52Hzの鯨
Junya
第1話 Forever
「世界は小さな籠だ」と呟くとする。誰かがそれを聞きなにを思うだろう。大抵の人は恐らく聞き流すか頭のおかしな奴がいるとしか思わない。
でももしかしたら、この3両編成の電車の中だったらいるかもしれない。「それはちがうよ」と呟く人が。
ときどきいやほとんど毎日だが自分がなにをするべきか、するべき事があるのか分からなくなる。見慣れた景色はモノクロに変わり自分の背景は真っ白だ。これがもし少年漫画の見せ場、ここぞという時の見開きなら心が踊る名シーンとなるのだが、ページを何度めくっても同じシーン、同じ見開きの漫画が面白いわけがない。
つまりはそれが僕の毎日。落ち着いた日常とは退屈な日々とイコールなのだと、そしてそれは決して幸せとは思えない現実なんだと言いたげな顔をした人たちの中に僕はいる。
簡単に言えば刺激が足りないのだ。
何かを変えようと思ったことは何度かある。資格を取ってみようとしたり、YouTubeを見漁ったり、YouTuberになろうとしたりと恐らく誰もが考えそうなことを一通り目を通しベッドに投げ捨てた。
夢の無い大学二年生 橋本龍馬(はしもとたつま)それが僕だ。今までの人生が役に立つというのならそれは恐らく履歴書を書く時ぐらいだろう。長ったらしく書く必要がないからだ。実にシンプルでわかりやすい。読んだ人に俺がどんな人間か3秒でわかる。「凡人」だと。
大学からの帰り道、いつものように音楽を聴いて帰っていた。1日の中で1番好きな時間だ。真っ白の1日に色のついた下敷きをポンッと置いていってくれる気がするからだ。その透けたカラーの下敷き越しに見た街並みはまるで別世界。そのアーティストが作った街。それを僕は籠の外から覗いて楽しむんだ。
「ピーピー、、、プツッ」
右耳のイヤホンからそう聞こえたと思えば音楽が止まった。
「はぁー、、」
ため息をつきながらイヤホンを外した。
バッテリーが無くなったのだ。
去年買ったBluetoothイヤホンで1万2千円するそこそこいいやつだ。僕の金の使い道といえばゲームかそれくらいで服や食事といったところには興味はなく音楽を出来るだけいい音で聴くということくらい。金銭的にギリギリ買えるのが今のイヤホンだったというわけだ。
普段なら絶対にこんなミスはしないのだか大学のテスト勉強を夜遅くまでしながら音楽を聴いていた時そのまま寝落ちをしてしまったため充電をする時間がなかった。
久々に街の音を聞いた。人の話し声、電車の走る音、踏切。どれもあまり好きにはなれなかった。
ひとりぼっちを実感するからだ。
最寄りの駅を降り歩き始めた。
改札を出てすぐの信号を渡り、15分ほど歩いたところに白い塗装で塗りたくられたアパートの二階。そこが自宅だ。
その道中は約二曲分か三曲分、ストレスが溜まっていると足を止め気が済むまで音楽を聴いたりした。しかし、今回はそれが出来ない。
「さっさと帰って充電しよ」
そう思い早歩きで帰ることにした。
5分ほど歩いた時の事だった。どこからか音楽が聞こえてきた。さほど気にはしなかったがそれがスピーカーからではなく誰かがギターを弾いているのだと気づいた時、ふと足を止めた。
どこから聴こえるのかわからない。近いようで遠いような大きいようで静かに流れているメロディにやがて透き通るような歌声が呼応する。
「ひんやりとした空気が今
この胸を通り過ぎた
どんより僕はソファの上
アザラシと化してグダグダ
自暴自棄になるほど 分別をなくしちゃいないけど
Forever
そんな甘いフレーズに少し酔ってたんだよ
もういいや もういいや
付け足しても 取り消すと言っても
もう受付けないんなら」
どれくらい聴いていただろうか
なにを考えていただろうか
その間呼吸はしてたのか
道路の大きさには適さない速さの車が横切った時我にかえる。大きく息を吸った。
視野の端に映った草木の緑に目を移し、そしてゆっくりと歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます