第17話

ジローの話に、何かを感じたのか…感化かんかされたのか…それは分からないが…


黒さんの爆弾発言が飛び出した。


黒さん

「俺は、…実はな、元刑事もとけいじだったんだ…。」


俺達三人は目を丸くして、口を開けたまま、

何の声も出せなかった。

人間は本当に驚いた時、声など出ないことが、初めて分かった時だった。


静まりかえった、一種いっしゅ異様いような空間。

口を、あんぐりと開けた三人の俺達…

それでもその空間、俺達のリアクションなど

お構いなしに、黒さんは話を押し進めるのだった。


黒さん

「俺は、もともとは刑事だったんだよ…

ある日俺は、毎日毎日の刑事の業務に嫌気いやけが差した…毎日業務に追いかけられ、毎日犯人を追いかけ…寝る間もしんで仕事して…更に家にはなかなか帰れず…ほとほと刑事の仕事が嫌になって…警察組織を裏切って、今の組織に情報を流した…


そして、今の組織から金をもらって、

何度も何度も…情報を渡したよ…ふっ。


まぁ、警察組織もバカじゃない。

何かおかしい…裏切り者がいる、情報を流している奴がいる、犬がいる!って思ったんだろう…

そして、俺の知らないところで、内々ないないに調べ、かさねたんだろうな…


内部調査ないぶちょうさが入るって聞いた時には、既に時遅ときおそし、

俺の名前が挙がってたよ…

更に、金を受け取った時の写真、今の組織とのメール…全てが積み重ねられていたよ…


メールも、全部削除したんだがな…

俺が言うのもなんだが、すげぇもんだよ…

全部 あばかれてた。


もう、逃げられない…

そう思った俺は、辞表を書いたよ。


さいわい、マスコミにはまだバレてなかったから…急いで辞表を渡した。

グズグズしてたらマスコミがける…そうしなければ…俺は破滅はめつする…

だから、辞表を出した。


警察組織も、俺を懲戒免職にしたらマスコミに説明しなきゃならないしな…

そんなこと表に出したくないだろうし、

スキャンダルは、ゴメンだろう…


警察組織ってのは、全ては面子めんつで動いてるとこあるからな…

すぐさま辞表を受け取ったよ。


俺は退職金も貰えたし…

警察組織も面子を潰さなくて済んだ…

素早い対応が、素早い決断が…

破滅から俺を…救った…そう思ってる…

今でもな…

そして、今にいたるってところだ。」


鮫頭

「…マ、マジかよ…。元刑事かよ?!…

…そうか。なるほどな…

何だか…、複雑ふくざつ心境しんきょうだよ…。」


黒さんの、この突拍子とっぴょうしもない話に、皆、かなりびっくりした様子ようすだ。


確かに俺も驚いたが、その時…、何か自分でも解らないが、黒さん、鮫頭に違和感を持った。理由は自分でも分からなかった。


しかし、そんな違和感など簡単にばすかのように、

次の思考しこうが、怒涛どとうのごとくあふれてきた。


そうだったのか!だから俺は、黒さんに近づいたのか?!と感じていた。

同じような匂いがしたからかれたのかと。

そして、黒さんの洞察力、ここ一番の腹のわり方も、元刑事の時の経験けいけんが、モノをいっているのだと確信した。


俺が、そんなことを考えていると、突然とつぜんジローが喋り出した。


ジロー

「あれ?でもさっきは元探偵って言ってなかったっけ??…どっちが本当なのかなー?!笑。」


黒さん

「ハハ、あのなージロー。刑事辞めた後、少しの間だけど探偵をしてたんだよ。お前がボクサー辞めた後、八百屋やってたんだろ。それと同じだよ。」


ジロー

「そうかそうか笑。そうゆうことね、ゴメンゴメン笑。刑事辞めて、探偵になったってことね。で、こっちの稼業に転身てんしんしたと!。」


黒さん

「…ああ、そうだよ。」


ジロー

「…だけど…黒さんが元刑事とはなぁー。ハハハ、…

まさかとは思うけど、今も刑事だったりして?!。

なんちゃって笑。でも、本当は?!なんちゃって笑。」


黒さん

「おい!ジローどうゆう意味だ!?

今も刑事って…どうゆう事だ!?

俺達は…俺は今、警察から追われてるんだぞ!違うか?!。」


ジロー

「ハハハ!別に意味はないよ。ただ、映画やドラマじゃないけど、潜入捜査官って本当にいるからさー!だったら…笑。」


鮫頭

「潜入捜査官って…アホか!

ジロー、お前テレビの観すぎだぞ!

そんなの映画かドラマしか存在そんざいしねぇーよ!!バカヤローが!

突然…何を言い出すかと思えば…ホント、アホだな。…なぁ、水宇羅。」


この鮫頭の問いかけに、俺はドキマギしてしまった。

そしてまた、俺の大脳だいのうはパニックにおちいった。


「…い、いや、どうだろうな…

お、俺に振るなよ…

まぁ、そんなのいねぇよ!そうだよな!。」


パニックに陥った俺は、自分に言い聞かすかのように、とにかく喋った。


こんな時でも、黒さんは既に冷静だった。



黒さん

「なぁージロー、お前どうしたんだ?

