第12話 可愛い妹と同居

「ジェイク様、最近めっきりご無沙汰じゃないですか。たまにはうちの寄り合いにも顔を出してくださいよ」


「悪いが今はかなり立て込んでてな。一段落したら、時間を見つけて顔を出すよ」


「じゃあ今晩お願いしますね。夜の8時からです」


「ひどい無茶を言うな!? オレは今やらねばならぬことでいっぱいなんだぞ!?」


「おや、お勉強ですかい?」


「も、もちろんそれもあるぞ……うむ」


「おっと、その顔はまたサボってる顔ですな?」


「サボってないから! 勉強が難しすぎて、ついつい記憶が空白な時間が生まれてしまうだけだ!」


「おおっ、あの勉強嫌いのジェイク様が、ボーっとしてしまうとはいえ、逃げ出さずに勉強してるだなんて!」

「ジェイク様と言えば、昔はいつも抜け出してはその辺りで絵を描いていたというのに。いやー、変われば変わるもんですなぁ」


「おいこら、うるさいぞお前ら! ミレイユに恥ずかしい話を聞かれるだろう。少しはオレの体面というものを考えてくれよな?」


「ミレイユ……? ああ、そちらの女の子ですかな?」

「おやおや、女の子の前でイイカッコしたいなんて、ジェイク様も年頃ですなぁ」


「ミ、ミレイユとはそういう関係じゃないから!」


「はいはい、そうですね、そういうことにしておいてあげます。ミレイユさん、ジェイク様をのことをどうかよろしく頼みますね」


「え、あ、はい」


「だから違うと言っているだろう!?」


 こんな風に、馬車が進むたびにジェイク様ジェイク様って、ジェイクは本当にいろんな人から温かい声をかけられるんだ。


「……? どうしたんだミレイユ。そんな『おっ、ちょっと見直したわ』みたいな顔をして?」


「そっくりそのまま、ちょっと見直したわって思ったのよ。かなり好かれてるのね、街の人から」

「まぁ、な」


「ま、どうせ勉強が嫌で抜け出して、街に繰り出してるうちに仲良くなったんでしょうけど」

「まぁ……おおむねそんなところだ」


「それでそのまま大人になっちゃって、今になって必死に勉強して取り返してる、ってとこかしら?」


「……当たらずとも遠からずだ」


 その点についてはジェイクも反省しているのか、ジェイクの受け答えはどこか歯切れが悪かった。


「まぁでも気付いただけマシよね。遊びほうけたまま見た目だけ大人になって、中身は子供のままで権力をかさにやりたい放題するようなヤツを、わたしはいっぱい見てきたし」


 例えばわたしの婚約者を寝取った上に、目障りだからとわたしを追放したあげく、聖女の資質もないくせに『破邪の聖女』になったヴェロニカ王女とかヴェロニカ王女とかヴェロニカ王女とか!


 なにが毎週末恒例の『ヴェロニカ・プレゼンツ・イケメンパラダイス!』よ!

 頭いてんじゃないの!?


 ああもう!

 思いだしただけでムカつく!


 とまぁ、そうこうしている間に王宮に到着したわたし達。


「ミレイユのために、王宮に賓客ひんきゃく用の部屋を用意してある。今から案内してもらうから、もし気に入らなかったら言ってくれ。気に入った部屋に替えてもらって構わないから」


 ジェイクがそういうことを言ってきたので、


「あれ、アンナはどうするの?」

 わたしは可愛いお付きメイドさんについて、質問してみた。


「宮廷職員のための宿舎があるから、アンナにはそこを使ってもらおうかと――」


「アンナはわたしと一緒の部屋じゃダメかな?」

 わたしはジェイクの言葉を遮るように、そんな提案をしてみた。


「えっと、ミレイユ様……わたしは宿舎で全然かまいませんので」


 アンナがそっとわたしのそでを引く。

 色々とわきまえているアンナらしい控えめな行動だ。


 だけど、アンナはこれからわたしのお付きメイドになるんだもんね。

 だから、


「1週間で『破邪の結界』を完成させるためにも、アンナには常に近くにいてもらわないと困るわ。いついかなる時でもすぐに手伝ってもらえるように、アンナはわたしと一緒の部屋のほうががいいかなって思うんだけど」


 わたしがそう提案すると、


「ふむ、確かにそうだな……ミレイユの言うとおりだ。事態は急を要する。近くにいて損はないし、コミュニケーションを深めることも大切だろう。うん、2人がそれでいいならオレはかまわないよ。なんなら隣り合わせの部屋を使ってくれても構わないし」


 ジェイクはすぐにオッケーをくれた。


「ありがとうジェイク。じゃあそうさせてもらうわね」

「ありがとうございますジェイク様!」


 さすがね、ジェイク。

 理にかなっていれば、他人の意見を取り入れることを全然躊躇ちゅうちょしないんだもの。


 なんとなくだけど、ジェイクは結構いい統治者になるんじゃないかしら?


 ただまぁ――今のは全部タテマエなんだけどね。

 本音のところは、わたしがアンナと一緒に過ごしたかったから。


 だってアンナってばすっごく可愛いんだもん!


 わたし一人っ子だったし、こんなよくできた「妹」と一緒に過ごしてみたいなって、ちょっとだけ思っちゃっても仕方ないよね?


 一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝るの!


 楽しいイベントを思い描きながら、わたしがなんとなくアンナの頭をなでなでしてあげると、


「えへへ……」

 アンナは嬉しそうに目を細めた。


 ふぅ、やれやれ、可愛いは正義ね……。


 そんなこんなで、アンナと一緒に案内してもらった賓客ひんきゃく用のゲストルームだったんだけど――、


「なにこれ、でかっ!?」


 中には部屋が複数あって、これってぶっちゃけ「家」じゃん!?


「ベッドもふかふかです~」

 アンナが嬉しそうにベッドにごろんとした。


「でもこれなら遠慮なく一緒に住めそうね」

「はい! ミレイユ様、これからしばらくの間よろしくおねがいしますね」


 ベッドに正座したアンナがちょこんと可愛くお辞儀した。


 くぅっ、可愛い!

 一緒に住むことにして大正解だわ!


 そういうわけで。

 わたしとアンナはしばらくの間、王宮の一室で一緒に住むことになったのだった。

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