第27話

ゆっくりと二人の男は歩いて来た。

一人は、ロマンスグレーで黒のスーツの初老しょろう紳士しんし

もう一人は、黒髪くろかみをポマードでかためオールバック、グレーのスーツというちである。


この時俺は、オールバックにグレーのスーツの男を見て驚いたと同時に、少し安心もしたのだ。


何と言っても、そのオールバックでグレーのスーツの男は、俺の直属ちょくぞく上司じょうしだからである。


本部ほんぶ指揮しきをとっている筈が、ここ迄来まできてくれたのかという想いで、涙が出そうになった。


ただし、ロマンスグレーの初老の紳士は、初めて見る、全く知らない男だった。

いったい誰なのだろう?


そして二人は、俺達の前まで歩いて来ると、

そこで立ち止まった。

ロマンスグレーの男が、俺と黒さんをわるわる見ながらニコリと笑った。


ロマンスグレーの男

「よう!手左木てさき、ご苦労だったな!おつかれお疲れ!。」


黒さん

「ほんと…長かったですよ…これでやっと、任務から解放される…あーー、それにしても、長かった!。」


ロマンスグレーの男

「ハハハ、ご苦労さん。今日から手左木!お前は元の刑事だ!ハハハ。」


「???…?…な、なんで、て、手左木???

え、刑事??…なにがどうなってるんだ??。」


俺は完全に頭がぶっ飛んだ。

手左木とは?誰だ!黒さんは…誰なんだ…

思考どころの騒ぎではないのである。

そんな俺に、俺の上司が話し掛けてきた。


オールバックの男

「よー、水宇羅。ん!どうした、キョトンとして、顔色悪いぞ!笑。」


「あぁぁぁ、あのあのの、あの、な、何からは、話したら、い、いいのか、ぁああの。」


オールバックの男

「ハハハ!ゆっくりと深呼吸しろ!落ち着け。

な、ゆっくり落ち着いて話せ。ハハハ。」


俺はそこにある空気を、これでもかと思いっ切り吸い込んだ。

そして、思いっ切り吐いた。

それを何度かかえすうちに、なんとか落ち着きを取り戻していった。

そして、ようやく会話できるようなところまで、思考が回復し始めていた。


オールバックの男

「どうだ水宇羅、少しは落ち着いたか?笑。」


「ええ、冴刃警視さえばけいし、わざわざ来ていただいてありがとうございます。

あのー、ところで、…ロマンスグレーのかたは誰なんですか?。」


冴刃警視

「ああ、あの人は俺の上司で、宇恵村警視正うえむらけいしせいだ。

実はな…お前には言ってなかったが、宇恵村警視正が、俺達潜入の、一応トップになってるんだよ。」


「えーー、そ、そうなんですか?!初耳ですよ!!それに初めて見ましたよ!。…」


冴刃警視

「まーそうなんだ…が。

ん、なんだ、宇恵村警視正を初めて見たのか?!笑

いろんなところで、写真しゃしんも出てるんだがなぁ…。警視正もまだまだなぁー笑。」


そんな話をしながら、俺はふとジローと鮫頭のいる方を見た。

するとそこには、先ほどワゴン車に乗って来たであろう、黒スーツを着た二人の男が、ジローと鮫頭のところに一緒に立っていた。


俺は、その二人は一体誰なのか?冴刃警視に聞いた。


「ん、あのー、ところで、向こうにいるあの二人は何者なにものなんですか?。」


冴刃警視

「あー、あれは部下達ぶかたちだよ。あのひだりにいるのが警部補けいぶほ工匠たくみで、もう一人は警部けいぶ湖北こほくだよ。

あー、それと、あともう一人来るんだが、まだみたいだな…なにしてるんだかアイツは!。」


その二人も初めて見る顔だった。

工匠警部補と湖北警部…その二人が一体何で…

宇恵村警視正の直属の部下なのか…

なら俺と一緒の立場だが、役職やくしょくが違う…

その二人のことをもっとくわしく聞こうと思ったが止めた…。

それよりも、ジローや鮫頭の事の方が聞きたかったのだ。


「…で、あのー、ジローと鮫頭はどうするんですか?。」


冴刃警視

「勿論、逮捕するよ。」


「え、でも…まだ手錠てじょうもかけてないですよね?…それに警察官達も来てないですよね…一体どうなってるんですか?。」


冴刃警視

「あー、説明は後にするよ。あと、もう一人来てからじゃないとなぁ…。だから今はちょっとした時間かせぎを、工匠と湖北にはしてもらってる。

ワンボックス車に乗せてからワッパかけないと、下手したら、逃げられるだろ。笑」


「え、…でも、ジローと鮫頭が、あの二人を刑事だって感ずいたら…逃げますよ。」


冴刃警視

「かもな。」


「え!かもなって…逃げられたらどうするんですか?。」


冴刃警視

「ハハハ、大丈夫だって!スナイパーがねらってるからね笑。」


「え!…」


俺は回りを見渡した。


冴刃警視

「嘘だよ。ホント大丈夫だって。」


「…」


俺はこの時、直感的に何かヤバいと感じていた。

背筋かゾッとした…

この感覚かんかくは昔、まだ俺が刑事になったばかりの頃、殺人犯さつじんはん先輩せんぱい刑事と一緒に追いかけ、手柄てがらを立てようと焦り、一人で深追ふかおいし過ぎた時に犯人にじゅうを向けられた時と同じ感覚だった…。

もしかしたら…俺は…殺されるのか?…

いや、俺達はめられたのか…

黒さん…いや、手左木と冴刃警視…それに、

工匠と湖北……宇恵村警視正…コイツらは一体…


そんなことを考えているうちに、遠くから

白らしきワンボックス車が走って来た。

ワンボックス車は一段上の小路から、ナナメに走り下り、強引に降りてきた。

スピードを上げながら、ジローと鮫頭の後ろ側で急ブレーキをかけ、止まった。

そしてドアが空き、中から黒のスーツの上から黒の薄手うすでのウィンドブレーカーを羽織はおっった男が降りてきた。


そして、そのワンボックスから降りてきた男に、工匠が近づいていった。

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