第5話

高城さんは私が言ったことを信じたのだろうか。

それともここに誘うための嘘だと気付いているのだろうか。

彼の反応を見ても分からないのだ。

ベットに私を置くと、電気を暗くしてくれて

何かを急いで探している。

私はただそれを横目に見ていた。


「あ、あった」


はい、と渡してきたそれは、冷たいお茶。

なるほど。ホテルの冷蔵庫にはお茶が置いてあるのか。

高城さんにお礼を言うと、私は2口ほどお茶を飲んだ。


「大丈夫?ちゃんと深呼吸して、落ち着いて」


高城さんは気付いているのかいないのか、心配そうに私に布団をかけてくれる。

寝ころんだままの私は彼の目をじっと見つめた。

そのことに気付いた彼さんは、少し顔を赤くした後に目を逸らした。


「俺、あっち座ってるから何かあったら呼んでください」


目も合わせずに私に背中を向けた高城さん。

私が体を起こした時に鳴ったベットの音に、彼の動きが止まる。

直立したままの高城さんの手を掴んでもこちらを向かない彼。

少しの沈黙の後、先に口を開いたのは彼の方だった。


「…ここにいるので休んでてください。」

『嫌です』

「悪化しちゃったら大変です…」


もし今まで気付いてなかったとしても、流石にもう気付いているだろう。

彼の手をグッと自分の方に引っ張ると、彼はバランスを崩してベットに座った。

手を掴んだまま、顔を寄せれば彼の顔は一気に赤くなる。


『嘘ですよ』

「…」

『高城さんとここに来るための嘘なんです』


何も言えなくなった彼の首筋を指先でなぞると、それに体が反応した。

目を合わせようとすれば逸らされ、それを可愛く思った。

首筋や鎖骨に唇を寄せ、私はわざとリップ音を響かせる。

彼の服の中にするりと手を入れようとした時、


「あ、あの…!」


私の腕を掴んだ彼の声が部屋に響いた。

このままいけると思っていた私は、予想外の展開に小さく声が漏れた。

彼は顔を赤くしたまま、私の目をじっと見つめる。


「あの…、佐々木さんはいつもこういうことをしてるんですか」

『…。してるって言ったら、高城さんはしてくれるの?』

「しません」

『じゃあ、高城さんだけって言ったらしてくれるの?』

「そうじゃなくて!」


高城さんは自分の大きな声にハッとしたようで、私にすみませんと謝ると

1度大きく息を吸い込んだ。


「もし…、佐々木さんが誰でもよくて、たまたま俺がそこにいて選ばれたのだとしたら、佐々木さんにとってはすごく面倒くさいことを言います」

『はい…。』

「まだ、ちゃんと会って数時間です。でも最初に会ったあの日から、俺は佐々木さんを好きになるって思った」


じっと見つめてくる彼の言葉は思ってもみなかったもので、私は言葉に詰まった。


「困らせてるのは分かってます。でも、だからこそ、ちゃんとお付き合いしてからこういうことをしたい…です。」


彼の真剣な顔や言葉に私の心臓が熱くなった。

だけどそれも直ぐに現実を思い出して冷めていく。


『高城さんの言葉、とても嬉しいです。でも…』


上手く言おうとする私の目が潤んでいくのが分かる。

結局続く言葉を出せないまま涙があふれた。

謝る彼に私は違うと何度も繰り返すが声が上手く出せず、首を振る。

悪いのは彼じゃない。全ては私が悪い。

私とあいつが悪いのだ。

泣き止むまで何も言わずに背中を撫でてくれる彼の手が温かく、思わず彼に心を許しそうになる。

私の重荷を彼に打ち明けたい。

きっと今後、そんな風に思える相手は現れるのだろうか。

これから先も、私はこれを1人で背負わなきゃいけないんだろうか。


『私…』


私の声に心配そうに、優しく高城さんが微笑んだ。

あぁ、私はこんな優しい人にこんないらない話をしようといてるんだ。

その考えは私の頭の中から消えなかった。

だけど、1度出始めた私の言葉を止めることが出来なかった。






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高校生最後の日。 つなさらだいこん @tsunasaradaikon

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