第14話 秘密基地と動き出すクラス外の波乱(弟子の不良イメージはフランスパン)。

「それで、私が仕事で忙しいうちにこんな風にしたと?」

「過ごし易いだろう?」


 リフォームを始めて二日後、授業も終わった放課後。

 教員であるマドカに付き添うという形で、ダンジョンの隠しエリアに入っていた。


「それに補佐ということでマドカの素材採取に付き合ってるんだ。今後も素材を利用するならこういう場所が必要だろ?」

「補佐といっても、授業サボったペナルティですけどね」

「細かいこと気にしない。あとサボったのは実技で必要なかったやつだから」


 普通に一緒に入ろうとすると、入り口の管理職員に呼び止められるのは確実。

 そこで偶々俺がサボった体育の組手授業の件を教員のマドカが利用した。


 実技関係はサボっても評価点数に響くだけで、実際に処分されるような重い行為ではない。

 サボっている生徒なら他にもいるし、体育の先生も一々注意したりせず、ただ不参加で点数を落とすだけで終わるが、なるべく学園内でも俺と接点を持つためにマドカが切り込んで来た。


「その所為で一部教員から『普通科の問題児』みたいに見られ始めてるんだが……」

「問題児ではありませんか? 学校側に内緒で、このような秘密基地を作ったり」

「秘密基地、それは男のロマンなのさ。マドカ先生」


 惚けるのもそのくらいで。

 まず俺がリフォームした元スライム部屋の隠しフロアを紹介しょう。


 場所はダンジョン第一層の壁の奥。

 部屋の間取りは長方形のような三十畳以上の広さ。

 スライムは特に造形や家具など、何かを置く趣味なんて皆無だったから、燃やし尽くした後には何も残っていなかった。


「椅子、テーブル、ベット、ソファー、本棚、魔法の収納棚、武器用の収納棚、魔法の冷蔵庫、魔法のパソコン。あと部屋の隅にトイレのマークが付いているドアがあるんですが……」

「うん、トイレ。師匠から貰ったトイレの魔道具を引っ付けた。壁と扉とかは土魔法で済ませて、何か電池式だけどライトを天井にぶら下げてある。他にもシャワー室とか風呂も作る予定だけど、まずはトイレかなぁーって思って」

「いつから建築士になったんですか」


 ツッコミどころが満載だったらしい。

 いや、俺もマドカの立場だったそう言ったかも。


「あと広さを利用して練習場も付けようと思う。一層目だからあんまり広さは期待してなかったが、予想よりもずっと広かったから手間がだいぶ省けた」

「何層かに分けて隠れエリアを掌握。そうして上層、中層、下層を制圧していき、最後にはダンジョンそのものをこっそり支配する算段。悪どい考え方ですね」

「効率的な学生生活を送るためだ。何の為にあんなに苦労して受験したと思ってんだ。これぐらいは当然の手段だ」


 淡々とダンジョンを降りていくのはハッキリ言うが、愚策の一言に尽きる。

 学生である期間なんて経ったの三年。エスカレーター式なら別だろうが、俺は淡々と済ませる気はない。トントンと行く。


「一年だ。一年で一通り済ませる。その頃には俺の封印もある程度外せれるようになる。桜香たちが何をしてこようが、核さえ手に入ればこっちのものだ」

「のんびり過ごそうとは思わないんですか? 少なくとも貴方の師匠はそうしていたようですが」

「単に怠惰なだけな気もするけど。俺はもうのんびりし過ぎた」


 そう、のんびりどころではない。

 この数年間、俺は何もしてこなかった。

 師匠たちに出会うまで、本気でそれでいいと思っていた。


「ま、しばらくはそうしても良かったと帰還した頃は思ったけどさ」


 魔神の件、それに師匠の件が脳裏に過った。


「こんな銃まで渡して来たからな。絶対に何かある。いや、

「何かやらかして、それを隠すために魔神の話を引っ張り出したと?」

「いや、それも全く違うとは考えにくい。もしかしたら、その件で何かヘマをして、俺に……」

「尻拭い。ありえますね」


 考えれば考えるほど悪い方向に話が進む。

 万能に見えてあれで結構ドジだからな師匠。


「一応ケータイも貰ったし直接問い質してもいいけど、はぐらかされる可能性が非常に高い」

「分かりました。その件はこちらから聞いてみましょう。あの方々に」


 あの方々、言わなくても想像できた。

 あの神的な師匠にガチで説教できる強ーい女性陣のことだ。

 俺にはメッチャクチャ優しかったけど。


「それと桜香たちの件も頼む。一応釘は刺してあるが、何もして来ない保証もない」

「構いませんが、私もまだ新米の教員。動けるだけ動こうとはしますが、まだ慣れてないので、当分は厳しいと思います。学生同士のトラブルも絶えませんし」


 はぁと溜息を溢すマドカ。

 うちのクラスは比較的にお利口な方だけど、どうやら他所は違うのか。


「具体的にどんなトラブルが?」

「色々ありますが、一番多いのは決闘形式の試合による過剰暴行」


 決闘による過剰暴行。

 唯一学園側が試験以外で認めている戦闘形式。

 魔法教員の監視の元で行われる生徒同士の対決形式。

 一般の学校なら問答無用で問題になりそうだが、この学園では喧嘩の抑制に意外と役立っているらしい。


 ストレスかな? 魔法科では考えや意見で納得いかない同士の要請が多いようだが、それでも過剰暴行とは……。


「穏やかな話じゃないね。やったことないから知らないが、そんなに過激になるのか?」

「一応試合前に安全補助セーフティーの魔道具を付けて行いますが、あれは死亡事故や重傷者を出さないようにするだけなので」

「死なせたり、重傷にならないレベルの暴行行為か。何だか悪意を感じるな」

「でしょうね。私も同意見です」


 マドカの説明がそう思わせているようにも聞こえるが、どうやら勘違いでもなさそうだ。


「研究クラスの生徒と総合クラスの生徒はそうでもありませんが、戦術クラスの生徒がひど過ぎて……この一週間で既に十五件以上の決闘が行われて、過剰暴行が認められています」

「どこの不良学校だよ。此処は」


 荒れるにしても異常だろう。

 入学してまだ一ヶ月も経ってないだろうが。


 なんか気になって話を聞いていると、他のクラスでも少なからず被害あるそうで、その過剰な決闘の中心では、ある一人の不良学生の名が浮かび上がるそうだ。


鬼苑きえん亜久津あくつ

「魔法名家の人間ではないそうですが、戦術クラスの中でも一位、二位を争うぐらいの力量です。その代わり絵に描いたような不良スタイルな学生で、クラス一の悪です。授業態度も最悪で何人か子分も作っているようです」

「子分って何?」


 顔も知らないからイメージで想像するしかないが。


「絵に描いたような不良……」


 脳裏で「テメェ、超舐めてんのかッ!」ってキレ気味のフランスパンなリーゼントヘアーが見えた。


「クラス一の悪、授業態度も最悪……」


 脳裏で「アァ?」とか「センコーが指図すんなッ」って言いながら、フランスパンなリーゼントを振り回している。


「子分も作っている……」


 脳裏で「ヘイ、アニキ!」「ヘイ、アニキ!」「ヘイ、アニキ!」ってフランスパンなミニリーゼントが複数見える。


「不良の鬼苑亜久津」


 フランスパンなリーゼントで、ミニフランスパンなリーゼントの子分がいて……。



 フランスパンをかじって「舐めんなゴミども!」とか言ってそうな奴。



「怖いな。フランスパンとか硬そうで超怖い」

「あなた……最初から真面目に聞いてませんね」


 はい、だって他所のクラスの問題だし。


「迂闊なことを考えていると足元をすくわれますよ? さっきも言いましたが、その鬼苑という不良生徒は自分クラスだけじゃなく、他所のクラスにもちょっかいを出してます。普通科は後回しにされてるようですが、いずれ彼の子分が何かしらアクションを起こしてくるかと」

「未熟者の集まりな普通科に? それこそありえんだろう。第一そんな不良もどき同じ戦術クラスの桜香が黙ってないだろう」


 そうだ。あのクラスには桜香がいる。

 伊達に魔法警務隊には所属していない。そんな奴が同じクラスなら既に手を……あれ?


「もう一週間も続いてるのに、なんで止まないんだ?」

「授業が始まってすぐ二人は対立し合う関係になっています。それによってクラスも二つに分かれて、この一週間の決闘被害者はほぼ彼女のグループたちです」


 対立を始めてほぼ一方的に桜香の仲間たちがやられている。ということか。


「一週間も経つのに、桜香は何も対策を取ってないのか? アイツの性格を考えると仇討ちを理由に真っ先に突貫しそうだが」

「相手もただの不良ではないということです。意外と策士な要素もあるようで、彼女からの決闘要請だけは全部拒否しています。他の子分も同様に」


 確か、決闘はお互いの同意が必要だったか。

 強要は認められず、もし発覚すれば強要者には厳しいペナルティが待っている。

 好き放題やっている奴を成敗出来ず、悔しそうに地団駄を踏む桜香の姿が容易に想像できた。


「だとするとさらに疑問が浮かぶ。何で向こうの大将は拒否してるのに、桜香たちのグループは拒否してないんだ? あっちが何しているか知らないが、怪我するだけと分かってるなら無視すればいい」


 しかし、無視せず決闘を承諾してやられている。聞いていると、どうも違和感しかないが。


「言いましたよね? 彼は策士な不良だと。どんなに相手が嫌がっても、拒否出来ない状況というのもあります。そこに追い詰めればいいのです」

「……まさか脅して?」


 認められるのか? そんな暴挙を。


「見つからなければ学園側も対処のしようがありませんので」

「と言いつつマドカは見つけてるわけだ?」

「さて、それはどうでしょう?」


 返答をぼかす。それだけでも怪しいが、無表情以外は滅多に見せない不敵な冷笑が微かに口元の浮かんだを、俺の目は確かに捉えていた。


「ま、まぁ俺に何も被害がなければどうでもいいけどな」

「ふふっ、冷たい人ですね。可愛い幼馴染さんがピンチかもしれないのに」


 いや冷たいのはアンタが纏うオーラだから。

 不良でも桜香でもなく、マドカこそが一番の怖い存在なのだと、俺は知っていながら改めて自覚した。


*作者コメント*

 フォローと評価と応援、大変ありがとうございます!

 まだまだ雑な感じですが、どうにか頑張っていきたいと思います。


 今回は話がほぼ真っ二つに分かれました。

 秘密基地ってやっぱり憧れません? 昔小学生の頃、まだゆるーい時期ですが、学校内にそれっぽいのをみんなで作ったのを思い出します。最後どうなったか忘れましたが(苦笑)


 自分はよく知りませんが、昔の不良の人にはリーゼントヘアーが多かったらしいです。手入れが大変そうですが。

 知り合いにも天然のミニリーゼントな友達がいましたが、あれは濃い癖毛が原因らしく、修学旅行の温泉後、乾くうちにあのミニリーゼントがふっくら盛り上がったのを確かに見ました。癖毛強。

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