第2話
そう、今日は高校卒業1ヶ月前の日。
私は学校に向かう足を止めて、別の方向へと歩き出す。
忘れちゃいけない事を思い出し、こそこそとデパートの中のトイレへ。
制服から着替えないと。
自宅から持ってきた少しでも大人っぽく見える服に着替えると、高校では禁止されているメイクも少し。
完璧な装備をした自分に鏡の前で微笑むと、一気に現実味が増して心臓がドキドキと煩く鳴った。
『大丈夫…。私なら出来る…。』
他に誰もいない事を確認して、小さな声で自分を奮い立たせる。
『よし!』
その声と共に歩き出した。
目指すは大学生の多い街。
念のため、定期を使わないで改札を通る。
電車で30分ほど離れた場所に着くと、自分を落ち着かせる為にコンビニでお茶を買う。
人の流れの邪魔にならない場所を見つけると、そこで立ち止まりキャップを回した。
『……』
お茶を口に運ぼうとしたその時、隣に立っていた人がずるずると下にしゃがみ込むのが視界の端にうつって、動きが止まった。
どうしようかと焦って周りを見渡すも、誰もその人の事には気にも留めず歩き続けていた。
『だ、大丈夫ですか?』
私の声に彼はちらっとこちらを見たが、大丈夫。と言うように手をひらっとしただけだった。
そのひどい顔色に私は思わず怯んでしまった。
「ただの貧血…だと思う。時々あるから…気にしないで…」
『駅員さん呼んで来ますか?』
「うん…。いや、やっぱり迷惑かけたくないし、大丈夫。」
彼の様子を見ると大丈夫では無いような気がした。そして、断る理由が「迷惑をかけたく無い」な事に引っかかり、眉を顰めた。
彼に持っていたお茶を渡しそっと背中に手を当てる。
『このお茶、開けちゃったけど口つけてないから、気持ち悪いと思わなければ飲んで。
あとゆっくり、しっかり深く呼吸して。』
それだけ言い残し、私は走って駅員さんがいる所に向かった。
『すみません。よろしくお願いします。』
彼は救護室まで連れて行ってもらい、辛そうにベットに横になっていた。
ただ、浅かった呼吸は意識しているのかしっかりとされていて、少し安心できた。
私は時計を見るとそそくさとその場を離れた。
もう予定の時刻からは過ぎてしまったが、私にはやらなきゃいけないことがある。
改めて気合を入れ直し、街を歩く事にした。
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