第1.5話 年越し蕎麦
*作者コメント*
オマケ回です。
――――――――
いつものようにテレビを見ている。
恒例の紅白番組を見ながら、炬燵でぬくぬくとしていた大晦日。
刃「ジィちゃんはどっちが勝つと思う? 俺は白チーム」
祖父「わしは赤じゃな。刃には悪いが赤の圧勝じゃ!」
刃「え、そうなのか? 理由ってなに?」
祖父「赤にはアイドルチームが多い! 白は可愛い子が少ないからつまらん!」
刃「……基準がエロジジィだよジィちゃん。いい加減にしないと、バァちゃんに呪い殺されるよ?」
祖父「ただアイドルを愛でてるだけじゃよ。あの世のバァちゃんだってアイドル野郎共のファンじゃったし、お
刃「そ、そうなんだ。ちょっと意外だね」
人数多過ぎて、俺はとても覚え切れないけどね。
ガチファンなジィちゃんとどの子が可愛いのかと話を交わしながら、やってくるその時を待っていると……。
マドカ「お待たせしました。熱々の年越し蕎麦になります」
祖父「おおお〜待っとたぞー!」
刃「ありがとう。マドカ」
ホームステイ扱いのマドカが調理してくれた蕎麦がテーブルに並ぶ。
いい出汁の匂いがする。途中見ていたが、麺に至るまで彼女の手作りである。
祖父「ホホホホ! 美味いのぉ!」
刃「美味しいな。けど流石にやり過ぎじゃないか?」
まずちゃんと美味しいとお礼を述べる。本人の希望とはいえ、いつも炊事洗濯まで任せてるから、そこはちゃんと言わないといけない。
本当は素直に喜びたいところでもあるが、台所の大きめのテーブルの状態を見てつい言いたくなってしまう。手打ち蕎麦とか……そこまでやるか?
マドカ「愚問ですね。私の辞書に『妥協』という言葉ありません」
刃「……だよね。こっちの基本知識も一ヶ月足らずで覚えるし」
ホント、万能メンドみたいな人だ。
俺に言われて無表情でも嬉しいのか、真っ平らな胸元をポンと叩く。心なしか口元が弧を描いているようにも見えた。
刃「凄い。ラーメンみたいに麺にしっかりとしたコシが……」
マドカ「勿論、蕎麦の素材からしっかり厳選しています。水に至るまで抜かりなしです」
刃「何処から取り寄せたの? この乗ってるお肉」
マドカ「焼き加減も調整済み。出汁にも役立っててます」
刃「ネギ、半熟卵……」
マドカ「ネギは県を跨いで取り寄せ、卵は茹で過ぎないように時間を掛けて味を馴染ませました」
たった数ヶ月でどれだけパイプを増やしてるの?
手際とか技量とかそういうレベルを遥かに超えているよ。手腕? いや、超人? 怪人の間違いか?
刃「やっぱりやり過ぎだと思う」
マドカ「私に『加減』という辞書はありません。お正月の餅も万全です」
どうやら全能の間違いだったらしい。
こちらの世界でも変わらずの彼女に、平常運転だなぁと寧ろ納得してしまった。
祖父「良き嫁を持ったのぉ〜刃。ジィちゃんは感動じゃ!」
刃「チ・ガ・ウ」
こっちはこっちで巻き込み事故を起こしてやがる。
最近のジィちゃんのテンションは、どうやら年越しても続くようだった。
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