第30話

心臓が破裂はれつしそうだが、

此処は冷静にならなければ…

行ったら…殺される可能性もある。

行くならその前に、準備してからだ!

頭の中で整理しろ!

何か武器ぶきはないか?…

………ん!………お!

よし!胸の内ポケットにボールペンがあった!

俺はボールペンをそっと取り出し、右のズボンのポケットにえた。


!ん、あとは…携帯けいたいがある!

何とか電話できないものか?…

くそ!考えてる暇はない。

んー…よし!いちばちかだ!

俺は徐ろに携帯を取り出し、同僚どうりょうの警官に電話をかけた。

プルル、プルル、プル。

三度目の呼び出し音の時、背後に気配を感じた。

その時!



冴刃警視

「水宇羅君、誰に電話しているんだね?

今は、極秘捜査中ごくひそうさちゅうだよ!許可無きょかなく電話はダメですよ。今すぐ切って下さい。」


表情の無い、その真顔まがおで俺に迫ってくる。

それでも俺は無視し、電話を離さない。

プルル、プルル、何回目のコールだろう、

まだ出ない。

とにかく早く出てくれ!俺は電話をにぎりしめいのっていた。

しかし、…とうとう…タイムアップの時がきた。

突然横から出てきた冴刃警視の手が、強引に俺から電話を奪った。 

電話を奪い目視もくしで確認した冴刃警視が、無情むじょうにも、その人差し指で、ポチっと頼みのつなを切ったのである。

そして俺の携帯を、自分の胸ポケットへ放り込んだ。


冴刃警視

「いかんねぇー、いかんよキミ!

何をどう感じたんだね?先程も言ったが、極秘捜査中はお友達にも電話しちゃいかんだろ。…もしかして私を疑ってるのかね?!。」


「い、いや、そうゆうわけじゃありません。ただ、パニックになってしまって…その…」


冴刃警視

「まぁいい…パニックねー…ふー、

とにかく一緒に来なさい。」


冴刃警視は、ワンボックス車を指差した。

俺は思った。ワンボックス車で鮫頭と合流した時が勝負しょうぶだろう。

しかし…今なら一人でも逃げ切れるか…

だがさっきの鮫頭のように、捕まるのがオチか…

どうする…どうする…考えろ…考えろ…

そしてガムシャラに考えた。


もうこのままダッシュしよう!そう決めて、

行こうとした瞬間、冴刃警視の右手が、俺の左肩をガッチリと掴んだ。


冴刃警視

「水宇羅君、じゃあ行こうか!。」


その顔は、今まで見たこともない、能面のうめんのような表情ひょうじょうであった。

俺は先ほど見つけたボールペンを、右手で握りしめた。


ここは覚悟かくごを決めて、全員相手にするというと気構きがまえでなくては…心でそう強く思った。

そして、俺一人で戦うより、鮫頭と二人なら勝ち目も…出てくる…

戦う覚悟で…行く…

そして俺は、冴刃警視の言う通りついて行った。


ワンボックス車がどんどん近づいてくる…。

俺の右手はボールペンを強く握っている。

ドックンドックンと、心臓が鳴るのがわかる。

ドクンドクン、更に心臓は速くなる。

すると、先ほど冴刃警視が乗って来た車がすごいスピードで、砂埃すなぼこりをあげながら此方へ向かって走ってきた。

そして車は急ブレーキをかけ、俺の横にピタリと止まった。

俺は、咄嗟とっさ身構みがまえた。

すると運転席の窓が静かに開いた。

宇恵村警視正である。

それと同時に、後部座席こうぶざせきがチラリと見えた。

黒さんらしき人物じんぶつが、人形にんぎょうのように横たわっていた。

!…まさか…

俺は、ハッとしながらも、やはり!という気持ちになった。

早く逃げなければ…

しかし身体が全く動かない…

身体が言うことをきかないとは、こうゆうことか…と初めて知った。

そして、金縛かなしばりにあった身体は固まり、俺は口をあんぐりと開けるしかなかったのだ。

そんな俺に…

宇恵村警視正はゆっくりと、サイレンサー付きの拳銃けんじゅうを俺に向けると…何の躊躇ちゅうちょもせずに、

がねいた。


プシュ!


それは、まるで、スーパースローのように…なまりたまが俺に近づいてくるのがわかった。

それを俺は冷静に、ただただ見つめていた…

そして、その冷たい鉛の玉は俺のひたいに…


ビシッ


めり込んだ。


…一瞬で俺の意識は失くなった…


それはまるで、テレビの電源でんげんを切ったかのように……くらやみが一瞬で広がったのだった。



宇恵村警視正

「冴刃君!遅いよ!待ちきれなくて来ちゃッたよ笑。」


冴刃警視

「いや~、宇恵村警視正、こりゃ掃除大変ですよ!。」


宇恵村警視正

「ハハハ。すまないねぇ。それより冴刃君、彼の右手を見てみなさい。」


冴刃警視

「もうー、一体何なんですか!?。」


冴刃警視は水宇羅に近付き、右手をのぞいた。


冴刃警視

「これは…ボールペン…

なるほど…彼も彼なりに…なるほどねー笑。さ、片付かたつけましょうか?工匠達を呼びます。」


宇恵村警視正

「ああ、そうしたまえ。私はあっちの車に移動するよ。

ああ、それと、手左木の始末も頼んだよ笑。」


そう言って宇恵村警視正は、工匠達の乗って来たワゴン車へと歩いて行った。


冴刃警視は工匠達を呼び寄せた。

工匠と湖北が来ると、冴刃警視は呟いた。


冴刃警視

「手左木君も可愛かわいそうな事をしたよ…。

欲をかかなければ、生きていたのにねぇー。

まぁー、しょうがないね。じゃあ、あとは頼んだよ!

お、あっと、バッグに入ってる金もトランクにえておいてくれよ。頼んだよ。」


そう言うと、冴刃警視は宇恵村警視正の車へ歩いていった。


そして冴刃警視は、何かを思い出したかのように振り返り、工匠達の方を見ながら、


冴刃警視

「あーーー、そうそう、忘れてたよ笑。

鮫頭は始末してもいいが、

あの、ジローという奴なぁ、…逃がしてやれ!。」


工匠達は、え!というような顔で、一瞬固まりお互いの顔を見合わせた。

すると、冴刃警視は、


冴刃警視

「驚かなくていい笑!ハハ。

実は彼は、我々の情報提供者なんだよ。

だから離してやってくれ。

また、向こうの組織の情報を流してもらわないとな。あははは!じゃあ頼んだよ。」


工匠達は最初は驚いたが、直ぐに状況を把握はあくした。

死体を片付け清掃した。そして最後に残った鮫頭を始末し、ジローを解放することにした。


工匠

「さぁ、さっさと片付けて早く帰ろうぜ!。」


そして一つ一つ、痕跡を消していくのであった。

片付けが終わると、工匠はジローの乗っているワンボックス車へ行った、。


ワンボックス車の中には、結束けっそくバンドで両手を後ろ手にしばられた鮫頭とジローが乗っていた。

工匠は湖北に目で合図し、首を少しだけ右斜みぎななめ上に動かした。

れという合図である。

湖北は無表情でふところに手を伸ばし、

その黒い塊、即ち拳銃を取り出した。

そして左手で上着の左ポケットからサイレンサーを取り出し、キュルキュルと拳銃の先に取り付けた。

そして、鮫頭の後頭部こうとうぶ標準ひょうじゅんを合わせた。

鮫頭は全く動こうとしなかった…。

自分は殺られると、既に受け入れているのであろう…。


湖北は握ったその拳銃に、そっと左手をえた。

そうして、その引き金を一度引いた…。

プシュ!

わずかな血しぶきが、線香花火せんこうはなびのようにった。

鮫頭は力無く…まるでスローモーションのように崩れ落ちていった…。

それを工匠は見届けると、ただ…ゴミをゴミ箱にてるかのように、

平然へいぜんとした面持おももちで、

次の工程こうていに進む…。


工匠

「ハイ、じゃあ次は、おい!お前降りろ!手錠を外してやる。」


ジローは後ろ手のまま、ワンボックス車のサイドドアから降りた。


カチャカチャ ガチャ!

手錠は外れた。


工匠

「おい!お前らは車に戻ってろ!。」


工匠は仲間の二人に車に戻るよう云った。

そして、二人が車に乗るのを確認すると、

ジローの肩を引き寄せ、耳元みみもとで呟いたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る