第4話 花
大学を終えて家路に向かう時、ふと辺りを見渡した。駅のホームを歩き車両の窓を覗きながら歩いていると2両目の窓からギターケースが頭を出してるのを見つけた。
慌てて電車に駆け込むとギターを抱えて座席に座ってるせいやと目があった。
せいや「え?誰かとおもったらたつまじゃん」
「なにしてんの??」
たつま「いや、俺もこの電車だから」
「この前、、ピック?渡した場所
あの辺に住んでるんだよね」
せいや「なんだ!めちゃくちゃ近いじゃん」
「俺もあの辺だよ」
そんな会話してる時、電車が動き出した
僕はたつまの座っている前のつり革に捕まりサラサラとした布で出来たようなギターケースを見ながら話をしていた。
たつま「しってるよ」
せいや「え?!なんで知ってるん??」
「もしかしてあの時つけて来てたの??」
たつま「ちがうよ、前にあの道通った時に聞いたんだ、ギターの音と歌ってる声」
「多分だけどあれもせいやだろうなって思ってたから」
せいや「あぁーなるほど、引っ越してきた時何回か弾いてたからその時か」
「結局大家さんから連絡あって近所から苦情来てるからやめてくれって言われたよ」
そりゃそうだ、とたつまは思った。
僕は帰り道に聴いただけだからいいが、近所の人からしたら大迷惑だろう。
せいや「だから駅前で聴かしてやろうって思ってさ!」
悪そうな顔をしていた。
どんな感情でなにを考えているのかが全て顔に出るタイプなんだと思った。やりたいことをやり、否定されても突き進む人間。一個下の生意気な男はきっと僕とは違う世界の人間なんだと思った。
色のある世界、下敷き越しでなくてもその物一つ一つに色をつけている。うらやましかった。
たつま「これ、なんて読むの?」
ギターケースにTylerっと書かれたロゴがあった
僕はそれを指差して聞いた。
せいや「テイラーだよ、ギターのメイカー」
たつま「高そうな名前だね」
せいや「めちゃくちゃ高い!俺からしたらだけど」
「ギターはピンキリだから安いのは1万くらいだけど高いのは何百万もする」
「俺が持ってるのは30万くらいかな、貰い物だからよくわからないけど」
たつま「そんな高いのくれる人がいるの?!」
せいや「親父がくれたんだ。大学の入学祝いに」
たつま「いいお父さんだね」
電車が駅に着くことを知らせるアナウンスが流れた。ギターを大事そうに抱えながらせいやが立ち上がり僕もドアの前まで歩いた。
たつま「そういえばここでこの前歌ってた歌、
あれはなんて歌なの?」
せいや「あぁ、あれは旅人。ミスチルの」
謎が解けた。あれは曲名だったのか。
たつま「好きなんだね、ミスチル」
せいや「大好き!波はあるけどね、最近はずっとミスチル!」
ミスチルはなんとなくなら知っていた。ドラマやCMで流れてる曲なら僕も聴いてたしそれなりに知ってるつもりだった。
ただ、世代で言うと僕たちの親の世代のバンドだったため珍しく思えた。
たつま「じゃあ家で歌ってたのもミスチル?」
せいや「どれのことだろう、、何曲か歌ってたからわからん!」
そう言うとせいやは笑った。僕はなんて伝えたらわかるだろうかと考えているとせいやが思いつくように声を上げた。
せいや「あ!そだ!うちこいよ!聴かせてやるよミスチル!」
たつま「え、、あぁいいの??」
せいや「もちろん!汚いけど」
いろいろと気になったことや聞きたいこともあったのでついていくことにした。
せいやの家は本当に近かった。ただこの前会ったところが家の前ではなくそこから駅のほうに五分くらい戻ったところだったのでそれについて聴いてみると
せいや「いやぁ、お巡りさん追っかけてきてたから通り過ぎちゃって」
なんとなく納得した。
せいやの家は僕のアパートよりも古めかしい感じで歌を歌われた住民に同情すらした。
せいや「いらっしゃい!入って、汚いけど」
汚なさをやけに強調されたせいか、さほど汚いとは思わなかった。汚いと言うより物が多い感じだ。ベッドの上には漫画と何枚かのピック。テーブルには未開封の替えの弦らしきものとMr.Childrenと書かれたギター用の楽譜のような物が広がっていた。
