PART7

 結局、パーティーは何事もなく終了した。

 警察おまわりを呼んでもよかったんだが、何しろ証拠がないからな。

 ただ、あの眼鏡女はしつこく俺に”袖の下”を渡そうとしたが、断固として断った。


 ゾロゾロと出てくる人間を見ていると、上手くカップルが成立した同士、何も出来ずに肩を落として去ってゆく人間・・・・色々だった。

 嫌に明るかったのはベルだ。

 彼女は男二人に連絡先を聞かれたそうだが、適当にあしらっておいたそうだ。

”私の店の名刺を渡しておいたわ。女がそう簡単に落とせると思ったら大間違いよ”

だとさ。

 そうして彼女はタクシーを停め”アディオス”と、投げキッスをし、去っていった。

『僕、退会手続きをしてきました』

 ホテルの外に出た後、一ノ瀬がぼそりと言った。

 こんないい加減な相談所なんか、当てにするだけ無駄でした。やっぱり世間知らずだったんですね。と、半ば自嘲気味に呟く。


『そんなことより、あの彼女はどうした?』

 俺の言葉に、彼はちょっと言葉を失う。

『え?』

『ほら、あの笹森礼子似の・・・・名前は何と言ったかな?』

『真田律子さんです』


 何でも彼女が語ったところによれば、典型的な”サクラ”で、一回男と見合いするごとに五千円づつ貰え、上手くデートにこぎつければさらに五千円。これを日に五件はこなすという。

 当り前の話だが、どうせ最後は”ごめんなさい”といって断るのだ。

 しかし、その中にいる、あの”セレブスター”の中の、脈がありそうな連中とは、場合によってはベッドを共にすることになる。

 そうなればそうなったで、別に五万円は出してもらうそうだ。

(もっとも彼女は、そっちの”枕営業”だけは何とか断り続けていたそうだが)

 彼女には年老いた両親と、まだ高校生と中学生の妹がいる。

 家族の生活が彼女の肩にかかっているのだ。

 悪いことだと分かっていても断ることが出来なかった。そう語ったという。

”それでも構いません。僕は貴方に一目ぼれしたんです。別にすぐ結婚してくれとか、恋人になってくれとはいいませんから、何とか考えて貰えんでしょうか?”

 彼女はなかなかうんとは言わなかったが、

『嬉しいわ。なら、こんな私でいいなら、お友達からでも』

 そういって、互いの連絡先を交換しあったという。


『簡単に上手くいくとは思っちゃいません。お互いに問題が山積みですから。でも僕は諦めません。何しろ空挺で培った不撓不屈ふとうふくつの精神がありますからね。』

 

 なるほど、確かにそうだ。

 上手く行くか行かないか、今後の彼の腕次第ってところだろう。


 彼は”少ないですが”といって、成功報酬まで足してくれようとしたが、

 それだけは止めてくれと断った。


 こんなのは仕事とはいわん。

 単なる人助けだ。

 人助けで金を貰うほど、落ちぶれちゃいない。実費と一日分のギャラだけで沢山だ。


 俺はそう言って一日分を手にし、ネグラへと帰っていった。 

 ネグラでひとっ風呂浴びる前、俺は事務所のソファで足を投げ出し、バーボンを一杯ひっかけた。

 

 またバカみたいな仕事をやっちまったな。

 ああ、俺は馬鹿だよ。

                              終わり

*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては、作者の想像の産物であります。

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婚活パーティーへようこそ 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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