第12話 贈り物は目立ち過ぎる(弟子は師の助言に頭を悩ませる)。
「少し待て」
そう言うと立ち上がって、師匠は手を合わせる。
すると透明だけど輝いている魔法陣が何十にも生成されて、師匠が真上へ飛ばすと大きなテレビ画面のような映像が映し出された。
「映画鑑賞ですか?」
「似たようなものだ。魔神に関する説明ならこっちの方が楽だ」
映し出されたのは、別世界の風景。いや、戦い光景。
魔神と師匠――二人の神が激突した時の映像だ。
師匠と並ぶのは守護者と呼ばれた仲間たち。
魔神と並ぶのは魔王と最上級の魔物の軍勢。
「オレが戦った魔神の一体。独裁の化身オゼトと魔王フルカスの軍勢だ」
「フルカス……悪魔の柱の一つでしたっけ?」
「オレも詳しくは知らんが、魔神や使者が所持する魔王の素材『
魔神との戦いはいつも激しく、天と大地を引き裂くほどと聞かされた。
実際に映像でも大魔法を繰り出す師匠に臆さず、攻めて来る魔神が見える。
そして激闘の末、魔王と共に魔神を倒したようだが……。
「魔神は常に魔王や使者が1セットで付くことが多い。この映像には映っていないが、魔神の使者と呼ばれる奴が魔物と魔王を操作している」
魔神の使者とは魔神直属の部下。
魔神に認められた存在。人間の場合もあるらしいが、密かに影で暗躍して舞台を整えている。僅かだが、魔神の魔力も宿しており、それで魔王を使役していると言われている。
「魔神を見つけるなら使者を狙うしかない。この意味は分かるな?」
「つまり、あの一件でも使者が動いていた可能性があると?」
マドカが見つけた魔神の側にも使者がいた可能性がある。と師匠は言っているのかもしれないが、あの時点で感知できた魔神の魔力は、本体と思われるアイツだけだった。
「警戒しろということだ。魔王がいるかは不明だが、使者が混じっている可能性は高い。今までの傾向からそれを考慮して動いた方がいいと考えられる」
そこで映像が消える。
魔法陣も消えると自然と視線が師匠の方へ移った。
「マドカからの報告にあった復活した二体の魔物の融合魔獣。間違いなく禁術魔法の『
やはり復活系と融合系の禁術か。
魔物殺しのスキルと聖剣を使ったとはいえ、それを倒したからには向こうは警戒した筈。
「正直、ジンの世界で魔神が活動していたのは、予想外だったが、関わった以上は覚悟しろ。魔神は一度敵と決めた対象には容赦しない。それも――」
魔導神であるオレの弟子なら尚のこと……。
「神族を憎んでいるっていうも本当なんですね」
「個人的には逆恨みにしか聞こえないが、魔神側には立派な言い分があるらしい。興味はないがな」
元々は神族でありながら、裏切って魔神に落ちた存在たち。
切っ掛けは不明だが、師匠の言い方からしても相当根深い事情があると思われる。
「どっちにしても俺にはどうしようもない事実ですね」
「そういうことだが、関わったからな。注意ついでにちょっと渡しておこうと思ってな」
渡したい物? 何かと首を傾げるとテーブルに魔法陣が生まれる。
召喚系の魔法陣か、輝くといくつか物が出現した。
よく分からないけど、要するにお祝いを兼ねたプレゼントってことか? だとしたら素直に喜ぶけど、ブレスレットの件があるからな……。
「仲間が作った一品を俺が改造した物だ」
「改造の一言で嬉しさが一気に半減しましたよ。わざとですか」
嫌な予感が的中したよ。正直受け取りたくない。
「不満か? 受け取った方が色々と誤魔化しやすくなると思うが? ダンジョンや学生同士のトラブルとかな?」
「うっ」
なんとなく想像は付く。
「マドカから聞いたぞ。こっちの世界の魔法を『武装化』『融合』したら驚かれたと。そちらの世界じゃお前のスキルは目立ち過ぎるんじゃないか?」
おっしゃっるとおりです。
後になって思い出したけど、この世界の魔法は異世界の魔法とはかなり異なる。
階級制度が影響してか、スキルの方は人間よりも魔物に多い。
階級によって使える魔法ランクが決まる。取得方法は魔法政府が保存している魔法式を自身の魔力を対価に取り込むこと。
スキルや技量も求められるが、結局この世界では魔力がすべて。
そして、より上位の魔法を取得するだけで、この世界ではトップの仲間に入れる。
言い方が悪いが、つまり向こうの世界と違って、こっちの世界は力任せな連中が多い。だから小細工をするスキル持ちが少ない。
「属性や魔法を武器に纏う『付与』は割といるんですけど」
「基礎的な技法だな。その上の形態変化まで極めてないというわけか」
だって必要性がない。魔力量がものを言うこの世界じゃあまりにもマイナーな方法と言える。
「その為の銃ですか?」
テーブルに置いてあるシルバーの銃を持つ。
少し大きめのリボルバータイプの銃。特殊な模様が施されており、腰に付けるホルスターと一緒なのが気になる。
「ホルスターも魔道具ですね?」
「装填用の魔弾が作れる。あとこの銃にも仕掛けがあって……」
俺が持っていた銃を取ると、回転弾倉ごと上の部分がスライドして外れた。
ホルスターに触れて魔力を注ぐ。すると銃が収まる部分から銀のパーツが出現して、長めの銃身の上の部分が持ち手と合体した。シルバーのライフル銃のようだ。
「師匠の趣味ですか?」
「知り合いの趣味だ。他にも機能があるが、とりあえず当分はこれで補うといい」
まぁ、魔法銃はこの世界にもあるし、ちゃんと申請すれば通ると思うが……。
「性能は師匠のことだし大丈夫だと思いますが、俺との相性も大丈夫なんですか?」
「問題ないだろう。ある程度はこっちで調整済みだし、お前ならさらに改良が可能だ」
出来なくはないが、やっぱり目立ちそうな気がする。
魔法銃は便利そうだけど、使うのはダンジョン内だけに留めるようにしよう。
「それと最後に忠告しておく。敵の魔神がどんなタイプかは知らないが、もし邪悪魔獣を倒したお前を警戒しているとしたら……」
素直に有り難いと返したくない話。
うんざりとした気持ちで頷くが、どうやら厄介になりそうな学校生活以外でも面倒なお仕事が増えそうな流れである。
……はぁ、俺はただダンジョンが欲しいだけなのにな。
必要なさそうだから話を飛ばす。
色々と不安はあったが、師匠と別れて元の世界で行われた始業式は問題なく済んだ。
教室の方に移動しても特に騒ぎになることなく、その日は無事に家に帰ることができた。
良かったことがあるとすれば、始業式に厄介そうな面子を確認することが出来たことだ。
まず初めに学園長からの挨拶。在校生代表は生徒会長の
入学生代表は桜香かミコかと思われたが、意外なことにあの
ついでに、この学園の学科について説明しよう。
毎回言っているが、俺はひとクラスしかない『普通科クラス』に所属する。魔力全然で階級も下から二番目だから当たり前。
そして圧倒的な人数を誇る魔法科が存在するが、実はコースの三つ、三クラスあって競い合うように派閥があると聞いている。
まずは『魔法戦術クラス』。
言葉の通り戦闘面に特化した選択科目が多く、選んでいる生徒の大半が戦闘派の魔法使いで占めている。
知っている一年では桜香が入っているようで、既にエース兼リーダー的なポジションを獲得しているみたいだ。
対立するように『魔法総合クラス』。
戦闘面だけじゃなく、魔法関係全般を学ぶコース。将来は魔法企業の幹部ポジションや探検者チームの作戦隊長など、上に立つ者が選ぶコースだ。
将来は神社を引き継ぐミコや戦略家の藤原が入っている。ミコの場合、桜香と同じクラスになりたくなかっただけかもしれないが。
最後に『魔法研究クラス』。
後衛の魔法使いや研究気質な生徒が選ぶコース。魔法や魔物の解析や研究、さらに素材などを加工する製作者を育てる。
他の二クラスよりは普通科よりのクラスで、クラス内での競い合いは多いが、外部や他クラスからの依頼を受けるので、交流も多く意外と儲かっているらしい。
「いつか依頼するかもな。……今すぐは無駄に目立ちそうだが」
何人か気になる面々やこちらに視線を向けてくる奴らがいる。名家繋がりの関係者か、予定が詰まっているので、すべて無視することにするが、やはり魔法学園はリスクがデカい。関われば面倒になるのは明らかだから。
「まぁ、あの中に魔神サイドの使者って奴がいたら話は別だけど」
まだ確信がないもしもの話だが、注意しても損はない。
予想外にミコたちがこの学園に入って来たこともある。今後はもっとに慎重に動かないとな。
しかし、予定を遅らせても得がないのもまた事実。
桜香が無理だが、ミコにはちゃんと釘を刺した上で、なるべく隠密に動いてダンジョンに入ることにしよう。
*作者コメント*
クラス呼びはそれぞれの選択科目で表しています。
さらに個人ごとにランクが付きますが、それは次回に回します。
ついに師匠が登場しました。特に影響のない範囲のアイテムをゲットです。
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