第24話

俺達は歯をみがき、顔を洗い、常備じょうびしてある簡単な朝飯を食い、身支度みじたくを整えた。


あとは脱出するタイミングだけだ。

そのタイミングは、黒さんが決めるだろう。

その黒さんの号令ごうれいを待ちながら、

俺達はその時をまつのであった…



鮫頭

「なぁー黒さん。あと、どれ位で此処から出るんだ?。」


黒さん

「んーそうだなー、ちょっと待ってろ。」


そう言い残すと、黒さんは我々われわれが居る地下室ちかしつさらに奥へと行き、何かボソボソと話している。

誰かと電話で話しているようであった。


しばらくして、話し終わると戻ってきた。


黒さん

「おい、お前ら!あと1時間で支度したくしろ!出るぞ!。」


全員

「えー、マジかよ!おー分かった!。」


全員一斉ぜんいんいっせいに、全支度にかかる。

そして、全員の時計の秒針さえも、全て合わせる。

更に皮手袋を履いた。

金の入ったカバンを、両手に持って行かなければならないため、両手を保護するものだ。


そして、全員の支度したくが終わると…


黒さん

「おい、もう一度確認しろ!忘れ物はないか!念のため俺達の痕跡こんせきもなるべく消す!

コロコロ、ガムテープで床、壁、自分の周りを綺麗きれいにしろ!その後は、俺達の指紋しもんが着いていそうな所も、れ!いいな。」


こうして、俺達は清掃せいそうを始めた。


清掃をしながら、この窮屈な地下生活ともこれでお別れとなると、それはそれでさびしさを不思議ふしぎと感じていた。


俺は此処にきた時、意識を失っていて、記憶も殆んど喪失そうしつしていた。

そこから、この地下生活が始まって…

中々感慨深なかなかかんがいぶかいものがあると、ふと感じていた。


そうして全員の支度、清掃が終わると、黒さんが話し始めた。


黒さん

「みんな…今日まで、よくえてくれた…

感謝かんしゃする。ありがとう!。」


全員

「俺達の方こそありがとう!!ありがとう。」


何故か、みんな涙ぐんでいる。


黒さん

「…ハハ、…なんか…くるよな…

よーし

じゃあここからは、これからの行動を言うぞ!いいか!。」


全員

「ああ分かった!おお教えてくれ!。」


黒さん

「今から2分後、出発するぞ。

先ずは鮫頭、先頭の俺に着いてこい!

鮫頭の後ろにジロー!殿しんがりは水宇羅に頼む!。」


ジロー

「え、経路けいろは教えてくんないの?。」


黒さん

「経路を言ったとして、ジロー、覚えられるのか?。」


ジロー

「…あ、いや、あの、うんと、それは…。」


黒さん

「ハハハ、まぁーいい。大体の経路を教えとく!

先ず外のドアを出たら右へ行く。少し行くと、

長めの階段かいだんがあるから下って行く。

一番下へ着いたら川がある。川沿かわぞいのみちを右へ行く。

多分、小さな橋が見える筈だ。その小さな橋を渡り、渡りきったら左へ行く。

そこからずっーとぐ行くと、右側みぎがわ野球場やきゅうじょうのようなグランドが見える。そこが俺達の目指す場所だ。

そして…そこにヘリがりてくる。以上だ!。」


鮫頭

「了解!フフ、ジローお前分かったか?!。」


ジロー

「あ、ああわかったよ。ドア出て右行って階段だろ、それから…んーとにかく、とにかくだ!黒さんの後ろを着いて行く!それだけだ。」


全員

「ハハハハハハ!そうだぞ!それでいいん

だ!。」


黒さん

「おおっと、これをわたすの忘れてた。

みんなの携帯だ。

もし、何かアクシデントが起きて、はぐれたら、まよわず電話してくれ!

もう傍受ぼうじゅされてもかまわない。しかし、

この家を出るまでは、携帯けいたい電源でんげんもオフっておいてくれ!

ふぅーーーー、

じゃあ用意はいいか?!。」


全員

「OKーーー。いいぜー!。」


黒さん

「よし、じゃあ行くぞー!。」


全員

「おおー!。」


こうして俺達は、長いようで短い、身をかくす地下生活から解放かいほうされた。

あとは、そのヘリが降りてくる、その場所まで行き、ヘリに乗って脱出するだけである。


しかし……俺にはもうひとつ計画けいかくがあった。

記憶が戻った時…全てを思い出した時…

自分は潜入捜査官だと気づいた時…

その時、色々な記憶が蘇り、靴のかかとに入れてある小型こがた盗聴器とうちょうきのことも思い出したんだ。

そして靴のかかとをひねれば、その空洞くうどう部分ぶぶんに盗聴器が入っている。


そのスイッチをようやく今日ONにした。

そう、ジローを捜しに地下から上へ行った時だ。

今頃既いまごろすでに、盗聴器を傍受して警察は動き始めている筈だ…


そして俺は、みんなより遅れて出発する。

みんなが出た後に、このかかとを指で叩き、

俺も含めてみんなが行くその場所を、モールス信号しんごうを使い連絡するからだ。

だから、

みんなには申し訳ないが、ヘリは来ない…

来るのは警察だ。

俺の潜入もこれで終わる。

長かった…長かった…


組織の裏金を記録した、メモリーチップのコピーは手に入れた。

昨夜さくや黒さんに、ジローから預かったメモリーのコピーを渡された。

そして黒さんは更に、自分に何かあった時のためのコピーも作っていた。

こうなることを予測よそくし、もし、万が一組織の奴らにつかまった時のために、ひとつは自分で持っておき、コピーを俺に預け、もう一つは外部がいぶの人間に渡してあるという。

黒さんから決められた期日きじつ連絡れんらくがない場合は、警察へ郵送ゆうそうされる仕組しくみになっている。

また、もう一つコピーしたらしいが、それは何に使うのかどこにあるのか、俺にも教えてくれなかった。

どうにもならなくなった時の、切り札なのだろう…。

しかし、どちらにしても…黒さんはその外部の人間に連絡できない…

この後、警察に捕まるのだから…

そして、俺がコピーをもし失くしたとしても…

その外部から警察に、メモリーのコピーが郵送される…


俺は心の中で黒さんにびる…

ここまで色々助けてくれた…

色んなことを学ばせてもらった…

だが、そんな黒さんを俺は裏切らなければならない…

警察に逮捕させねばならない…


俺の心は複雑ふくざつからまっていた。



そして…しかし…


あのグランドへ行き全てが終わるのだ。


最後の仕上げ。

気を引きめて…行くぞー!


俺は、心の中で叫んでいた…

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