第29話

鮫頭が戻ってきた。

ウィンドブレーカーの男と湖北に両脇を抱えられて。

そのさまは、まるで捕まった犯人だ。

俺は、もう驚くのを止めていた。冷静に考えられるようになっていた。

冷静になればなるほど、

俺は、頭に血がのぼっていた。


「おい!鮫頭を離せ!同じ仲間だろ!。」


するとウィンドブレーカーの男は、一瞬キョトンとしたが、突然笑い出した。

それにつられたのか、湖北も笑い始めた。

俺は、益々頭ますますあたまに血がのぼる。


「何が可笑おかしい!そんなに面白おもしろいこと言ってねぇーけどな!あ!。」


すると、冴刃警視が頭をかきながらこう言った。


冴刃警視

「まぁまぁ、落ち着きたまえ水宇羅君。

鮫頭の事はちゃんと考えてるんだよ。

それなのに…何で手をかすかな??鮫頭は!。」


「鮫頭を何処へ連れて行く気ですか?

こっちに連れて来て下さい。

鮫頭も潜入なんでしょ!冴刃警視!。」


また、冴刃警視は頭をかきながら答えた。


冴刃警視

「あのねぇー水宇羅君…鮫頭君は潜入でありながら、こちらの情報を、向こうの組織に流した可能性があってね…だから、これから調しらべするんだよ。」 


「…取り調べ?…取り調べするならしょへ連れていって、取調室とりしらべしつですればいいのではありませんか?。」


冴刃警視

「いやいや、そんな大袈裟おおげさじゃなくてだね、 此処だけの話にしたいと、我々は考慮こうりょしてるんだよ。」


「警視…そんなことしたら、隠蔽いんぺいになりますよ!!鮫頭が本当に情報を流したのなら、逮捕するべきです。

とにかく、鮫頭を此処に連れてきて下さいませんか?。」


冴刃警視

「…んーフフフ笑、それは出来かねる!

宇恵村警視正が、直ぐにでも鮫頭君に聴きたいらしいのでね。」


「…」


もう手遅ておくれだが、俺の予感は当たっていた。

鮫頭が言った誰も信じるな!とは、

此処にいる全員が、警察、組織の裏切り者だということだ。

俺の最初の直感は当たっていた…。



ならば此処からどうやって、脱出するか?!


そしてまた、呪文じゅもんのように、自分に言い聞かす!

頭を氷のようにクールにしろ!

冷静に、そしてこういう時こそ、客観的きゃっかんてきになるんだ!

そうすれば、かならず道は開かれる。

回りを見渡せ!何かヒントはないか?

俺はそう自分に言い聞かせながら、辺りを見渡した。


俺らが走って来た、道の側の遊歩道ゆうほどう…その横には川が流れていた。

どれくらいの深さがあるか分からないが…

川まで走る!川を横切り逃げる!

そのためには…


そう心に決めた俺は、すきをうかがっていた。

すると、冴刃警視が話し掛けてきた。


冴刃警視

「…どうしたんだ?水宇羅君、落ち着きがないなぁ!何か探してるのかね?。」


「あ、いえ、そう言う訳では…あ、いや、

実はそうなんです。

冴刃警視、此処に来る途中、向こうの遊歩道で、大事な物を落としたかも知れないのです。

ですから、見てきたいのですがよろしいですか?。」


冴刃警視

「大事な物とはなんだね?。」


「はい。恋人から貰った、大事な指輪です。」


冴刃警視

「そうか、それは大事だねぇ。しかし、もうわけないが、後にしてくれないか?。」


「…今直ぐ探したいのですが、ダメですか?。」


冴刃警視

「鮫頭君の所へ行くのが先じゃないかね?!。」


「え!鮫頭の所へ?。」


冴刃警視

「?…鮫頭君と会いたいのじゃないのかね?。」


「会いたいですよ。ただ…」


冴刃警視

「ただ…なんだね?。」


「鮫頭を此処に、連れてきてほしいのですが?。」


冴刃警視

「…んーあのねぇ水宇羅君。鮫頭君はついさっき、逃亡とうぼうしようとしたばっかりだよ。

彼を、此処に連れてくる訳にはいきません。

水宇羅君が、鮫頭君の所へ行けば問題解決ですよ。私と一緒に行きましょう。そして、情報漏洩じょうほうろうえいは本当なのか、聴きましょう。

どうですか?。」


「そ、それもそうですね…分かりました…。」


俺にはもう、川へ逃げるすべは失くなった…。

これ以上話しても…ただ警戒されてお終いだ。


別の手を考えなくては…


俺の心臓は、またバクバクと言っていた。




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