第25話

黒さん

「よーし、行くぞ、…ついて来い!。」


ガチャ

タタタタ ダダダダ タタタタ

黒さんを先頭に皆が続く。


だが俺は、俺の計画通り、かかとを指で叩き、それから皆の後を追うのだ。


タタタタ ダダダダ


ジロー

「うん?…あれ、水宇羅が来てないぞ。黒さん!水宇羅が居ない!。」


黒さん

「何!?。」


鮫頭

「何やってんだアイツは!。」


黒さん

「うーん、一度戻るぞ。」


鮫頭

「マジかよ!。」


ジロー

「もう、かったるいな。」


その時、

タタタタタタタタ


「すまん!。ゴメン!。」


鮫頭

「何やってんだよ!。」


「ホント悪い!忘れ物取りに戻ってた。マジですまん。」


黒さん

「…ぐずぐずしてられねぇー!。とにかく急ぐぞ!。」


三人

「おう、わかった、ああ!行こう。」


俺達は再び走り始めた。各自かくじ、二つのカバンを両手に持ちながら、裏口へと辿り着いた。

勿論、カバンの中には金が入っている。

ずっしりと重いカバンを二つ持ちながら、これから先、外も走らねばならないのである。

そしてやっと、建物の外に通じる、ドアの前まで来たのである。


ジロー

「何だよこれ!重てぇーなぁー!くそ。」


鮫頭

「バカヤロー、これはしあせの重さなんだよ!重ければ重いほど、後で幸せが待ってるんだぞ!少しは考えろ。」


ジロー

「…そっか~笑!よし、気合い入れるぞ!。」


「ハハハ、行こうぜ!そら。」


こんな会話をしながら、俺達は希望の光に向かって走った。


しかし俺だけは…心で詫びていた。

みんな…ゴメン…そう心で、何度も叫び詫びていた。


そして、黒さんが建物の最後のドアを少し開け、外の様子を伺った。


黒さん

「よし今だ!行くぞ!。」


ダダダダダダダダ ダダダダダダダダ


黒さんを先頭に、俺達は一斉に走り出した。

走り出したら、もう、周りのことも何も見ていない。

とにかく走る、走る、走るのである。


黒さん

「よし!階段下るぞ!ホゥー。」


あの、何時なんどき沈着冷静ちんちゃくれいせいな黒さんが、テンション高めで喋るさまは、何か異様いようにさえ感じた。

それほど人間とは、追い詰められれば追い詰められるほど、気分が上がれば上がるほど、普段は表に出さないめんを出すものである。


ダダダダダダダダ ダダダダダダダダ


黒さん

「はぁーはぁ、よ、よーし走るぞ!はぁーはぁも、もう少し頑張れー!はぁーはぁ、もうすぐ橋だぞ!はぁーはぁ、あの 橋を 渡 れば…」


みんなおにのような形相ぎょうそうである。

黒さんも息が上がり、最後まで声が続かない。

それでも俺達は、必死で走った。

手はしびれ、感覚がなくなってきても、とにかく走った。


タタタタ はぁーはぁ ダダダダはぁはぁー タタタタ はぁーはぁはぁ ダダダダ はぁーはぁはぁ タタタタ


はぁーはぁ


ジロー

「はぁはぁ…いっ 痛 ぇーー!。」


鮫頭

「ハァハァ、うーーらぁーーー!。」


「ハァハァハァハァ、も う少 しーだー!。」


目立めだつことなど、微塵みじんも考えなかった。

ひたすら走っていた。


そしてその場所が少しずつ…少しずつ近づいてくるのであった。


タタタタ はぁーはぁはぁはぁ

ダダダダ はぁはぁはぁ ダダダダ


はぁはぁはぁはぁはぁはぁ  ダダダダ


タタタタ はぁーはぁーはぁーはぁはぁ


ダダダダ はぁーはぁ タタタタ はぁはぁ


そして、とうとう…



黒さん

「はぁはあ、みんな、ハァハァも、も、もう少しだ!。」


黒さんのこの声に、俺達は鬼の形相のまま、微笑だ。

もう少し、もう少しで解放される。

色んな意味で、全員が解放》される。

さぁー!ゴールはもう少しだ!


みんな何年ぶりに、こんなに走ったのだろう…

全員が顔をゆが限界げんかいはるかにえていた。

しかし、なんともがたい晴れやかさもあるのである。

それはやはり、目の前に…自由になれる…旅立たびたてる…最高のその場所が…見えてきたからである。


ダダダダ はぁーはぁはぁはぁはぁタタタタ


タタタタはぁーはぁーはぁーはぁーダダダダ


はぁーはぁはぁはぁ タタタタ


そしてついに…その場所が…目の前に



黒さん

「ハァハァハァハァ、ま、まず水飲ませてくれ!み、みんなも、ハァハァの、飲め、飲め。」


ゴクゴク、ゴクゴク、ゴクゴク、ぷふぅ~は!

ゴクゴク、ふぅー

ゴクゴク、はぁーーー

ゴクゴクゴクゴク、ヴふぅーゲハ、ゲホ。


黒さん

「はぁはぁはぁあ、あーーみ、水うめぇー。はぁーはぁ みんなー ご、ご苦労さん!はぁはぁはぁはぁつ、はぁはぁはぁー つい、着いたぞー!。」


全員

「はぁはぁはぁはぁう、うおーーい!はぁはぁはぁつ、着いたぞ~!はぁーはぁはぁ ひょー!。」


水を飲み、一息ついた途端とたんに、みんなつかれなんてそっちのけでかれまくっていた。

まだ、ヘリも到着とうちゃくしたわけでもないのに、この浮かれよう…笑。

しかし、無理もないだろう。

長い間の地下生活、外界がいかい隔離かくりされていた訳だし…それに何と言っても楽園が待っている!自由になれる!それだけでむねの中は充実感じゅうじつかんで一杯だったのだろう。



しかし…


水宇羅が既に、警察へ連絡をとっており、三人は捕まるのである…

自由になれるのは、水宇羅だけだということを、他の三人は知る由もないのである。


ただ……その水宇羅も知らない…


それだけで終わる訳ではないということを…

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