第5話 終わりなき旅
ベッドの上に寝転がり天井を眺めながらせいやが語った夢の話を思い出していた。自信があったってあそこまで言い切れるだろうか。いや、自信とかそういうことじゃないのかもしれない。ただ僕には無いなにかを沢山持っているのは確かだ。技術面を無しにしても同じことだろう。夢を持つとはどんな気分なのか、誰かに夢を語る時の高揚とはどれほどのものなのか、僕には知るよしもなかった。
「ピピピピッピピピピッ」
いつのまにか寝てしまい朝になっていた。
「大学、、行かなきゃ」
支度をしてイヤホンを手に取り家を出た。大学に着く頃、携帯にメッセージが届いた。
せいやからだ
(昨日はありがとな!
授業おわったら連絡して!)
昨日の帰り際に連絡先を交換しといたのだ。
了解の返信をしてからポッケにしまい授業に向かった。
終わってから連絡すると駅で待ってて欲しいとのことだったので待つことにした。
とくに理由はないのだろう。大学にこれといって仲のいい友達がいたわけでもなかったから理由もなく呼び出されることが少し嬉しく思えた。
せいや「ごめん!お待たせ!」
たつま「いや、大丈夫」
「どうしたの??」
一応聞いてみた。
せいや「カラオケ行くぞ!今日暇なんだろ?」
カラオケか、、少し渋った顔をしてしまった。
高校の時行ったっきり行ってなかったからだ。
その時も部屋の角で烏龍茶を飲みながら友達の歌を永遠に聴いただけ。あまり乗り気にはなれなかった。
せいや「え?なに?あんま好きじゃなかった?」
たつま「いや、そういうわけじゃないけど」
正直、せいやの歌が聴けるのなら別にいいかと思った。僕は歌わずに聴いてればいいか、そう思い行くことにした。
カラオケは自宅のすぐ近くに個人でやっているところがある。看板の値段を見る限りそこまで安くはないが近場がいいと思いそこに行った。
せいや「よっしゃ!なに歌う?」
たつま「いやいや、せいや歌っていいよ」
せいや「じゃ、最初いくわ!」
最初とかじゃないんだけどと考えてるうちにせいやは歌い出した。相変わらず上手かった。音程も声量も誰が聴いても文句は言わないだろう。激しい歌でもどこか心地よく感じた。
せいや「よし!じゃあ次たつまな!」
たつま「俺はいいって!聴いてるだけでいいから」
せいや「たつま、初めて会った時から思ってたんだけど元気なくね?発散しろよ、ストレス」
いろんな人に言われていた。テンション低い、元気ないよね、わかってはいたがどうすればいいのかわからなかった。せいやもきっとそれを感じてここに連れてきてくれたのだろう。
そう考えたら歌わないのは失礼に感じた。
たつま「わかったよ、、んーなににしよう」
せいや「普段どんなの聴いてるの?」
たつま「ゆず、コブクロ、ラッド、あいみょんとか髭男とかかなぁーあっミスチルもたまに」
「広く浅くって感じかな」
せいや「へぇーコブクロは??」
たつま「難しいんだよなぁ」
せいや「いいじゃん!未来とか歌えないの?」
たつま「まぁじゃあそれでいいや」
なんとなくもうどれでもいいような気がして適当に決めてしまった。イントロが流れ出したときせいやが話しかけてきた。
せいや「たつま、歌はね。音程とか声量とかも大事だけどどれだけ気持ち込めるかがやっぱ大切だとおもう。全力で歌えよ?」
そう言ってせいやは笑った。
タイミングなのか、そう言われた瞬間にやばいと感じた。適当に歌って終わろうとしてたことが見透かされたと感じ一気に緊張してしまい声が裏返った。
せいやはごめんごめんと言いながら大笑いをしていた。そこまで笑わなくてもいいだろと腹がたった。気持ちぐらい込めてやる。そう思った俺はありったけの気持ちを歌に乗せて歌った。
せいやは笑うのをやめジッと画面に映る歌詞を見ていた。なにを考えてるのだろう。はやく帰りたいな。歌の上手い人間は本当に羨ましいと思った。
歌い終わると画面が急に採点画面に変わった。
たつま「え?!なにこれ、どういうこと?!」
せいや「いやぁ、こっそり採点モードにしましたぁ」
なにしてくれてんだ、、ただでさえ下手なのにそれに点数つけられるなんて絶対に嫌だった。
消してやろうとしたが阻止された。
せいや「そんなにわるくなかったよ?最初以外は」
派手な音楽が鳴り数字が動き出した。
バンッっという音と同時に83点という数字か出てきた。
せいや「ほら!全然悪くないじゃん!!もっと歌ってみなよほら!」
たつま「いや、よくわかんないけどそんなこと絶対ないから!友達とかもっと点数出してるし」
せいや「いや、点数なんて関係ないよ!俺が聴いてて良いと思ったんだから!」
こいつ、やってることと言ってることがめちゃくちゃだ。そう思い渋々もう一回歌うことにした。
たつま「はぁー、なににしよう」
せいや「ミスチルは??」
たつま「メジャーなやつだったら、、」
そう言ってミスチルの「終わりなき旅」を入れた。おぉ!いいじゃん!とせいやは向かいの席で大はしゃぎしてる。
せいや「全力で歌えよー」
たつま「分かってるよ!」
高校の時を思い出した。野球部だった俺は毎日の練習に疲れ果てていた。半強制の自主練と横暴な先輩に嫌気がさしていた。辞めてしまおうかと思い、明日の朝練は行かずにその日の内に辞めてしまうと考えていたとき、ランダムで音楽を流していた携帯からミスチルの「終わりなき旅」が流れてきた。
「息を切らしてさ 駆け抜けた道を
振り返りはしないのさ
ただ未来だけを見据えながら 放つ願い
カンナみたいにね 命を削ってさ
情熱を灯しては
また光と影を連れて 進むんだ
大きな声で 声をからして
愛されたいと歌っているんだよ
「ガキじゃあるまいし」
自分に言い聞かすけど
また答え探してしまう
閉ざされたドアの向こうに
新しい何かが待っていて
きっと きっとって 僕を動かしてる
いいことばかりでは無いさ
でも次の扉をノックしたい
もっと大きなはずの
自分を探す 終わりなき旅」
歌い終わるとせいやが急に立ち上がった。
恥ずかしいくらいの拍手と満面の笑みで振り返ってきた。
せいや「めちゃくちゃいいじゃんか、、なんで最初からやらねーんだよ!」
よく覚えてなかった。昔のことを考えいたせいか、どんなふうに歌ったかほとんど覚えていない。
たつま「え?そんなに??」
せいやの大袈裟な褒め言葉に少し引いているとバンッという音と数字が画面に映し出される。
(88点)
せいや「ほらな!」
歌ってる時のことは覚えていない。なにをどうしたらこうなったのかもわからない。ただ、僕は人生で味わったことのない満足感に浸っていた。
せいやの茶色がかった瞳が眩しいくらいにこちらを見ている。
たつま「わかったから!ほら!せいや歌えよ」
次はなに歌おうか、、僕は気がつけば携帯のプレイリストを見漁っていた。
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