たつま「これこんなにいっぱいあるんだ」
ベッドに散らばってたピックを指差して言った。
5、6枚はあった。こんなにあるのなら届ける必要なかったんじゃないかと後悔した。
せいや「うん、弦とか楽譜とか買いに行くとさ安いからついでに買っちゃうんだよね。すぐ無くなっちゃうし」
そういいながらせいやはベッドに座りギターを取り出し少しだけチューニングをすると僕に目を向けた。
せいや「なに聴きたい?」
たつま「いやいいのかよ、また怒られるよ?」
せいや「大丈夫大丈夫!静かに歌うから!」
全然信用出来なかったが渋々楽譜を手に取りめくり出した。聞いたことありそうなやつをなるべく探した。途中で見覚えのある歌詞を見つけて思わず声を出した。
たつま「これだ、多分この前きいたやつ」
歌詞はあんまり覚えてないけどこの単語印象的だったから」
Foreverという名前の歌だった。歌詞を見てもわからなかったがサビの入りにあるForeverという単語が印象的でそこだけ覚えていた。
せいや「あ、それこの前やってたかも」
「これ歌おっか??」
たつま「いや、せっかくだから別のにする」
そう言ってまたページをめくり出した。
なんとなくだけど自分の今の気持ちにあったメロディを探してた。楽譜なんて読めないから本当に適当だけど歌詞の雰囲気でどこかで聴いたことあるようなタイトルを見つけ指差した。
せいや「花?いいよ!センスいいねぇ」
そういうと少し笑ってから真剣な表情になりゆっくり歌い出した。
「ため息色した 通い慣れた道
人混みの中へ 吸い込まれてく
消えてった小さな夢をなんとなくね 数えて
同年代の友人達が 家族を築いてく
人生観は様々 そう誰もが知ってる
悲しみをまた優しさに変えながら 生きてく
負けないように 枯れないように 笑って咲く花になろう
ふと自分に 迷うときは 風を集めて空に放つよ今」
どこかで聴いたことがあった。しかしその時とは明らかに違うところがある。この歌を聴いたときの感じ方。イメージが恐らく違う。初めて聴いたは多分聞き流していただろう。でも今は違う出来るだけ心に、頭の中に、体のどこかに焼き付けておこうって思ったんだ。不思議だった。気がつけば僕の顔は少しだけ笑みを浮かべてた。
せいや「たつま、、顔気持ち悪いぞ?」
たつま「うるせー!まだ数回しか会ったことない奴に言う言葉じゃねーだろ」
そして2人は笑った。そこからしばらくはせいやの夢の話が続いた。聞けば聞くほどデカく堂々とした夢の話は、なぜかせいやなら簡単なんじゃないかと思えてしまう。そう伝えると、お前はなにを聞いてたんだ!と怒られたけどなにも言い返せなかった。そしてせいやは興奮した状態で続けた。
せいや「たつま、52Hzの鯨ってしってる??」
たつま「いや、なにそれ?曲名?」
せいや「違う!世界一孤独な鯨だよ。その鯨の鳴き声が52Hz。観測できたのは鳴き声だけ。他の鯨じゃ52Hzの鳴き声は出せないらしいからまだ発見されていない鯨がいるんだ。」
ふーん。という顔で聞いていた。それで??って聞き返すとせいやは続けた。
せいや「いると思うんだ。人間にも。見つけてほしくて泣いてる人が。俺はそんな人たちに寄り添いたい。姿が見えないならせめて声だけでも届けたいんだ」
真剣な顔をしていた。見なくても分かったが目を見て聞かなきゃいけない気がした。
僕はせいやのほうを向いた。
せいや「だから俺は歌を歌う!いつか自分が産み出した歌で見えない誰かを救いたい」
お前ならできる、不意に出てしまった。でも本気でそう思ったんだ。たった数曲、しかも有名なミュージシャンの曲を聴いただけでなにか分かるわけでもないのに何故か僕は心からそう思った。
せいや「だからお前はなにを聞いてたんだ」
呆れた様にそういうとせいやの携帯が鳴っていた。出ようとした瞬間に切れてしまったが画面に(不在着信5件)の文字が見えた。
大丈夫?と聞くとせいやは苦笑いしながら頭を掻いてこう言った。
せいや「大家さんからだ」
外は日が沈み、窓からは黄色い月が見えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます