第14話 「妹」と一緒にお風呂(1)

「ミレイユ様、お背中を流しましょうか?」


「あらありがとう。じゃあせっかくだから、お願いしようかな?」

「はいっ、お願いされちゃいます♪」


 ジェイクも交えた晩ごはんをいただいてから、わたしとアンナは部屋に戻ると、備え付けのお風呂に一緒に入っていた。


 備え付けと言っても、お風呂は2人で入っても十分な広さがある。


「うわー、ミレイユ様の肌って、すっごく真っ白できれいですよね。憧れちゃいます」


「あはは、ありがとうアンナ。でもこれは『破邪の聖女』として、ずっと屋内で結界の調整とかメンテナンスとかをしてたからなのよね。どっちかっていうと不健康に白いっていう感じかなぁ」


 年がら年中、まるでモグラのごとく室内にこもり、直射日光を浴びない日が多かったせいだ。


 わたしの場合は、外れとはいえ王宮に住まわせてもらっていたから、同じく王宮の一角にある仕事場と往復するだけで、まったく外に出ない日すらあって。


 だから慢性的な運動不足を解消するため、毎朝の準備体操と週に1度運動の時間が設けられているのが、エルフィム王国の『破邪の聖女』に脈々と受け継がれている伝統でもあった。


「全然そんなことありませんよ! すごく綺麗です!」


 言いながら、アンナは石けんの泡でいっぱいの手でそっとわたしの背中を優しくさすってくる。


「あんっ……、もう、こそばゆいってば。まったくもう、このいたずらっ子め」


 スポンジとは違う感触に、わたしは一瞬ビクッとなってしまった。


「えへへ、すみません……あまりに綺麗だったので、ついつい触ってみたくなっちゃいまして」


 アンナがさらにもう1度2度、わたしの背中を泡泡の手で優しく撫でてくる。


 しっかり者とはいえ、アンナはまだ15才の女の子だ。

 もしかしたら年長者のわたしに、年相応に甘えてみたくなったのかもしれなかった。


「ま、わたしの背中をさするくらいで喜んでくれるなら、いくらでもどうぞ」


 だからわたしは、よくできた「妹」にちょっとだけサービスをしてあげる。

 別にわたしに何かデメリットがあるわけでもないしね。


 むしろ慕ってもらえてうれしいって言うか?


「ですが、やっぱり『破邪の聖女』のお仕事は大変なんですね」


 わたしの背中を堪能するように優しく撫でながら、アンナが言った。


「うーんそうだね、あっちを手直ししたら、今度はこっちを手直しって感じで、毎日あれこれ細かい作業に追われてた感じかなぁ。なんていうかこう、地味な作業の連続っていうか」


「い、意外です。聖女って言うからには、もっと華やかなイメージをしていました」


「セラフィム王国の『破邪の結界』はなんせ古くて、だからいたるところにかなりガタが来てたんだよねぇ……」


 それで結界を維持するために必死に働きづめでいたら、気付いたら5年も6年も過ぎてしまっていて。


 さらにいつの間にやら、婚約者が王女に寝取られてしまっていたという……。


 はぁ……。

 こうやって振り返ってみるとつくづく思うんだけど、わたしのここまでの人生ってほんとなんだったのかなぁ……。


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