第8話 時計のあかり

青い空 白い雲、、、ちがう

愛してるんだ君を、、くさい

君が分針なら僕は長針、、どゆこと??


88か89回、天井を見上げたあたりで電気の右にシミを見つけた。


なんだあれ、、

いやいやそんなことはどうでもいいんだ


考えれば考えるほど分からなくなる。そもそも何を書きたいのか、なにを伝えたいのかわからない。文字を書きすぎてゲシュタルト崩壊をしてからすでに2時間が過ぎていた。


塚本さんとの約束の日まであと3日と迫っていた。毎日ペンをもち、歌詞を書き、消して、書き、繰り返して今やっと1行目を書いて消した。

世の中の歌手たちは一体どんな手を使って書いてるんだ。僕に才能がないだけなのか。

自信をなくし、頭を振り、ペンをもち、また悩む。


たつま「こんなんじゃだめだぁ」

「散歩でもいこう」


全然思いつく気配が無かった。間に合わないと薄々感じていたし、そうなっても仕方ないと思ったりした。けどなんとなく、やらなきゃいけない気がしていた。せいやからの期待、塚本さんとの約束、歌手を目指すと決めた自分、どれも1度たりとも裏切ってはいけない。


たつま「でもどうしたら思いつくんだろう」

「せいやに相談しても、、

(そんなのなんでもいいよ!日頃感じでることとか思ってることあるだろ?それでいいんじゃないの??)

って言われてもなぁ、、僕は日頃なに考えてたんだろ」


近くの公園のベンチに座った。

広場の中心にある時計は20時を過ぎていた。

時計の灯とあと一つの街灯で充分なほど小さな公園には僕以外誰もいなかった。

思えば塚本さんのところに行った日から作詞の事ばかり考えていた。朝から晩まで周りの音が聴こえなくなるくらい考えて、、結局思い付かずにいる。


たつま「考えすぎなのかなぁ、、」


背をもたれて目を瞑った。雨の匂いがしたと思ったら生暖かい風が頬に当たった。


するとどこからから足音が聞こえてきた。

コツコツと聞こえる音が徐々にばらつき始めた。

2人いる、、目を瞑りながらそう思った。

特に気にすることなく聞いていると音が止んだ。

少しだけ話し声が聞こえてる。内容は分からない。

目を開くと暗闇に慣れないままの視界にぼんやりと男女の後ろ姿が遠くに見えた。

川沿いの手すりに寄りかかりなにかを話している。

女性は笑っているのか泣いているのか、、

男性は慰めているのか黙っているのか、、

はっきりとしない2人の関係が僕の想像力を突いた。

永遠と続きそうな2人の井戸端会議が僕を除け者扱いするようにこっちを見てからまた向き直る。


少しだけ気まずくなってしまい、立ち上がり帰ることにした。なにを話していたのだろうか。別れ話?それとも告白?どっちでもいいような良くないような複雑な気持ちになった。


その過程も結果も僕は知る良しもないんだろう。

玄関のドアノブを握りながら少し考えてから扉を開けた。


過程や結果は僕が作ればいいのか、、それを歌にして、、歌おう。

なぜそう思ったのかは分からない。でももし自分の書いた詩が彼らに届くとしたら共感してもらえるんじゃないか。あくまでも想像でまったく違うかもしれないけど、、

でも必ずいるはずだ。僕がイメージした2人のような人たちが。

なぜか胸が熱くなった。ペンをとり紙をひろげ目を瞑り、自分の頭に2人を思い描いて世界をつくる。ぼくが勝手にイメージした2人。ぼくだけのしる2人のせかいを。


〈明日には春が来ると

頬に手が 触れてきた

知らせを鵜呑みにして

目を開き 問いかける


あと少し あと少し

見ていたい

あと少し あと少しだけ

いいでしょう?


広場には2人だけ

あかりは 1つずつ

あんまりくらすぎて

世界には 2人だけ


もう少し もう少し

このままで

もう少し もう少しだけ

いいでしょう?


あと少し あと少し

ありのままで

ほら針が 上を向くまで

いいでしょう?〉


良いかどうかわからない。

ベッドに横たわり天井見上げた。


たつま「あんなところにシミあったっけ?」


そう思い目を閉じた。


約束の日 当日

日曜日の駅は相変わらず賑やかで人が溢れていた。

少し離れた信号機のあたりから人混みの中を動くギターケースの頭がこちらに向かってるのが見えた。


せいや「ごめんごめん!またせたな!」


たつま「いや大丈夫、どお?」


せいや「おう!げんきだよ」


たつま「ちげーよ!曲だよ!できたの??なんにも教えてくれなかったから」


せいや「もちろん!」


そう言うとニッコリ笑って改札の方へ歩いてしまった。

マジか、、そう思いながらあとを追った。


どんなメロディか、アップテンポなのかバラードなのか。電車の中で恐らくしつこいと思われても仕方がないほど聞いていたがせいやはただ、

楽しみにしてろ

そういうだけでなにも教えてくれなかった。


良く自分でそんなにハードルを上げられるな、、

そう思っていた。

僕の書いた詩は既にせいやに見せていたけどせいやはいいじゃんの一言でそれ以外はなにも言わなかった。


気がつけば塚本さんの楽器屋に着いていた。

階段を降りてる時、急に鼓動が速くなっているのがわかった。ただ詩を見てもらうだけなのに、、

でももし、ボロクソに言われたら、、

そう思いなんども足を止めそうになると


せいや「早く降りろよ」


そう言ってせいやが後ろから突いてきた。


たつま「わかってるよ!」


せいやが少し笑ってるのがわかる。

扉を開けると塚本さんが奥から出てきた。


塚本さん「お!きたな!この前の場所、空いてるから入れ!」


言われた通りにすると椅子が三つ、三角形を描くように置かれていた。


塚本さん「座って」

「どお?2人ともできた??」


たつま•せいや「はい!」


よし、、塚本さんはそう言いながら腕を組んで


塚本「みせてくれ」


そういうとせいやが手を上げた。


せいや「俺からいく!いい?」


そう言って僕を見た。正直、先に行かれるのは嫌だったが凄くせいやが行きたそうだったので止む終えず頷いた。


せいやはギターを取り、静かにイントロを弾き始めた。優しく語りかけるような訴えかけるようなメロディ、、10秒ほど弾いた時、せいやが息を吸い、歌い出した。


〈明日には春が来ると

頬に手が 触れてきた

知らせを鵜呑みにして

目を開き 問いかける


あと少し あと少し

見ていたい

あと少し あと少しだけ

いいでしょう?


広場には2人だけ

あかりは 1つずつ

あんまりくらすぎて

世界には 2人だけ


もう少し もう少し

このままで

もう少し もう少しだけ

いいでしょう?


あと少し あと少し

ありのままで

ほら針が 上を向くまで

いいでしょう?〉


塚本「なんだ!詞もあるのか!」


せいやはニヤニヤしながら僕を見た。

でもきっと1番変な顔をしてたのはきっと僕だ。

そう言うように塚本さんがこっちを見ていた。


塚本「たつま、どうした??」


たつま「僕のです」


塚本「??」


たつま「僕が書いた詩です。今の」


塚本「え?そうなのか?」


せいや「はい、そうです。僕もギリギリまで思いつかなくて悩んでたんですけど、たつまから詩が送られてきたとき頭に今のメロディが浮かんだんです」


たつま「え?せいや2日目とかにもう出来そうとか言ってたじゃん!!」


せいや「いやー実は全然で焦ってた!」


そう言ってまた笑った。


塚本「なるほど、詩先か、、」

「詩先は難しいと思ってたんだけどな、、

いやでも悪く無かった。よかったよ」


せいや「よっしゃ!」


塚本「よかったけど、、完璧じゃない」

「まぁ完璧ってなんなのかって話になるけどな

とにかくまだ直すべき場所がいっぱいある」

「まぁとりあえず最初にしてはいい感じだ」


2人は向き合いハイタッチをした。

思いもしなかったせいやの行動に驚いたが僕にとってこれほど頼もしいやつはいないと感じた瞬間だった。階段を降りるとき背中を押したせいやはこれまでもこれからも僕をささえる、都合いいけどそう言われたように感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る