PART.6

 距離を取って、俺は彼女と三人組の後を着けた。

  一ノ瀬が俺の後を追い、息を切らせて追い抜いて行こうとしたが、俺は彼を抑え、

”慌てるな”というように手で制した。

 俺の横を”もう一枠”が大股でつけて行く。

 彼女たちが入っていったのは、廊下のとっつきにあるトイレ。勿論入っていったのは女子トイレの方だった。


 俺は耳にはめたイヤホーンの調子を確かめる。

笹森礼子(一ノ瀬に聞いたところ、彼女の本名は真田律子というのだそうだ)と女二人は中に入り、男がドアの前に立つ。

 後から来るものを入れさせないようにしてるんだろう。

”一枠”は、構わずにトイレに近づく。

 慌てて男が彼女を制しようとしたが、一枠は早口の外国語をまくしたてた。

 ポルトガル語である。


 男が目を白黒し始めた時、俺は構わず男に近づく。


 一ノ瀬が背後から羽交い絞めにし、俺は奴の鳩尾に当身をくれてやった。

 他愛もなく男はのびちまった。

 一ノ瀬がそっと壁に男をもたせかけると、俺は再び

”go!”

 一枠に合図を送った。

 彼女はドアを開けて中に入る。

(何よ貴方!誰に断ってここに入ってきたの?)

 女のうちの一人が彼女に怒鳴った声が、俺の耳にも届いた。

 構わず一枠がポルトガル語でまくしたてる。

 向こうも根負けしたのか、無視を決め込んで、真田律子を問い詰め始めた。

(あんた、何度言ったら分かるの?ザコは適当に相手をしておけばいいって、何度も言ったでしょう?自分たちが何のために雇われているか、少しは考えなさいよ!)


 これだけ聞けば十分だ。

 俺はドアをわざと乱暴に開いた。

『そこまでにしときなよ。』

『何ですか?!あなた達、ここは女子トイレですよ!』

 メガネの女性が金切り声を上げて叫ぶ。

 俺は黙って懐から認可証ライセンスとバッジを取り出して突き付けた。

『ご覧の通り、私立探偵さ・・・・あんたらの会話は録音させてもらったぜ』

 俺はそう言って、”一枠”の方をポンと叩いた。

『イザベル。ご苦労さん、助かったよ』

 彼女は眼鏡を外し、頭を振って、髪を解く。

 そう、最後の一枠女史というのは、

”ベル”こと、

”イザベル・タキガワ・マルティネス”だったのだ。ベルは南米の出身だから、ポルトガル語、スペイン語などは屁の河童というやつだ。


『探偵さんの手伝いって、面白いんだけど、何で日本の男って、ああ退屈なのが多いのかしらね?』

 彼女は憎まれ口を叩きながら、俺にウィンクして見せた。

『な、何が欲しいのよ・・・・』眼鏡の女が、幾分おどおどした調子て俺に言った。


『別に何も、俺はただあんたらの胡散臭さを確かめるのが仕事だったんでね。あんたらは大勢の会員、それも男から高額な金をとって、外見、収入によってランク分けし、一定水準以上の男性にはまともな女性を紹介するが、それ以外は全部サクラに相手させる・・・・適当に金を吐き出させて、向こうが本気になってきたら”ごめんなさい”でおしまいだ。違うかね?』

『だからどうだっていうの?私たちはちゃんと女性は紹介したのよ?!』

『そうだな。一応紹介はしてる。これだけじゃ詐欺にはならない。しかし、あんたらのいう”セレブスター”の連中に金で”一夜のお相手”を紹介しているとすれば?』

 彼女たちは黙り込んでしまった。

『勿論、証拠はないがね。でも今ここで喋ってたことを会場に戻って流したら、何も知らない会員が、果たしてなんというかなぁ?』

 眼鏡女たちは、もう何も言わなかった。最後まで肯定はしなかったが、否定もしなかった。

『・・・・分かったわよ。穏便に済ませて頂戴。幾ら払えばいいの?』

『金なんかいらん。さっさとこの、下らない茶番劇を終わらせることだ。俺の望みはそれだけだよ』


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