PART2

 これまでの六回の見合いは、いずれも近所に住んでいた彼の叔母さんや、得意客の紹介と言う奴だった。

”素人の紹介だから上手く行かなかったんだ。これはいっそプロの力を借りた方がいい。”

 一ノ瀬はそう考え、今度は結婚相談所を頼むことにした。

 幾つかの相談所を当たってみたのだが、どれも”帯に短しタスキに長し”というやつで、あまり変わり映えしない。


 それでもあきらめる訳には行かないと、ネットで検索をかけてみた。

(アナログ人間の俺と違って、パソコンも人並みにこなせる)

”三十代からでも大丈夫!お似合いの相手が必ず見つかります!”

 そんな錆びついた大袈裟な宣伝文句を掲げているサイトを見つけた。

 何でも最近有名になった結婚相談所が運営しているのだという。

 俺のようなへそ曲がりなら、こういう場合すぐに疑ってかかるところだが、純情一直線、しかももうのんびりもしていられないと思った一ノ瀬は、すぐに申込書を送って貰った。


 数日して、郵便で案内状が届き、殆ど何も考えずに入会の手続きをしてしまったという。


 何でも、

”入会金20万、月会費1万円”だという。

 ちなみに女性は入会金はゼロ、月会費は男性の半額、5’000円だそうだ。


 こういうところで男女差別があることは当たり前と言えば当たり前なんだが、それにしても入会金20万はボリ過ぎではないかと思ったが、一ノ瀬に言わせると、

”これでも安い方”なんだという。

『で、俺に何をしてくれっていうんだね?』


『実は今度、その結婚相談所が主催する”お見合いパーティー”が開かれるんですが、それに同行して頂きたいんです』


 目が点になった。


『俺はな。法律に違反していなくって、筋が通っていれば、大抵の依頼は引き受けることにしてる。だがな、そんな俺でも自分を安く売りたくはない。だから結婚と離婚に関する調査は原則受け付けないんだ。』

『いえ、そうじゃありません。恋のキューピットになってくれなんていいませんよ。先輩の目で、そのお見合いパーティーと相談所が本物かどうか、確かめて欲しいんです。乾さんは先輩と言うか、上官です。人を見る目の確かさは、空挺の教育隊で見て良く知っています。それに先輩は探偵でしょう?職業的な眼力だってある筈です。他で頼めるならそうします。先輩にしか頼めないからここに来たんです!』


 又しても殺し文句だ。

 警官おまわりのぬかす”探偵免許を取り消してやる”なら、幾らでも無視できるが、

”他では頼めないから”まで跳ねのけるバリアーは俺には持ち合わせてはいない。


『・・・・しかし、その”お見合いパーティー”だか、”婚活なんとか”ってのは、会員しか参加出来んのだろう?』

 俺が言うと、

『いえ、正会員が推薦すれば二名まで会員でなくっても参加が可能なんです。僕の場合後一人はどうしても見つからないので、先輩にお願いしたいと』


 正会員は参加費は無料だが、非会員は5’000円払わねばならぬという。

『当たり前だろうが、その金は経費だろうな?』

『いえ、僕が自腹で負担します。だからお願いします』

 また頭を下げた。


 仕方がない。可愛い後輩の事だ。


『分かったよ。コメツキバッタじゃないんだから、もうこれ以上土下座まがいのことをするのは止めてくれ』

『それじゃ、先輩!』


 俺はソファから立ち上がると、デスクのブックエンドに立てかけてあったファイルケースから、一枚取って戻り、彼の前に差し出す。

『契約書だ。形式的なものだが、一応決まりだからな。最後まで読んで、納得したらサインと印鑑を頼む。』

 

 彼はロクに内容を読みもせず、俺の手から書類をひったくるようにすると、自分でボールペンを取り出し、末尾にサインをすると、ご丁寧にハンコまでして寄越した。


『ふん、まあよかろう。でその”婚活パーティー”とやらはいつ開かれるんだね?』

 一ノ瀬は少し妙な顔をしたが、

『来週の土曜日、午後三時からですが?』と答える。

『そうか、さっき”会員の推薦があれば、非会員でも二名まで参加出来る”っていってたよな?モノは相談だが、後一枠潜り込ませて欲しいんだがな』

 彼にしてみれば、引き受けてくれるならば断わる理由はない。

”分かりました。お任せします”と言ってくれた。

 かくして俺は、人生初の”婚活パーティー”とやらに潜入することになったのである。



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