第3話 自称エルフの王子さま

「うーん、これからどうしたらいいんだろう……?」


 わたしは一人、途方に暮れていた。


 王都から追放されてしまったから、まずは行き先を決めないといけないんだけど。

 よそに知り合いがいるわけでもない。


 ちなみにわたしの実の両親はアンドレアス&ヴェロニカによって、完全にお金で丸め込まれていた。


 可愛い一人娘が路頭に迷ってるっていうのに、『あなたは負けん気が強いから、一人でも大丈夫よ!』なんて言うとか、ひどすぎる。


 大丈夫なわけないでしょ!?

 さすがのわたしも泣くよ!?


 王都の城門を出てすぐのところにある乗合馬車の停留所で、わたしが大きな荷物に座りながら、うんうん今後の行く末を考えていると、


「『破邪の聖女』ミレイユ・アプリコットさんだね?」


 わたしは突然、声をかけられたんだ。

 声につられて見上げるとそこには一人の青年がいた。


 結構なイケメンで、耳が少し長い。

 でもエルフほどは長くないからハーフエルフなのかな?


 わたしも女の子なのでイケメンは嫌いじゃない。

 むしろ好き。


 だけど、


「えっとどちら様でしょうか?」


 わたしはややこわごわと尋ねていた。


 相手が二等市民のエルフだからじゃない。

 わたしはそもそも、一等市民とか二等市民とかそういう差別があまり好きじゃないし。


 耳の長さだけで、なんで区別をつけるのって思う。

 人間とエルフは、愛さえあれば子供だってできるのに。


 そんなわたしだから、こわごわ尋ねた理由はとっても単純で。

 単にそのハーフエルフの青年が、ぜんぜん見たことのない顔だったからだ。


 もちろんわたしは『破邪の聖女』として、それなりに顔が知られている。

 だからわたしの知らない相手がわたしの顔を知っていても、別に不思議ではないんだけど……。


 それでもだ。


 わたしが追放されたその日に、タイミングよくいきなり声をかけてきた知らない相手に、無警戒に対応するわけにはいかなかった。


「おっとこれは失礼。申し遅れました、オレはエルフィーナ王国第一王子のジェイクと申します。以後お見知りおきを」


 ハーフエルフの青年は、にっこり笑って自己紹介をする。


「エルフィーナ王国の王子さま……?」


 エルフィーナ王国ってたしか、西の方にある『迷いの森』のさらに奥にあるっていう、エルフだけの小さな国だよね?


 そのエルフィーナの王子さま?

 この人が?


「にこにこ――」


「ごめんなさい。はっきり言いますけど、あなたはすごくうさんくさいです」


 わたしは文字通りはっきりと言った。

 誤解の余地なんて与えないように、きっぱりと言いきってあげた。


「うぇっ!? うさんくさい!? オレが!?」


 わたしの言葉に、激しく動揺する「自称」エルフの王子さま。


「だっていきなりわたしの名前を確認してきたと思ったら、人の良さそうなスマイルを浮かべて自分は王子だとか言ってきて。これでうさんくさい思わない人は、いないと思いますけど」


「なんでだよ!? 笑顔であいさつすると、うさんくさいのか!? マジで!? だって笑顔であいさつは、コミュニケーションの基本だろ!?」


 自称エルフの王子さまが驚いた顔をした。

 どうも本気で分かってないみたい。


「タチの悪い詐欺師ほど、人が困ってるときに、こうやってさも人畜無害であるかのような極上の笑顔をして、近づいてくるもんなんですよ。今のあなたみたいにね」


「た、タチの悪い詐欺師……」


 世の中、だます奴が一番悪いのは間違いない。

 だからと言ってほいほいと騙されていては、バカを見る羽目になるのは自分だ。


 注意をしすぎて損することはない。


「普通はそう思うと思いますよ、『自称』王子さま?」


「『自称』!? オレは本当にエルフィーナ王国の王子なんだってば。だから全然ちっともうさんくさくなんかないし!」


 自称王子さまはなおもそう言い張るんだけど、言葉づかいとか態度とか、申し訳ないんだけどぜんぜん王子に見えないんだよね。


「はぁ……それで自称王子さまが、わたしにいったい何の御用なんですか?」


 ちょっと――いやかなりポンコツな感じの自称王子さま。


 このままだと話が進まなさそうだと感じたわたしは、仕方がないのでちょっとだけ話に付き合ってあげることにした。


 まぁ暇と言えば暇だしね。

 なにせ今のわたしってば、住所不定・無職だから……はぁ。


 思わずため息ついちゃったよ……。

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