第13話 ダンジョン探検開始(弟子は昔のゲームを思い出す)。

「では本日の授業はここまで。各自用意された課題はしっかりやるように」


 そう言って立ち去っていく先生を見送ると、クラスの皆は各々準備を始める。

 さっさと帰ろうとカバンに教科書などを入れる者。部活に出かけようと詰め込んで急ぐ者。友達と談話を楽しみながらゆっくり帰り支度をする者などなど、普通科でもいろんなタイプがいる。他所よりは少ないけど。


「さて、俺も行くか」


 普通科のクラスは本当に一般的な授業と変わらない。

 高校生活が始まってから一週間が経過したが、特に他クラスからのトラブルもない。

 一緒に登下校したがっていたミコには、ちゃんとメールで忠告したからこっちに来る気配もない。すぐ電話が文句言ってきたが。


「え〜!? オレ、ジンと一緒に学校生活送れると思って、あの悪魔みたいな姉貴がいる此処に来たのによぉ〜!」


 不満は理解しているが、やはり自重してくれと念押しに言っておいた。


「まぁーオレも今はあんまり付き合えそうにないしいいけどさぁ。……最近、藤原が派閥広げて鬱陶しいし」


 あれで何処まで大人しくしてくれるか怪しいところだが、当分は総合科の連中と慣れる時間がいる筈だから、一先ずミコの問題はクリアでいいだろう。藤原が何かしているようだけど、俺には関係ないので放置。



 問題は桜香の方だ。こっちはこっちで別の理由で来ないと思っていた。

 どうせ家の車で登校するだろうから距離的な問題は一才ないと思われるが、厳しいあの家の方針を考えると間違いなく女子校を選ぶと思っていた。娘を溺愛している桜香の父親や厳しいアイツの母親ならそうしたと筈。


「土御門がいるのは、あっちだって知っている筈なんだが」


 何よりここには土御門がトップにいる。

 同じ七大魔法家系の神崎家とは、昔から対立し合っているライバル関係の家だ。……俺も神崎家の人間だったが、もう勘当された身なので多分大丈夫だと思う。


 七大魔法家系でもない白坂は関係ないようにも思えるが、白坂は神崎家の一派でもある。だから俺との婚約の話が出たんだが、それもあるから対等の四条家はともかく、桜香は間違っても此処を受験しない……と思っていた。まぁ、仮に入っても真面目な土御門から何かちょっかいを掛けるとは想像出来ないが。


「帰りに釘刺した影響か声こそ掛けて来ないが、チラチラ見てくるんだよな。お陰でアイツの周囲の連中からもう睨まれてるし」


 授業が重ならないから登下校や昼休み時に限るが、一週間もガン見されていたら嫌でも他の奴らの視線もつられていた。


「アイツはもう少し自分の存在の大きさを理解してほしい」


 敵意や蔑んだ視線はまだないようだが、訝しげな視線は数多く「誰だアイツは?」みたいな感じの視線が執念しつこいくらい来るのでハッキリ言って鬱陶しい。口にしたら喧嘩に発展しかねないから言わないけど。

