第7話 横断歩道を渡る人たち
真っ暗な舞台にスポットライトで照らされたスタンドマイクが二つ。そいつを深呼吸しながら僕らは眺めていた。
緊張が最高潮に達し、高揚へと変わっていく。約15,000人の手拍子が僕らを呼んでいた。
せいや「いけるか?」
たつま「、、、うん!」
僕らは勢いよく走りだし、あらかじめ舞台に置いてあったギターを手に取りスタンドマイクの前に立った。手拍子は歓声に変わり、全ての観客の顔が僕らを見ながら歓喜していた。
入りは俺がやる。そう言っていたせいやが隣でギターを殴るように挙げた腕を振り下ろした。
始まるんだ。僕らの夢の先が。この武道館から、、
Prrrrrrr......
ギターの音とは似ても似つかない音で飛び起きた。
携帯には(せいや)と書かれている。
慌てて電話に出ると、、
せいや「ごめんごめん!寝てた?」
たつま「いや、うん、夢見てた」
せいや「マジか!どんな??」
たつま「えーっと、、いや、覚えてない」
せいや「なんだ!まぁいいや、今日空いてる?」
たつま「空いてるよ。どこいくの?」
せいや「ちょっと会わせたい人いてさ、準備できたら連絡して!」
たつま「わかった。急いで準備するよ」
電話を切り準備をしながら夢を思い出そうとするが出来なかった。玄関のドアノブを握ったとき一瞬だけ胸が高鳴り体の動きを止めた。なんだったのかはわからない。とにかくせいやに連絡しなきゃ、そう思い家を出た。
2人で駅に行き電車に乗ってから誰に会いに行くのか聞いた。
せいやが小さい頃からお世話になってる楽器屋のお兄さんらしい。なんでもせいやにギターを教えた人であり、誰よりも応援してくれてる人だそうだ。
俺はその人を尊敬してるんだという目で僕にその人のことを話した。
電車を降りてから15分か20分くらい歩いたところに小さな古いビルがあり、そこの地下一階に(TSUKAMOTO楽器)という楽器屋があった。
扉を開け中に入るとピアノやドラム、ギターなどの楽器やその部品などがたくさん並んでいた。
奥に進むとさらに部屋があり、せいやは扉を開け電気をつけた。
そこには壁一面にギターがかかっていた。一つしかない電球の光をギターの光沢が乱反射させ部屋全体を照らしてるようだった。
せいや「あれ?いないのかなぁ」
せいや「店の鍵開いてたし、連絡したからいると思うんだけど」
「あ、ごめんごめん!ちょっとトイレ入ってた」
そういいながら男の人が入ってきた。
身長は高く、細身でスタイルが良かった。
せいや「塚本さん!連れてきたよ!」
塚本「あぁ、この前話してた、、たつまくんだっけ??」
たつま「はい、橋本龍馬です!」
塚本「ギターは持ってきたね」
そういうと塚本さんは扉を閉めた。
防音室なのか、扉を閉めた途端に周りの音が全く聞こえなくなった。
まるで世界に3人しかいなくなったみたいに。
塚本「そうだね、とりあえずギター弾いてみてよ」
たつま「あ、はい。じゃあ、、」
僕は最初にせいやに教えてもらったチェリーの楽譜を携帯で検索して椅子に置いた。
少し間を置いてから練習を思い出しながらゆっくりと音を鳴らした。
周りの音が聞こえない分、自分の声とギターがいつも以上に聴こえてきた。
少しだけ非日常的な空間を心地よく感じた。
歌い終わると小さな拍手が聞こえてきた。
塚本「いいね、ギター始めてどのくらい?」
たつま「2ヶ月くらいです」
塚本「2ヶ月か、相当練習したんだね!」
「歌も少し荒いし細かいところは直さなきゃいけないけど悪くない」
たつま「あ、ありがとうございます!」
せいや「どお?塚本さん!いい感じでしょ?」
「俺ら2人で歌手になる!」
塚本「そんなに甘くないだろ、けど、、
面白そうだな」
「たつまのギターはそのまま練習を続けるとして歌手になる為にやらなきゃならないことがある」
せいや「え?なに??」
塚本「決まってんだろ。オリジナルの曲をつくるんだよ。」
「ミスチルばっかに頼ってちゃただの歌を歌う人だからな」
せいや「ついにオリジナルかぁ、どうすればいいか全然わからないけど」
塚本「作曲は3種類の方法で出来る。詞先、曲先、あとはそれらを同時に出来る人もいる。これは自分に合ったのを見つけるしかないな」
話についていけなかった。詞なんて書いたこともないし、曲なんてもってのほかだ。
せいや「どっちなんだ。アーティスト達はどっちが多いんだろ」
塚本「今の歌手は曲先がほとんどだよ。メロディを決めてからそこに歌詞を当てはめてく。」
せいや「そうなんだ。やってみなきゃわかんないからとりあえずどっちもやってみるか!」
そういってせいやはこっちを向いて笑った。
たつま「いやいや、いきなりできるの??歌詞もメロディもそんな簡単に思いつかないよ。」
「曲先と詞先でどんな曲の違いが出るのか気になるし、、」
塚本「そうだな、、さっきのチェリーは曲先だな。」
「詞先の曲になるとこんな感じになる。」
その場に置いてあったギターを手に取って塚本さんはゆっくりと歌い出した。
「目の前を横切ろうとするその老人の背中はひどく曲がっていて
歩く姿をじっと見ていると足が不自由であることがわかる
かばい続けてきた足のせいか それとも
思うように動かぬ現実にへし曲げられた心が
背中まで歪めているのだろうか?
横断歩道を渡る人たち
僕は信号が変わるのを待っている
昨日の僕が 明日の僕が
今 目の前を通り過ぎていく」
塚本「どお?なんとなく違いがわかった?」
たつま「あ、、はい、なんとなくわかりました。」
塚本「そか!優秀だな。さすがせいやが連れてきただけはある。」
透き通った声だった。なのにどこか重くて辛そうで、音程が感情で出来ているような、、そんな歌声だった。
せいや「よし!じゃあ俺メロディつくる!」
「たつま歌詞ね。別々で作ってどっちも曲にしてみよう!」
たつま「えぇー!いや、ほんと無理だよ??」
せいや「なにいってんだよ。歌手になるならやらなきゃ行けないんだから今からやるんだよ」
たつま「まぁそうだけど、、わかったよ。やってみるから、、笑うなよ?」
せいや「笑うわけないだろ!俺も頑張って曲作るから」
そんな2人の会話を塚本さんは嬉しそうに眺めていた。
塚本「決まりだな。2週間だ。2週間で2人とも作ってここに来い!」
せいや•たつま「はい!」
そう言って部屋を出た。
なにから始めたらいいのかわからない。
2人は黙ったまま電車に乗り、一言も喋らず電車を降りた。
日頃思ってたこと、思い出、夢、いろいろなことを考えながら家に帰った。
恐らくせいやも同じことを考えていたのだろう。
別れ際に、なんとかなるさ!と不安そうな顔をしながら言い捨てて家へ帰っていった。
なにも思いつかないままペンを持ち白紙の紙を睨んだまま数時間。結局その日はなにも思いつかなかった。
どこからか聞こえる犬の鳴き声と車の音。まわりの生活音に囲まれてるのを久しぶりに感じた気がした。
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