PART5

『セレブスター、つまりは”特別に選ばれた男”って意味です』

 彼の説明によれば、年収ならば、七百万以上、年齢は40歳以下という基準なのだという。

『貴方もその一人と言うわけですか』俺が少し嫌味を含ませて訊ねる。

『まあ、そうですね。僕はインターネット関連のベンチャー企業をやってまして、年収は今のところ9百万ちょっとかな?』と、得意げに鼻をうごめかす。

職業も開業医、若手会社経営者。それに・・・弁護士、とまあ、そんなのばかりだという。


 俺は彼の頭の上から足の先まで観察してみたが、なんてことはない。

 相撲取り顔負けのデブだし、身長だってお世辞にも高くない。

”イケメン”という基準からは程遠い。

 しかし金のかかったブランド物のスーツに金のブレスレット。ロレックスの時計。

 ルビーの指輪。

 メガネまで金がかかっているとすぐに分かる代物をかけている。

 『じゃあ、一つ星は?』

 『ああ、あれは”ザコ”ですよ。ザコ』と、横目で必死に女性の間を行ったり来たりしている”一つ星”連中を見ながら、さも馬鹿にしたように言った。

『ああいう連中は、金だけ払っても、恐らく、いえ、間違いなく絶対に彼女なんか見つからないでしょうね』

手前てめぇの面を鏡で見たのか?”俺はデブに向かって、もうちょっとでいってやりたくなった。

 すると、グラスを持った一人の女性が、彼に近づいてきた。

 すこぶるつきの美人・・・・と言いたいところだが、どう見ても、”劣化版マリリン・モンロー(といったらモンローに失礼か)というタイプの女性だった。

 俺など最初から眼中にないような様子で、男と話し始める。

 男は肩越しにちらりと俺を見て、勝ち誇ったような目を向けてきた。


 確かに、会場を俯瞰して眺めていると、状況が次第に飲み込めてきた。

 そこそこ綺麗な女性たち、中にはそれ以上もいないわけではなかったが・・・・は、みんなその”セレブスター印”とやらにくっついて、中には四~五人の女を一人で独占しているのさえもいた。


 女が話しかけに行くのは、主にそんな男ばかりで、星のついていない俺や、正会員であっても、一ノ瀬のような”一つ星”連中には儀礼的な調子で時々話しかけに来るか、男の方が嫌に遠慮がちにご機嫌を取りながらアプローチする。

 そんな時の女は、逆に自分が女王様にでもなったような態度をしめす・・・・。

”なるほどね”俺はそう思った。


 一ノ瀬はと言えば、相変わらず頭の天辺から足の先まで緊張させ、それでいてあの団栗眼どんぐりまなこだけは動かして誰かを追っている。


 彼が探しているのは、言うまでもなく、あの”笹森礼子”だった。

 一ノ瀬よりも俺の方が早く彼女を見つけた。

 だが、彼女は誰と話すでもなく、恥ずかしそうに俯いて、”壁の花”を決め込んでいる。

”チャンスじゃないか?行け”

 俺は少しばかり離れたところから、一ノ瀬に向かってアイコンタクトを送る。


 彼はしばらく迷っていたが、グラスを手に持ったまま、人垣をよけて彼女の元に歩み寄った。


 その時、別の変な視線を感じた。

 あの尖った顔の四十女が、鋭い目で笹森礼子と一ノ瀬を睨みつけていた。


”こりゃ、何かあるな”俺は思い、”もう一枠”を探す。

 ゲスト参加だというのに、彼女は男どもから声がかかる。一つ星、そして”セレブスター”分け隔てなくだ。

 彼女はその誰にも愛想よく振る舞っている。

 

 俺はそっと、人垣を分けて彼女に近づき、

”仕事だぜ。頼む”と耳打ちした。


 彼女は笑顔を向けながらも、俺の声に小さく頷く。


 相変わらず一ノ瀬は笹森礼子と何か話している。結構盛り上がっているようだ。

 俺はイヤホーンを嵌め、準備を整える。


 と、彼女のところに、スタッフと思われる女三人と男一人が、何時の間にか近づいて、鋭いまなざしで”こっちへ来い”とでもいうように、無理に一ノ瀬から引き離す。

”一枠”が、イアリングにさわると、俺のイヤホンに音が入った。

 

”笹森礼子”は、そのまま三人組に連れ出された。”一枠”、そして俺と一ノ瀬も、後を追ったのは言うまでもない。


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