第2話 旅人

今日は日曜日。休みにやることといえば相変わらず音楽を聴くこと。そしてもう一つ、腹が減るかトイレに行きたくなるまで一日中ゲームをすること。典型的な現実逃避人だ。それらは僕を孤独にはしない。今の僕に辞められるわけがなかった。


「おつかれー」


ゲーム用のヘッドセットから声が聞こえた。


たつま「おつかれ」


ほぼ同じテンションで言い返した。


「どうする、バトロア??」


たつま「いいよ」


ゲーム仲間の荒木は高校の同級生。とくに気を使わない、なにも考えずに過ごせる友達だ。

四時間ほどぶっ続けでゲームをし、そろそろ腹が減ったなと思い始めた頃


荒木「新作買った??」


荒木「先週の火曜発売日だよ?」


新作のソフトの話題を振ってきた。

ずっと買おうと思ってたやつが発売したと言う報告だった。


荒木「俺もう買ったよ?発売日チェックしとけよ!」


たつま「これ終わったら買いにいくよ」


今日は外に出るつもりは無かったが正直欲しかったので止むを得ず出かけることにした。

最近のゲームはほとんどダウンロードできるのだが僕は飽きたら売るのが定番なのでパッケージ版を買うようにしている。


たつま「ちょっと行ってくるわ、今日はもう入らないと思う」


荒木「いってら!」


ゲーム機の電源を切り、簡単に支度をし家を出た。ゲームショップは駅前のビルの二階にある。

ほぼ全てのソフトをここで購入してるため、店員さんに顔を覚えられる始末だ。


「いらっしゃいませー、、あっこんにちは!」


僕は軽く会釈をして店内を回った。

目当ての新作があるのを確認しつつ、旧作を眺め新作を手に取りレジへ向かった。お会計を済ませ店を出ると駅ビルが見えた。

去年までは小さな駅だったのだが3年近くの工事を終え、そこそこ大きな駅ビルに変わった。

そのため人口も増え祝日はいつも人でいっぱいだ。


階段を降りながら人混みを眺めていると細長いバッグを背負った男が1人広場に突っ立ってるのが見えた。


たつま「なんだあいつ」


近づいてみると男が背負ってるのがバッグではなくギターケースだということがわかった。

男はそのギターを取り出してチューニングを始めた。


たつま「こんなとこで弾く気かよ」


たしかに駅は大きくなったが路上ライブをやるような場所では絶対なかった。

男は大きく深呼吸をしてから少し笑みを浮かべ右手を上げたと思ったら勢いよくギターをかき鳴らし始めた。

「なんなんだこいつ、、」

そう口にしたのは僕だけじゃなかった。

当然だ。誰がどう見てもこいつはヤバいやつだ。

男がかき鳴らす音は気づけばなにかのメロディに変わっていた。

カシャカシャと音が変わった瞬間、街の音を飲み込む様な声で歌い出した。


「安直だけど純粋さが胸を打つのです

分かってながら僕らは猥褻


情報過多で簡略化だぜ 文明の利器は

僕らをどうして何処へ運んでく


誰だってしんどい

集団で牛丼食べて孤独な想いを消してんだ

ほらもう少しの辛抱 あわてん坊よ焦るな


忘れ去られた人情味を探して

彷徨っている僕らって 愛に舞う旅人 Oh…

うつむかないで天上を見よ

転ばぬ先の杖なんていらない

でも心配 そんで今日もまた神頼み」


男はまるでヒーローが悪者を倒した時の様な表情を浮かべギターを掲げた。少なくともこの場の誰よりも自由に見えた。

騒動を聞きつけた警察官が2人走ってくるのが見えた。男は警察官に気づき慌ててギターをしまい走り出した。


男「またくるわ!!!」


なんだったんだあいつ、、

そう思いながら男の立っていた場所に近づく何か落ちているのが見えた。


たつま「なんだっけこれ」


たしかギターを弾く時に使うやつ、名前は分からなかった。男が落としたのは間違いなかったし走って行った方向が帰り道だったこともあり持って行くことにした。


10分ほど歩いたところで男が膝に手をついて息を荒げているのを見つけた。


たつま「あのー、、これ落ちてました

    あなたのですよね?」

   

男「え?はぁはぁ

  あーピック、、ありがと」


男「聴いてたの??どーだった?!」


少し興奮した様子で話しかけてきた。


たつま「すごいですね、あんなところで

とても真似出来ないです」


男「そっか、、ありがとう!!」


褒めている訳ではなかったがあえて言わなかった


たつま「なんであんなことしたんですか」


男「いや、あの辺のやつら、、はぁはぁ

  刺激が欲しそうだったからさ、、

  俺がプレゼントしてやった」


そういうと、また笑った

どおりでヒーローみたいな顔をする訳だと理解した。同時に少し自分の心を覗かれたみたいで嫌な気持ちになった。


たつま「あなた誰ですか?」


苛立っていた。自分とは明らかに正反対の男が僕よりも自由に伸び伸びと生きているのを見せつけられて自分を否定された気がしたからだ。


せいや「高杉せいや、、旅人です」


せいやは小さく笑った。

僕は聞き覚えのある声だと一瞬考えピックを差し出した。


せいや「ありがと、お前は?」


赤い夕日が2人を照らしていた。

僕が名乗ると


せいや「そっか、、またな!」


そう言って歩き出した


たつま「帰ってゲームしよ」


そう呟いて僕も歩く

新作のソフトを握り締め

彼がたつまに忍ばせたプレゼントに気づかぬまま

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