第13話 王家のお食事?

 荷物を部屋に置いたわたしとアンナは、ジェイクに連れられて晩ごはんを食べることにした。


 そう言えば、朝ごはんを食べてすぐに王都の門の外に放り出されて、そこから何も食べてなかったので、すっかり腹ペコだ。


 そして一旦空腹を意識してしまうと、はしたなくグーグーとなってしまうわたしのお腹……。


 ジェイクとアンナは気を使って見て見ぬふりをしてくれたんだけど、逆にその優しさが辛いというか。


 やめて!

 もう鳴らないでっ!


 他国に賓客ひんきゃくとして招かれて派手にお腹を鳴らしちゃうとか、恥ずかしすぎて死んじゃいそうだから……!


 そんなかなり空腹気味なわたしたちが席に座ると、気を使ってもらったかのように、すぐに次々と料理が運ばれてくる。


 ちなみにそんなに広くない広間で、わたしたち3人と給仕係だけでの食事会だった。


 当初は王様と王妃様も交えた『破邪の聖女ミレイユ・アプリコットさま歓迎レセプション』を開こうって話もあったらしいんだけど、


「ヴァルス禍で国民が苦しんでいる状態では、なかなかそういうわけにもいかなくてな。こちらの都合で一方的に呼んでおきながら、こんな質素な歓迎会になってしまってすまない」


 ジェイクに申し訳なさそうに言われてしまったのだ。


「まったく、そんなこといちいち気にする必要はないわよ。ねえアンナ」

「はい、どれもすごくおいしーです!」


 わたしとアンナは次々と出てくる料理を、パクパクと胃袋におさめていく。


「それに肩ひじ張らないこういう食事のほうが、わたし的には楽だしね」


「そう言ってくれると助かるな」


「明日からすぐに結界を張る仕事が始まるし、疲れを残さないためにもこうやってゆっくり食べられた方がいいわ。ね、アンナ?」


「はい!」


 偉い人の顔色をうかがったり、すっごく細かい行儀作法やマナーを気にしながら食べるのって、全然美味しくないもんね。


「でもお世辞抜きで、どれもこれもほんとに美味しいわよ? この魚の塩焼きなんて、魚に塩を振って焼いただけでしょ? こんな簡単な料理なのに、すごく上品な味でびっくりしたわ」


 言いながら、わたしはほぐした魚の白身をパクリと口に入れる。


「これはアユっていう、特に澄んだ川にしかいない魚なんだ。調理方法はいろいろあるけど、やっぱり素材の味を一番引き立てる塩焼きが一番うまいんだよな」


 そう言うと、ジェイクは串を持って大胆に魚――アユにかぶりついた。


「な、なかなか豪快に食べるわね……」


「アユの塩焼きは、本来こうやってかぶりついて食べるもんなんだ。ミレイユもやってみたらどうだ? こうやってかぶりつくと、もっと美味しくなるぞ?」


 ジェイクはそう言うんだけど、


「うーん、さすがにそれは……女の子的には、ちょっとはしたないっていうか……」


 男性のいる前でやるのは、なかなかに勇気がいる。


「ミレイユ様ミレイユ様、郷に入れば郷に従えということわざもあります。それにここには私たちしかいませんし、試しにやってみはどうでしょうか?」


 言いながら、アンナがジェイクと同じようにぱくりとアユにかぶりついた。


「むぐむぐ……ごくん、とってもおいしーです!」

 アンナの顔が嬉しそうに(*'▽')パアッってなる。


「な、ミレイユ、せっかくだからさ。オレの顔を立てると思って、食べてみてくれよ? 絶対に後悔はさせないからさ」

 

「後悔先に立たずです。騙されたと思ってぜひ!」


 ジェイクとアンナに強く勧められたわたしは、


「そ、そう? まぁそこまで言うなら……よその文化を知るのは大切なことだし? せっかくこうやって勧めてくれてるんだもんね……?」


 言い訳をしつつ、えいや!とアユにかぶりついた。


 すると――、


「なにこれ超美味しいんだけど……!」


 一口ずつ食べてた時と違って、塩で引き立てられた旨味と香ばしさが、口の中に一気に広がっていったのだ。


 わたしはもう一口、さらにもう一口と、自然とアユにかぶりついてしまった。


「ふふん、美味しいだろう?」


 またもやジェイクが得意げな顔をしていたけど、わたしはそれを指摘する気にはなれなかった。


 最後に手に付いた塩までぺろりと舐めてしまうほど、わたしはすっかりその味と食べ方のとりこになってしまっていたからだ。


「まるで口の中で、アユが踊っているみたい!」


「ははっ、そんなに気に入ってもらえてよかったよ。よし、明日もアユの塩焼きを出してもらうように料理長に伝えておこう」


「ええまぁ、そうね、じゃあせっかくだし、お願いしようかしら?」


 この食べ方は間違いなくはしたない。

 子供だってわかるほどに、はしたない。


 でもほら?

 美味しいものを、一番美味しい方法でいただくっていうのは、大事なことだと思うのよね、うん。


 わたしはもう一度、はしたない自分に言い訳をしたのだった。

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