第4話 「いいえ、けっこうです」
「ああ、それなんだけど、聖女ミレイユ。『破邪の聖女』である君を、月に金貨10枚で、我がエルフィーナ王国に雇い入れたいんだ」
「お断りします」
「そうか、来てくれるか――ってお断りします!? なんでさ!?」
「なんでって、いきなり会いに来て金貨10枚で雇いたいなんて話を、一体どうやって信じろと?」
だって金貨3枚あれば、4人家族が1か月は楽に生活できるんだよ?
だから月に金貨10枚という給金は破格中の破格だ。
しかも金貨10枚って言えば、『破邪の聖女』としてわたしがもらっていた金額と全く同じなのだ。
なにより、わたしがちょうど追放されたこのピンポイントすぎるタイミングでの接触ときたもんだ。
この自称王子は間違いなく、わたしのことを調べあげた上で近づいてきている。
わたしはそう確信していた。
そんな怪しい相手に、ホイホイついていけるわけがない。
最悪ここまでの話は全部嘘で、実は非合法の人買いだった――みたいな可能性すらある。
わたしの警戒度は、いまや最高潮に達していた。
「まぁ待て、それだけじゃないんだ。衣・食・住、および生活に必要なすべてを、こちらで工面しよう。お手伝いさん――メイドも1人つける。だからぜひ我がエルフィーナに――」
「お断りします」
だからわたしはもう一度即答した。
「だからなんでさ!?」
「見知らぬ人にホイホイついていくなと教わっておりますので」
「だから見知らぬ人ではなく、一国の王子だと言っているじゃないか」
「口では何とでも言えますし、わたしにはあなたの言っていることが本当かどうか、確かめようがありませんので」
「むむ……っ、それは確かに……な、ならば! 手付金を渡そうじゃないか。手付金として今すぐ前払いで金貨15枚、これでどうだ!」
そう言うと、自称王子は懐から袋を取り出して、その中から金貨を15枚渡そうとしてきた。
「けっこうです」
もちろんわたしはそれを貰ったりはしない。
「くっ、これでもだめか、ならばさらに給金を上乗せしようじゃないか! 月に金貨12枚だ!」
「いいえ、けっこうです」
「じゃあ15枚――いや、分かった、オレも男だ! 出血大サービスで、月に金貨20枚だそうじゃないか! これでどうだ!」
「あのですね。そもそも論として、女の子の心をお金でどうこうしようとするのは、良くないことだと思いますよ?」
「うぐ……決してそういうつもりでは……なくてだな、その……」
わたしにズバリ言われてしまって、見るからにションボリしてしまった自称王子さま。
力なくうなだれるその姿は、とてもじゃないけど一国の王子には見えなかった。
人の気の引き方や、相手をその気にさせる方法、そういった交渉のイロハを全くわかってない、正面突破しか知らない、交渉役としてはズブの素人だ。
親のお手伝いで店番している子供のほうが、まだ交渉能力があるんじゃないかな?
もしこれをわざとやっていて、誠実な人間を演じているのだとしたら、それはそれで詐欺師としては超がつく一級品かもしれないけれど。
だからきっと悪い人ではなさそうなんだけど……でも信用するにはまだ色々と足りてないんだよね。
「つまりあなたは一体、なにがしたいの……?」
なので、わたしが思わずそんなことを聞いてしまったのも、仕方のないことだろう。
「何がしたいって、もちろん『破邪の聖女』であるミレイユを勧誘したいんだけど……くっ、どうしてもわかってもらえないのか……ならばオレも最終手段をとるしかないな……」
だけどこの自称王子さまってば、まだまだちっとも諦めていないようで、小さくそんなことをつぶやいたのだ。
「最終手段……?」
――って、まさか強引に拉致でもする気!?
男女の筋力の差は大きい。
強引に連れ出されたらどうしようもない。
これちょっとヤバいかも、はやく助けを呼ばないと――!
あ、でもでも。
わたしってば王都を追放された身だから、衛兵さんも助けてくれなかったりするかも!?
突然訪れた危機に、わたしはかなり焦っていた。
そんなわたしの前で自称王子さまが取った行動は――、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます