第23話

さっきの興奮こうふんを冷ましながら、俺達は早めに就寝しゅうしんしようと、一人一人各々 寝床ねどこについた。


しかしあちこちで、ガサゴソと音がしている。

みんな緊張きんちょう希望きぼう不安ふあんねむれないのだろう…。

しかし、一人だけイビキをかいて眠っている奴がいた。

そう!ジローである。

こんな時でもそく熟睡じゅくすいしているのだから、

ある意味、大物なのだろう。


ジロー以外はやはり、なかなか寝付ねつけないようだ。俺もその一人だ。


俺は何度も寝返ねがえりをした。

頭の中で、何か良いことを考えれば眠れる…

そう自分に言い聞かせ、過去の楽しかったことをおもかべる。

…それでも眠れない…

ならばと、未来像みらいぞうえがく。

これが終わればようやく、この不安と綱渡つなわたてきなスリルと決別できる…。

そしてまた、日常にちじょうが還ってくるのだ。

あの安息あんそく日々ひび

いそがしくも心の休まる日々…

そんな、たわいもない日々を過ごせる…

そう想えば想うほど、逆に心は踊った。

そしてやはり、寝付けなかった。


そうして、どれくらいの時は流れたのであろう…

いつしか回りは寝息ねいきを立てていた。

ふと時計に目をやる…

午前4時を過ぎていた…

もうすぐ夜が明けようとしていた。


それまで眠れなかった俺に、突然の睡魔すいま

そうして俺はようやく、束の間のあさい眠りについたのだった。


ZZZZZZZZ


そして、とうとう訪れた最終段階さいしゅうだんかい

どんな結末が待っているのか…


そして突然、俺の浅い眠りは、

黒さんの低い声と、激しいさぶりで、

はかなくもくずった。


黒さん

「おい、おい!水宇羅起きろ!さっさと起きろ!。」


「ん、んん~、おはよう黒さん。あ、俺 寝坊ねぼうしたか?。」


黒さん

呑気のんきに寝てる場合じゃないぞ!。

ジローが居ねぇ!。」


寝惚ねぼまなこの俺だったが、

ジローがいないという緊急事態きんきゅうじたいに、俺はすっかり目が覚め、あわてふためいた。


「え、何だって!ジローが居ないって、どうゆうことだよ!。」


黒さんは俺の質問を無視し、鮫頭の身体を強く揺すり、思いっきり揺らし起こしている。


黒さん

「鮫頭!鮫頭!おい、起きろ!早く起きろ!。」


鮫頭は一度寝たら、なかなか起きない奴だった。

この一ヶ月、いつも最後まで寝ていたのは鮫頭だった。

その、さすがの鮫頭も、黒さんのこの強く激しい起こし方には、たまらず起きたのだ。


鮫頭

「んーん、何だよ黒さん、ふあー、

あー寝みぃわ!どうしたんだよ。」


黒さん

「ジローが居ねぇー!。」


鮫頭

「は、何、何だって。」


「鮫頭、ジローが消えた!。」


鮫頭は、まだ呑気のんきにしている。


鮫頭 

「んー…便所べんじょでも行ったんじゃないのか?!。」


黒さん

「いや、トイレも見たが居なかった…

ヤローどこ行ったんだ?!。」


「ひとりで逃げたのか?…あ!金は?金はあるのか?。」



黒さん

「ああ、ジローの取り分は此処にある!みんなの金も確かめた。大丈夫だ。」


鮫頭

「何だってんだよホントによー!あの腐れヤローが!。」


この時俺達は、各々色んな事が頭をよぎったに違いない。

少なくとも俺は…焦っていた。

この場所へ来てから、ジローが俺を見る目は少なからず疑っていた…

俺もジローを警戒していた。

そのジローが突然消えた…。

もしジローが組織側の人間なら…

いや、既にジローは、組織側の人間に繋ぎをいれてるとしたら…

俺達3人は…口では言えないほどの結末を迎えるだろう…。

黒さんも鮫頭も、多分俺と同じ考えだろう…

何時、組織の奴らが、此処に来るかも知れない…

とにかく俺達3人は、ジローを捜すしかなかった。


黒さん

「おい水宇羅!お前は上へ行って様子を見てこい!。」


「分かった。」


黒さん

「鮫頭…お前ならどう推理する?…。」


鮫頭

「んー…ジローの奴、ホントに消えたのか?

消えるにしても、もっと前に消えるタイミングはあったはず…何故今なんだ…。」


黒さん

「…なるほど…。確かに…今のタイミングで消えるというのは…考えられることは、」


黒さんが話しているその時、大きな洋服ようふくを入れてあるボックスが、突然開とつぜんひらいた。


ジロー

「はぁ~よく寝た。……ん、みんなどしたの??。」


なんとジローが出てきたのだ。

こんな所から…と、同時にそこに居た黒さんと鮫頭はぶちギレた。


黒さん

「ジローテメェー!この野郎!。」


鮫頭

「ジローーー!殺してやるよ!このくそったれがー。」


そこにちょうど、俺が戻ったのだ。


「ハァハァ、上は鍵が掛かったまま、え…」


俺はしばらく状況が掴めず、呆然としていた。

鮫頭がジローに掴みかかり、黒さんもジローの後ろ襟を掴んで怒鳴っていた。

そして、ふと我に返った俺は二人を止めた。


「待てってー!二人とも止めろ!とにかく止めろよ!。なぁー何でジローが居るんだ?!。」


俺は二人を止めながら、しっちゃかめっちゃかな話をしていた。


鮫頭

「離せ水宇羅!コイツは許せねぇ!。」


俺が止めに入り黒さんは我に返り冷静になったが、

鮫頭は冷静さを失っている。

そして我に返った黒さんも、俺と一緒に鮫頭を止めに入る。


黒さん

「鮫頭ー!待て待て待てってーー!落ち着け!。」


「鮫頭ー!それ以上首締めたら、ホントに死んじまう!。手を離せ!。」


黒さん

「鮫頭ーーーーー。」


黒さんが止めに加わり、二人がかりでようやく鮫頭を引き離せた。


鮫頭

「フーフーフぅー。」


ジロー

「ゴホゴホ、ぐはぁー。く、な、なんだよ。

何でだよ!。」


黒さん

「お前が消えたと思ったんだよ…。」


ジロー

「ぐふ、はー。あー…何で俺が消えたら、こんなことされるんだ?。」


「そりゃびっくりするし、…もしかしてジロー、お前が裏切ったと思ったからな…。」


ジロー

「俺が裏切る訳ねぇーだろ!だいいち、この俺が金置いて行くか?。」


鮫頭は尻餅しりもちを着き、座りながらも、なかなかの冷静で静かなたたずまいで、話した。


鮫頭

「…まぁー確かに…。お前が金を置いてなぁー…。俺はジローは裏切る訳ねぇーとは思ったけどよー…。」


黒さんと俺

「ウソつけー!。」


鮫頭おまえが一番キレてたじゃねぇーかよ!。」


黒さん

「まあまあ、二人とも、もういい。

ジロー、早とちりして悪かった。

てっきり、犬だと思った…。だから金も置いて行ったと思った…すまなかったジロー。」


ジロー

「はぁー、わかった。もういいよ。」


「だけど、何でそんなとこに入ってたんだ?。」


ジロー

「んー、なんか、朝方目あさがためが覚めてさー、目が覚めたら、色々また不安になって…で、俺、小さい頃からせまいところに入ると、リラックスできるから、そこで寝てたんだ。

そしたら、なんか、みんなの声が聞こえたから。」


黒さん

「そうだったのかよ。」


鮫頭

「ホント。人騒がせなこっちゃ。」


「まったくだよな。俺はジローがひとりだけ逃げて、組織の奴らに繋ぎを入れたのかと思った。」


ジロー

「は?だから何で俺がひとりで逃げなきゃならないの?!訳わかんねぇー。」


「だ、か、ら、俺はだなー、おま」


黒さんが仲裁に入る。


黒さん

「まぁー、待て待て!もういいだろう。

ジローも無事居ぶじいたんだし、

…それに今日は、

脱出する日だぞ!みんな!用意は出来たのか!もう大丈夫なのか?イケるか?!。」


シーン


鮫頭

「んー、そうだな。」


「確かに。最後の準備しないとな。」


ジロー

「うん。」


黒さん

「ごほん!ん、まぁとにかく、朝飯食あさめしくって顔洗かおあらってさっぱりしてからだな笑。」


みんな

「おーーー!」


黒さん

「…今…」


とにもかくにも俺達は、

ジロー失踪しっそう事件という、くだらない時間をとられたが、最終段階の有終ゆうしゅうに向かって、

最後のめくくりに、取りかるのであった。





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