Fの掲示板前に移動する。


 アヤナが頬を赤らめながら言う。

「ギルドの窓口のお姉さん達がもれなく恋愛脳なのは、なにか規則でもあるのだろうか?」


「みんな気さくで良い人だよね」


 アヤナが言う。

「で、よさげな任務あった?」


「『巨人族の産業廃棄物、レッサーミニゴーレムの駆除』とかどうかな?」

 ユウトが依頼書を見せる。


 アヤナが言う。

「……さっぱりわからないから、ユウトに任せるよ」


「わかった。とりあえず、この紙持って受付で聞いてみよう」


 アヤナが言う。

「何から何まで任せちゃってごめん」


「いいよ。ボクのワガママでアヤナに女子やらせちゃってるのだから、気にしないで」


 アヤナが言う。

「ユウトのせいじゃないよ、あの女神様のせいだから」


「あはは」


 二人は空いている受付に向かう。

 アヤナが言う。

「できればサキュバスのお姉さんの所にして欲しいな。

 アドバイスもらえるかも」


「そうだね、そうしよう」


 受付係のサキュバスのお姉さんが言う。

「いらっしゃい、任務の受付ですか?」


 二人はサキュバスのお姉さんに促され、椅子に座り、冒険者証を提示する、

 

 ユウトが言う。

「この任務の詳細を伺いたいと思って。

 連れのサキュバスの等級上げをしたいのですが、

 二人でこの任務を受けても大丈夫でしょうか……?」


 サキュバスのお姉さんが言う。

「良いと思いますよ。

 初心者向きで前衛・後衛共にスキル回しの練習にもなりますのでおすすめです。

 ただ、敵がリンクして大量に押し寄せてくるので、彼氏さんがタウント等のスキルで、しっかり敵の注意を引き付けてくださいね」


 アヤナが言う。

「あの、私、サキュバスの初心者なので、アドバイスいただけませんか?」


 サキュバスのお姉さんが言う。

「そうですね……彼女さんは、魔力の使いすぎで体がオーバーヒートしないように気をつけながら、氷結系のDoT(継続ダメージ)スキルとチャームによるデバフ、そしてバフを切らさないようにスキル回しをしてみると良いでしょうね。

 エナジードレインによる彼氏さんのHP管理も意識するとさらに良いですね。

 危険なときは、彼氏さんがスキルで一気に薙ぎ払えば、大丈夫です。

 彼女さんは、オーバーヒート対策に氷結系の魔法を多用してくださいね。

 サキュバスは火照りやすいですから、自分の体温管理も重要な仕事ですよ。

 体がオーバーヒートすると気を失ってしまいますのでくれぐれもご注意を。

 魔力が枯渇したら、彼氏さんからマナドレインすればすぐ回復しますからね。

 彼氏さんの魔力量と魔力回復速度なら、全く問題ないですよ。

 最悪の場合は、彼女さんは上空に退避して、その間に彼氏さんに殲滅してもらうようにしてください。

 頼りになる素敵な彼氏さんがいてよかったですね」


 アヤナが言う。

「ありがとうございます。勉強になりました」


 ユウトが言う。

「では、さっそく任務を受けたいのですがどうすれば良いでしょうか?」


 サキュバスのお姉さんが早速手続きをして、地図を渡してくれた。

「受領いたしました。あとは現地で任務を遂行するのみです。

 道中も危険なので、できるだけ、街道沿いに移動するようにしてくださいね。

 それでは良い冒険を、いってらっしゃい」


 二人が答える。

「「いってきます」」



……


 

 二人は、ギルド併設の酒場で食事を取った後、目的地に向かって街道を歩いていた。


 ユウトが言う。

「移動時間が結構あるね」


 アヤナが言う。

「馬に乗ってる人が結構いるよね、維持費とかどうなのかな?」


 ユウトが言う。

「翡翠等級の任務くらいでトントンじゃないかな?

 銅等級くらいにならないと儲けはでなさそうだね」


 アヤナが言う。

「銅等級か……14等級もあげないといけないのか。

 それまではひたすら徒歩なんだね。しかも、私、足遅いしな。

 ユウトだけだったら最初から馬に乗れたのに……ほんとごめん」


 ユウトが言う。

「そういうのは気にしないでね。

 それに乗合い馬車もあるから、もっと早く移動手段が増えるようになるよ」


 アヤナが言う。

「そうなんだ。それはたすかる。

 ユウト詳しいね。いいなぁ、私も頑張って文字を読めるようにならないと」


 アヤナが、文字の勉強用の紙を取り出す。


 ユウトがアヤナの手を握って言う。

「転んだら危ないから、手を握っててあげるね」


 アヤナが頬を赤らめる。


 アヤナが言う。

「………。

 相変わらず天然のイケメンだね。

 勘違いしちゃいそうだよ」


 ユウトが言う。

「あのさ、ボク考えてたんだけど」


 アヤナが言う。

「なに?」


 ユウトが言う。

「もう運命共同体みたいなものだし、付き合おっか?」


 アヤナが赤面しながら言う。

「え? いきなり何言ってんの?」


 ユウトが言う。

「ボクじゃダメ?」


 アヤナが言う。

「ダメじゃないどころか、ポンコツな私なんかでいいの? って感じなのだけど……」


 ユウトが言う。

「ポンコツなんかじゃないよ。

 アヤナのおかげですごく楽しいよ?

 それにアヤナはとても可愛いし。

 誰にも取られたくない」


 アヤナが言う。

「……どう答えて良いか、困っちゃうのだけど。

 それに、私、ついさっきまで男だったんだよ?

 相手は元自分だよ?」


 ユウトが言う。

「ボクは、さっきまで女だったから大丈夫。

 元自分とは思えないほど今のアヤナは可愛いし。

 ね? 付き合お?」


 アヤナが頬を赤らめて言う。

「……う……うん」


 ユウトが言う。

「可愛い、愛してる」


 アヤナが言う。

「……バカ、恥ずかしすぎるよ」


 ユウトが言う。

「本当だよ?」


 アヤナが言う。

「……ありがと」


 ユウトが言う。

「アヤナの気持ちも聞かせて欲しいな」


 アヤナが恥ずかしそうに言う。

「……私も好きだよ、ユウトのこと。

 優しいし、頼りになるし。

 てか、私一人じゃ何もできないし。

 ユウトがいないとほんとうに困る。

 これからもよろしくね」


 ユウトが言う。

「ありがと、ボクこそよろしく」


 アヤナは、嬉しそうにユウトの腕に自分の腕を絡め、身を寄せた。


 アヤナは吹っ切れたようにいう。

「えへへ、実はさっきからユウトに甘えたかったんだー。

 私ちょろいな……サキュバスになったせいかな……?」



 目的地までの長い道のりも、今の二人には、あっという間の幸せな時間だった。



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