 一方的にボコボコにしてしまいそうだ。


「幸いマドカが魔法科の教師を務めてくれてる。情報は逐一送ってくれそうだ」


 もしかしたら既に磨きに磨いたメイド流で職員室を制圧。全教員たちを影で支配して……いや、考えても誰も幸せにならないから止めよう。

 それよりも。


「……尾行はない。今日も撒けたか」


 教室を出て校舎内をあっちこっちに歩いるが、最近なんか付いて来ている視線がいくつかあった。

 知っているミコや桜香じゃなさそうなので正体が掴めない。念の為に毎回撒いているが、魔神の魔力を感じないから使者でもなさそうで、無駄に考える必要が出てきた。


「こっちは忙しいからいちいち構ってられないんだがな」


 とりあえず撒いたと判断して、学園の敷地内にある地下ダンジョンがある場所へ向かう。

 やはり普通科の身分の所為で手続きには結構苦労させられた。師匠から頂いた魔法銃の申請も色々と厳しい感じだったが、無事にチャックも通った。


 問答無用で没収されかねないハイスペック魔道具アーティファクトだけど、師匠の超偽装が施してあったから気付かれずに済んだ。


「次の方どうぞ」

「はい、学生証と入坑許可証です」

「はい……確認しました。Dランクですが、お一人で大丈夫ですか?」

「上の階層を回るだけなので大丈夫です。潜っても五階も行きません」


 ランクとは魔法階級とは別のもの。

 学校が提示した学生一人一人に付けられるものだ。

 ランクは受験の結果、入学最初の実力テスト、他にダンジョンの成果、模擬試験などで評価される。


 まだ入学したばかりで、俺が最近やったのは実力テストのみ。

 しかも、普通科の生徒に関しては筆記テストのみで模擬テストは免除が可能。受ければ当然成績に繋がるが、学園の評価なんてどうでもいいので迷わず免除を選んだ。


 ちなみにランクは階級と同じで下から二番目のDランク。筆記が良かったからそこだけ評価された感じだ。

 後日、ミコから色々と質問されたが、目立ちたくないとキッパリ言ったら苦笑いで納得された。


「分かりました。ですが、一人だと危ないことも多いので、決して無理のないようにしてください」

「はい」


 そんなわけで最初の実力テスト後の自由な放課後の時間。

 担任や他の職員に出したダンジョンへ入る許可と武器の申請を手にして、無事に飛行機の税関のような入り口を突破した。


 最後に危険物が入っていないか手荷物検査をされて、やっとダンジョン内へ入ることが出来た。


「少しくらい装備しておいてよかったか。師匠から銃を貰わなかったら、丸腰で入る命知らずにしか見えないか」


 服装が制服のままでちょっと心配されたが、スタート地点の周りしか回らないと聞いて納得してくれた。わざわざ重装備するほどヤバいのは居ないからな。

 

「それでも俺はこれくらいが丁度いいけど」


 ダンジョン内の通路は茶色のブロックの壁や床や天井、外で車が通るトンネルくらいの広さで、迷路のように四方に別れて続いていた。


 一層目のスタート地点だからか、休憩か作戦会議の為に何人かの二年以上の先輩がやはりいる。

 俺の学生服から一年が一人で入って来たと不審がられたり、呆れた眼差しが向けられるが、新入生ならよくあることだと、しばらくすれば視線はほぼ無くなった。有難い。


、この辺でいいか」


 尾行も気にしつつ、人気のない場所まで移動する。

 途中、始めの層だから設置してあるカメラや防犯系の機器が見えたので、それらも避けつつ通りそうにない、下に続かない第一層の隅で異世界の魔法を発動した。


「“理の世界を欺け”───『見えざる世界の狭間シャフト・ビジョン』」


 簡単な隠蔽系の結界である。オリジナル魔法だけど。

 複雑な魔法陣が手のひらに生成されて、一気に周囲に広がる。

 すると特殊な隠蔽結界が完成して、入口からこちらへ完全に……ではないが、遮断が成功した。


 これで向こう側からはただの壁にしか見えなくなって、音や衝撃、それに魔力も感じられなくなった。


「次だ。『土石壁アース』、そして『土石加工クリエイト』だ」


 基礎・初級魔法の土系統『土石壁アース』を発動。

 さらに異世界の派生属性の魔力を混ぜて、形態変化のスキル『土石加工クリエイト』も発動する。


 手のひらに出現した土石の一部。

 それを派生属性の特性で加工。太さはないが、一本の大きな刃の斧へ作り変えた。

 構えて視線をただの壁へ……先を捉えた。


「よっ」


 使った土石は手のひら分なので、大した質量はない。

 精々五〜六キロ分の土石の塊を伸ばして、広げて自分の背丈くらいの斧にした。

 普通なら軽く振るっただけでポキッと折れて当然。紙装甲もいいところだろう。


 それがまるでケーキでも切るみたいに、ダンジョンの分厚そうなブロックの壁をスパっと切ったらどう思う?


