第26話 『アルティメット・リジェネレーション』

「足りない分は、気合と根性で補えばいいだけよ」


 途中で止めるから、無理になるの。

 つまり途中で止めなければ、無理じゃ無くなるんだから!


 ジェイクも言ってたじゃない。

 『やると決めたらやり通す、それがオレの流儀なんでね』って。


 だったらわたしもジェイクに負けないように、わたしのプライドにかけてやり通して見せるんだから!


「ま、ジェイクの場合は、それでやり通したのが他力本願な土下座だったわけだけど。ふふっ……」


 初めてジェイクと出会った時のことを走馬灯のように思いだして、わたしは少し笑ってしまった。


 ほんと最悪な出会いだった。


 いきなりナンパか詐欺師みたいにうさんくさく声をかけられたかと思ったら、最終手段とか言って、公衆の面前で土下座されてしまって。


「その後は土下座したまま、テコでもうごかないんだもん」


 少しだけ面識のあったアンナの口添えもあって、結局わたしが折れたんだけど。


 あーあ、今頃セラフィム王国では、元・聖女ミレイユは「ガチガチのエルフ差別主義者で、野外でイケメンエルフを土下座調教するのが趣味の、変態ドSの女王様」って噂が流れてるんだろうな。


「まぁ今となっては大したことじゃないけどね。どうせ帰れないし」


 それに、そのおかげで可愛いアンナとも仲良くなれたし。

 ジェイクはジェイクで、どこまでも素直で好感のもてるいい奴だったし。


 そんなジェイクは王子さまで、しかも国民にとても愛されているんだ。

 エルフィーナの復興に、ジェイクの存在は欠かせない。


「だから絶対に、ここで死なせるわけにはいかないんだから――!」


 さて、と。

 回想するのはこれくらいにして。

 そろそろミレイユ・アプリコット一世一代の勝負に打って出ますか!


 今のシャリバテ状態で『アルティメット・リジェネレーション』を使えば、下手をすればわたしは死ぬかもしれない。

 ううん、その可能性がかなり高かった。


 だから、やっぱり途中で無理だって諦めちゃうかもしれなかった。


「ま、そうならないように、アンナに残ってもらったんだけどね」


 わたしのことを慕ってくれてる可愛い「妹」が見てるんだもん。


 中途半端で、有言不実行しちゃうダサいところなんて、絶対に見せられないでしょ、お姉さまの常識的に考えて!


「じゃあ行くわよ――!」


 わたしは残ったすべての力を振り絞って、『アルティメット・リジェネレーション』の術式を構築し始める。


 直後に、身体中のエネルギーを根こそぎ持っていかれるような喪失感が襲ってきて、すぐに貧血みたいに目の前が真っ白になって、わたしはグラッと腰から崩れ落ちそうになった。


「くっ、こなくそっ! 聖女なめんな!」


 だけどわたしは太ももにしっかりと力を入れると、胸を張って踏みとどまってみせる。


 最初の一瞬だけでわたしの聖女パワーは完全になくなってしまい、その後は代わりに生命力みたいなのがどんどんと吸われていく。


 限界を超えて無理を続けているせいで、脂汗が背中をツーっと伝っていく。


 だけど――!


「そんなもんがどうしたってのよ!」


 歯を食いしばりながら術式を完成させると、わたしは最後の詠唱に入った――!


「ケテル・コクマー・ビナー・ケセド・ゲブラー・ティファレト・ネツァク・ホド・イェソド・マルクト――ダアト!」


 ジェイクにかざしたわたしの両手に、濃密な白き再生の光が満ち満ちてゆく――!


 すでに朦朧もうろうとしている意識の中で、わたしは気合と根性と執念で、術式を発動させる最後の言葉を口にした。


「あまねく全てを癒したまえ――! アルティメット・リジェネレーション!!」


 術式が発動し、部屋の中が究極の癒しの力で真っ白に染まっていく――!


 それを自分ではない自分が、どこか遠くで眺めているような感覚があって。


 やった、成功した――!


 だけど、生命力が枯れ果てたかのように、その後を見届けることなく、わたしの意識は漆黒の闇にまれていく――。


 バタンッ!


 何かが倒れた音がした。

 分からないけど、きっとわたしの身体じゃないかな?


 でも全てを出し尽くしたわたしにはもう、それを認識する気力も体力も生命力も、残されてはいなかった。


「ミレイユ様!? ミレイユ様! すみません、誰か! 誰かすぐに来てください! ミレイユ様が倒れて――!」


 さいごに、とおくで、アンナが……わたしを、よんだ……よう、な……き、が……し、た……。


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