第1章6節

 月曜日は休みだった。僕は朝から特急に乗って横須賀に行った。緊急の水道点検か何かで、家の水道が全て使えなくなるからだった。彼女と出会うまで、誰かと遊びに行くことなど滅多になかったから、一人で外に出ることはあったし、横須賀にはよく行っていた。


 電車が横須賀へと近付いてくると、車内には徐々に外国人が増えてきて、車内の会話も徐々に英語が幅を利かせてくる。一〇月だというのに外国人は薄着で、我々日本人との文化の違いを思い知らされる。僕は途中の汐入で降り、ヴェルニー公園まで歩いた。


 横須賀の港には普段のように多くの軍艦が居て、小型艇が忙しなく間を縫って働いていた。休日なのに大変だなあ、と僕は彼らに同情した。ヴェルニー公園から海を眺めていると、一隻の大きな軍艦が、背中にヘリコプターを抱えて出港していった。無骨な印象を与えるその船は旭日旗を掲げて、我々に日本の船であることを強調した。


 自衛隊か。


 僕の中学時代のある友人は父が海上自衛官で、僕は一度彼女に渡されたチケットで観艦式に行ったことがある。もちろん横須賀では自衛官募集ののぼりを掲げたテントに連れて行かれ、彼らに熱い勧誘を受けた。名前と住所を書かされ、高校受験の時には自衛隊の学校の見学にも連れて行かれた。学校の食堂のハヤシライスが美味しかったのと、案内役の幹部の言葉遣いが如何にも自衛隊然としていて面白かった記憶がある。肝心の中身は何も覚えていないが。


 観艦式はというと、訓練艦か何かに乗せてもらい、通勤電車のような混雑の中、艦橋や格納庫、食堂などを見学した。艦内見学の中では、主砲の旋回展示には中々の迫力があった。それから東京湾で色々な船を見た。そういえば、いま出ていった船と似たようなのも、観艦式で見たような気がする。ありがたいことに船酔いはしなかったが、展示の艦隊とはそれなりに距離があるのでどれが何だか、はっきりとは分からなかった。灰色の軍艦の中で、一隻だけ橙と白の鮮やかな塗装をしている南極観測船が一番目立っていたように思う。その後、飛行機が爆弾を投下して、大きな炸裂音とともに高く水柱を立てて行ったのが一番迫力のある展示だった。それなりに楽しめた観艦式だった。


 話を戻そう。


 僕はヴェルニー公園から横須賀中央の駅に近い繁華街がある場所まで移動して、そこで昼食を摂った。その後は少し歩いたところにある戦艦三笠の展示を一周して、三笠公園の適当なベンチで休んだ。すると一人の老人が僕に話しかけ、過去の軍艦や海軍についての色々な薀蓄を教えてくれた。ワシは戦争のときに船に乗っていたんじゃよ、なんて身の上話もしてくれた。彼は本当に楽しそうに僕に話しかけてくれた。元気な人だなあと僕は思った。二〇、三〇分ほど雑談して、僕は彼にさよならを言って帰った。一人の割には人との交流もあって、それなりに良かったと思う。

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