「ふっ!」


 さらに連続で切り裂く。

 人が入れそうなスペースが出来上がる。灯りはなく中は暗いが、俺は斧を持たない手のひらを暗闇へ向けた。


「『火炎弾ファイア』、『巨塔の篝火キャンプファイア』」


 土と同じ初級魔法の『火炎弾ファイア』を数発放つ。

 派生属性の効果で炎の塊だったそれは空中で停止する。

 そして、全ての炎が渦を巻き、オレンジ色の炎柱となって壁の向こうの闇を照らしてくれた。


「普通に『閃光灯フラッシュの方が良かったかも。居るのは分かってたが、警戒し過ぎた」

『──……!?!?』


 ギョッとした様子でこちらを見るのは、この隠れエリアを根白にしている巨大なスライム。

 岩の椅子らしきものに座って寝ていたのか、焦った様子で軟体な肉体をポヨポヨと震わせていた。


「いや、本当に焦ってるか分からんけどさ」


 向こうでもそうだが、ダンジョンの中で一番弱いEランクの魔物だ。……と同時にSSランクに近い最強の素質もある逸材。


 結構デカいのでビック・スライムとかデカ・スライムとか呼べそうだけど、細いことを一々気にしない。


「玄関でもない場所から入って悪いけど。このスペース、今日から俺が貰うよ」

『……!!』


 言葉が通じたかそれとも俺の態度か。

 いずれにしても臨戦態勢に入ったスライムがポヨンと岩の椅子から飛び立つ。


『『『……!』』』


 同時に四方の岩陰から隠れていた色んなスライムがわんさか出て来た。

 赤、青、緑、黄、黒、白、メタルカラーも混じっている。これだけバランスよく揃ってると戦隊モノが出来そうだ。


「けどゴメンよ。君らの対処法は向こうでも散々学んだ」


 属性なしの物理攻撃にはほぼ無敵に近い。

 けど弱点がないわけじゃない。


「……」


 静かに手を上げる。

 すると灯されていた『巨塔の篝火キャンプファイア』が反応して、天辺の炎が大きく揺れた。気付いたら炎の色がオレンジから、さらに濃い紅へと変化していた。


「臨戦態勢に入ってるところ悪いが、こいつらを配置出来た時点でお前たちは詰んでる」


 そう、『巨塔の篝火キャンプファイア』はただの照明ではない。

 一本一本がダンジョン内の空気と一緒に発生する魔力を酸素のように吸収。各々がエネルギーをチャージして色でそれを教えてくれる。


「『魔力・融合化』……───『精密形態武具テクニカル・ウェポン』」


 ただのオレンジの炎から紅蓮の炎へ。

 いい感じに溜まったようなので、魔力の触媒として発動に使った。

 周囲の紅蓮の炎が俺の持っている斧へと注がれて───



「『爆龍・炎刃衝バクリュウ・エンジンショウ』ッ!!」



 マグマのように真っ赤な炎斧をその場で叩き込んだ。

 スライムの根城、隠れエリアのスペース全体が真っ赤な紅蓮の炎に飲まれた。

 そして住人でもあるスライムたちは、魔石だけ残して跡形もなく消滅した。


「片付け完了」


 多少焦げや汚れが残ったが、三十畳以上はありそうな第一層の隠しエリア。

 無事に手に入れたので、早速お掃除とリフォームを開始した。


「にしても隠れエリアの裏ボスか…………なんか昔ミコにやってたゲームに似たようなのがあったな」


 側から見てもここまで楽そうには見えなかったけど。

 何度もやられて悔しそうにするミコを思い出しながら、手早く魔石の回収から始めた。


*作者コメント*

 今も昔もドラクエは神ゲーだと思います。

 それは歌も同様。歌があってこそです。

 素晴らしいゲームに感謝します。


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