第3話
なんだこれ…。
完全に想定外のこととなった20時。
数時間前に入れた気合はもう既になくなっていた。
男の人に声をかける勇気などなく、時間だけが過ぎていた。
今日はもう無理かも、と思い始めてきた。
帰るか……。
大きなため息を吐くと、駅の方へと歩みを進めた。
「すみません」
切符を買ったその時、後ろから聞こえた声に振り向くと、見覚えのある顔。
記憶の中にある顔よりも顔色が良く、完全復活したようだった。
「お昼位に駅で助けて貰った者です。ありがとうございました」
ニコニコと愛嬌のある顔で笑う彼は、さっきの人とは別人のように思えた。
体調が回復して帰る時に、たまたま私を発見して走ってきてくれたらしい。
息切れしてまで追いかけてきてくれた彼に心が暖かくなった。
『安心しました。わざわざ走って伝えにきてくれてありがとうございました。』
それじゃあ、と頭を下げると彼は私を呼び止めた。
彼は何かを言おうとしてやめて考えてを2度ほど繰り返すと決心したかのように声を出す。
「お礼と言ってはなんですが、ご馳走させてもらえませんか?あ…でも帰ろうとしてたのか…。」
それならとバックから紙とペンを取り出すとサラサラと何かを書いて、それを私へと差し出した。
「俺の連絡先。もし気持ち悪いと思ったら捨ててくれて良いから、ご飯食べたい時いつでも連絡してください」
『えっと…』
彼は私の返事を待たずに、それだけ渡すと頭を下げてどこかへ行ってしまった。
さて…。どうしたものか。
まさかの諦めたその時にこんなチャンスを手に入れてしまった。
少し頼りない気もするが、愛嬌のある可愛い顔にふわふわの髪型、連絡先を軽く渡してくるチャラさ。あの人は私の探し求めていた人にぴったりではないか?
私は貰った紙をしっかりとバックに閉まって家へと向かう。
『ただい……ま帰りましたお母様。』
玄関を開けると、鬼の形相の母。
そりゃそうだ。高校生の娘がこんな時間まで連絡も無く、心配するに決まってる。
でもそこまで頭が回らなかったのは他のことで頭がいっぱいいっぱいだったからだ。
『充電切れちゃって…。さち達と遊んでた』
「次また連絡もなしに遅くなったら、夜ご飯理央の嫌いな食べ物で埋め尽くすからね!」
恐怖宣告をされたので素直に謝ると、奥から父がきた。
母をなだめ、リビングで夜ご飯を食べるように促された。
「理央、旅行用のパンフレット取っておいたから行きたい所選んでおきなね」
「いいなー、お母さんも行きたい。」
夕食時、父が出した旅行先のパンフレットに早速母が食いついた。
一緒に行こう!と言おうとした私の声は父に遮られる。
「ダメだよママ。今回は理央と僕。次はママと理央。その次はママと僕。そして最後は3人で行って、家族の絆を深めようって決めたじゃないか」
母はその言葉に嬉しそうに笑って、父の頬に唇を軽く当てた
『ちょっとー!娘の前でイチャイチャ禁止!』
「あ、つい」
家族が笑いに包まれる。
私はこの空間をずっと守っていきたい。守って行かなきゃと心に誓った。
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