第4話

あれから2日、土曜日の昼に前と同じ駅で彼を待つ。

時計を見ると10分前。

少し早く着き過ぎてしまった。

待ち合わせという行為になんだか気恥ずかしくなってきてしまい、落ち着かせるように前髪をささっと整えた。


「お待たせ!ごめん遅くなって!」

『ううん、私が早くき過ぎただけだから気にしないでください』


前からやってきた彼に笑顔を向けると、彼も同じようににこりと笑った。

どうやら私はこの笑顔に弱いみたいだ。

彼の名前は高城 浩太たかぎ こうたさん。ここから2駅先の大学に通っている大学2年生。

あの日から今日までに分かってることはそれだけ。私は大学1年生と嘘をついた。


「何食べたいか決まりました?」

『うん!前テレビでやってたパスタ屋さんがここの駅らしくて、食べたいなって思って!』

「あ!あのランキングの番組?」

『そう!観てました?』

「観てた観てた!そういえばここの駅でしたね」

『すごく楽しみで。あ、あそこ曲がった所です』



曲がり角を曲がり目的のお店に到着。

その光景に思わず口が開いたままになってしまった。


『テレビの…影響ですかね?』


そこには長蛇の列。

流石にこの列を並ばさせる訳にはいかないし、せっかく歩いて着いた場所なのに…。


『すみません。少し考えれば分かることだったのに…。別のお店探しますね。』

「佐々木さんさえ苦じゃなければ折角だし並びません?」


謝る私など気にもせず、彼はいつものようににこりと笑ってそう言った。


『全然…、苦じゃないです。でも高城さんは?』

「俺、楽しみのために並ぶの好きなんです。それに今日は佐々木さんもいるし、楽しい時間だな…って…。すみません今の忘れてください」


高城さんの顔はみるみるうちに真っ赤になって、私の視界から遮るように手でガードしてきた。


『ははは、高城さんて可愛い人ですね』


私の言葉に高城さんは顔を真っ赤にしたまま、腑に落ちないような表情を浮かべた。


「うるさいです。」




並んでる時も楽しい時間は続き、お互いのことを話していた。

高城さんは映画が好きらしく、食事の後に映画も観に行く事に決まった。


「…………」

『…………』


映画館に行く途中、ホテル街の道を通ってしまい、気まずくなってしまう。

マップをみながら誘導してくれた高城さんも想定外だったのか、私と同じような反応をしていた。


これは今しかないのでは?


ふと私の頭の中に当初の目的が浮かび、それを実行する決心をした。

決心してから早くなる鼓動に気付かないふりをして、私は道でしゃがみ込んだ。


「え、どうしました?大丈夫?」

『ちょっと…なんか…貧血?っぽくなっちゃって』


自分の辿々しい演技に体が熱くなるのが分かる。

いや、これは演技だとバレて良いんだ。その方が手っ取り早い。

私の演技に気付いているのかいないのか、慌てる彼を無視して私は指を差した。


『あそこで…休みたいです…。』


指差した先にはホテル。

彼は一瞬言葉に詰まったようだが、分かったと言うと私の事を抱き上げた。


「部屋着くまで少し辛いと思うけどごめんね」


私の身体が更に熱くなった。






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