第28話

黒いウィンドブレーカーを着た男に、工匠が近づいて行き、何やら話しているようだ。

時間にして一~二分話すと、工匠はジローと鮫頭の所へ行き、何やら話してジローと鮫頭をワンボックス車のスライドドアから乗せ、その後ろから工匠も乗り込んだ。

黒いウィンドブレーカーの男は、それを確認すると運転席に戻った。


そして最後に、湖北もワゴン車に乗り込んだ。

が、湖北と入れ違いに、工匠がワンボックス車の外に出てきた。

どうしたのだろう…

そんなことを思ってるうちに、工匠がこちらへ歩いてくる。



工匠

「冴刃警視、こちらは準備整いました。」


冴刃警視

「おう、ご苦労!では、打ち合わせ通りに。」


工匠

「分かりました。」


俺はこの時、ずっーと感じていた違和感が

何なのか、ようやく分かった気がした。


俺を歓迎かんげいする訳でもなく、なんとなく遠ざける感じ…そして、このなんとも言えない疎外感そがいかん

俺は勘違いをしていたのではないのか…

上司は、冴刃警視は、もしかしたら俺を消そうとしているのではないのか?!

俺の直感が告げていた…しかし…

まさか!とも感じていた…

そう、まだ確信かくしんが持てなかったのだ。


そんなことを考えていると、不意に工匠が、俺の目の前まで来ていた。

俺は、一瞬驚いた。

そんな驚いた俺など無視し、工匠は一方的に、俺に話し掛けてきた。



工匠

「水宇羅さんでしたよね?!はじめまして、工匠です。

今回は、大手柄おおてがらでしたね。」


工匠は、こしやわらかそうな物言ものいいをする男だった。

それにつられてか、俺もなぜか愛想あいそよく話した。


「ありがとうございます。ただ、自分だけの力じゃないですよ。

皆さんのお力添ちからぞええあっての今ですから笑。

…ところで、冴刃警視との打ち合わせは、どういった内容だったんですか?。」


すると工匠が、急にヨソヨソしくなった。


工匠

「あ、そうだそうだ、あれ片付かたづけないと。」


と言いながら、そそくさとワゴン車へ向かって歩き出した。


なるほど…何か隠しているのは確かなようだ。

コイツら全員…もしかしたら…


そんなことを考えながら、黒さんのいる方へと目をやった。するとそこに、黒さんの姿がないことに気づいた。

俺は、冴刃警視にすぐさま聞いた。


「冴刃警視!黒さんの姿が見当たりませんが?!一体どこへ…。」


冴刃警視

「黒さん?!…ああ、手左木か。

手左木なら、宇恵村警視正と私が乗って来た車に、乗ってるんじゃないかな。」


黒さんもコイツらの仲間なのか…

ジローも…鮫頭も…

知らぬは俺だけなのか…

ヤバイ…ヤバすぎる…

俺は…消されるのか…それとも…

とにかくこの場から、離れなくては…

何か糸口いとぐちは…


「あのー、これからどうゆう予定ですか?

まだ誰か来るんですか?俺は何をすればいいですか?指示を下さい!。」


冴刃警視

「ん?!あ、いや、ちょっと…今は具体的ぐたいてきには話せないが…まぁ、キミはここに居てくれればいい。ちょっともう少し待っててくれ。」


俺は心の中で確信した。

やはり何か裏がある…

黒さんはコイツらの…最初から仲間…

俺は利用された…


あの時、黒さんが言いかけた…

俺が犬だということを誰から聞いのか問いかけた時…


お前の上司だよ!

この言葉で…全てが繋がる…

冴刃達、コイツらは組織の金を俺達に奪わせ…

そして…


するとその時、冴刃警視達の乗って来た車の窓が、

一瞬光ったように見えた。

今のは何だったのか?

あの光は、閃光せんこうは…

一体…

俺は様子を見に行こうと、身体を動かしたと同時に、鮫頭が息を切らし走って来た。


鮫頭

「はぁはぁだ、誰も信じるな!」


「え!」


鮫頭は一瞬で俺を横切よこぎると、そう叫んだ!

誰も信じるな…

やはり…それは…


そして、湖北とウィンドブレーカーの男が、

鮫頭の名前を呼びながら、追いかけて行った。


俺は、一瞬固まってしまっていた。

いろんな事が一気いっきに起こりすぎて、頭がついてこない状態だ。

それでも考えをしぼり、

鮫頭を追いかけるか、黒さんのところに行くか、このままこの場から逃げるか…

決断をしようとした時、

既に横には冴刃警視がいた。

俺は…しまった!!ヤバイ!

逃げなければ…


すると、


冴刃警視

「実はさー、鮫頭も潜入なんだよね笑。」



「…え、あ、あ、…」


もう、俺の頭は機能を果たしていない。

何がどうなってるんだ。

それだけが頭を駆け巡る。


俺はただただ、冴刃警視を見つめていた。


しかし先程、鮫頭が言った一言が、

俺の脳裏のうりいていたんだ。

それが突然、俺自身おれじしんを呼び戻した。

「誰も信じるな!」


あれは…


俺は頭を振るい、自分に言い聞かせた。

とにかく冷静に!頭を氷のようにクールにするんだ。

クールに!冷静に!

冷やせ!冷やせ!冷やせ!

考えろ!考えろ!考えろ!


…鮫頭の言った「誰も信じるな!」とは、

勿論全員だ。

ジローも黒さんも…

でも鮫頭は…どうなんだ…

そんなことを考えている暇などない。

とにかく…とにかく此処にいては危険ということだ。

早く此処から脱出しなくては…

とその時、俺の脳裏に、先程の光の意味が突然降りてきた。

あれは、もしかして拳銃けんじゅう!…

そう!サイレンサーを装着そうちゃくすれば、此処まで音は聞こえない!

そしてあの光は、拳銃をった!という閃光だ…。

そうすると、黒さんが撃たれたと過程かていする方が自然だろう。

しかし、何故だ?…

黒さんはヤツらの仲間じゃなかったのか…

なぜ黒さんを撃った?

!もしかすると…

俺の仮説が正しければ、消される!

先程、鮫頭が言った一言は、恐らくそうゆう事だろう。


どうすればいい?!

この場から逃れるには…

どうすれば…


その時、鮫頭が二人に両脇りょうわきかかえられ戻《って来た。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る