さっきから…何だかおかしいぞ。」


黒さんの質問に、ジローもすぐさま受け答える。


ジロー

「それはこっちの台詞せりふだよ。

黒さんも、みんなも…どうしたの?

そんなにムキになっちゃって…冗談じょうだんなのに…

俺は、映画みたいなら面白いのにって、ただそう思っただけだよ…

んーーー、どうかしてるのは、一体誰なのかな?。」


この、ジローの冷静な態度と言葉に、俺は何か得体えたいの知れない恐怖を感じていた…。


たが黒さんは、そんなジローなど眼中がんちゅうにないとばかりに、笑い飛ばし、

いなすのだった。


黒さん

「ワハハハ!ジローの言う通りだな!

みんなムキになってたな笑!

こんな閉塞へいそく的で閉鎖へいさ的な状態が続いてるんだ。

みんな普通の精神状態じゃ居られねぇよ笑!なぁージロー!笑。」


黒さんの言葉に、ジローはなんとも言えない表情で沈黙ちんもくした。


ジロー

「…」


そして、鮫頭も俺と同じく、なんとなくジローに違和感を感じたのだろう。

ジローにツッコむ。


鮫頭

「そうゆう、ジローも、何時いつもとちょっと違うよな…

上手く言えねぇけど…

何か、こう…何て言うか…うーん、冷静な感じ?みたいな、そんな感じがしたけどな。」


ジロー

「ハハハ、俺は何時もとおんなじだーって。

趣味しゅみ映画鑑賞えいがかんしょうだぞ!

すごいだろ!

だからこういう感じが、映画みたいで楽しいんだよ、ワクワクするんだよ。

でも、……真面目まじめな話…本当に潜入捜査官がいたらどうする?。」


俺は、このジローの話しの最後の言葉に衝撃しょうげきを受けて、またしばら思考しこうが止まった。

そして、頭が真っ白になり、何も聞こえず、何も見えず、只呆然ただぼうぜんとするばかりであった。


どれくらいの時間、俺はフリーズしていたのか分からないが、

ふと、我にかえった時には、黒さんが何やら話していた。


黒さん

「……だから、こうゆうことになるんだ。

なぁーそう思うだろジロー。

俺達の中に潜入がいたとしたら、

今頃、此処に警察が来て、俺達捕まってるだろ!

そもそも、そんな奴居たら分かるだろうが!

そうゆう奴は、必ずそうゆうにおいがするからな!違うか?。」


ジロー

「ハハハ、ホント、黒さんの言う通りだな!

でも、ひとつだけ言わせてもらえるなら、

その匂いも消すから、潜入捜査官じゃないかな。…なんちゃって笑。」


黒さんの話に、

冷静かつ的確てきかくなことを言うジロー。

そして今度は鮫頭が、理路整然りろせいぜんではないが、理路整然的に聞こえる話し方を始める。


鮫頭

「確かに…ジローの言うことも一理あるな…。

ジローの言う事を、仮説かせつとしたら、

この中の誰かが、潜入せんにゅうってことになるよな…。


なら、その潜入はこれから、どう動くのか、仮説を立ててみようぜ。


…ウーン…その潜入の狙いがこの中の誰かか、又は全員だとしたら、もうじき本当に警察が来る可能性かのうせいが高い。


または、もう既に俺達は、警察に囲まれている可能性が高いんじゃないか?!ただし仮説だけど。」


この鮫頭の、仮説というただの説明を、黒さんが否定する。


黒さん

「いや、それは可能性としては低いな…。」


鮫頭

「え!何でだ?。」


黒さん

「もし、警察に囲まれてるなら、もう既に突入とつにゅうしてるだろ!

別に、人質ひとじちをとってるわけじゃないしな…。


それに、俺達の誰か、あるいは全員をマークしてるなら、尚更なおさら突入してこない方がおかしいだろ?!

今、一ヶ所いっかしょに全員が集まってる。

一網打尽いちもうだじんにするなら今だしな!

誰かをマークしてるとしても、

俺達は今や、全員同犯どうはんなんだから、そのまま全員 ぱくればいいだろ。

潜入が居るなら、もう既に何らかの方法で、外に連絡をとって突入させ、ここにいる全員が、

ぱくられてるはずだ。


警察が突入しない…理由がないからな…


だから、その仮説には無理がある。」


この黒さんの説明は、俺達の心をエグった。


鮫頭

「…そうか!さすが黒さん!

するど推理すいりだな!

どうだ、ジロー?。」


ジロー

「…フフ…ハハハ、黒さんの言う通りだな笑。

俺は、ムズカシイことはわからないよ!

只、何となく映画やドラマみたいなら、面白おもしろいなって思ったんだよフフ笑。」


ジローのふくみ笑いは、何かを言いたげにもみえた。

あるいは、別の何かを確信したか、或いはまだ、確信には至っていないのか、しかし、少なからず、ジローは何かを推察すいさつしていた。


それを知ってか知らずか、間をけたくないのか、鮫頭がたたける。


鮫頭

「おいおいジロー。もし、本当だったら笑い事じゃねぇよ、バカヤロー!笑。

…ふー、とにかくもうこの話 めねぇか?なぁ!。」


鮫頭さめずの言う通りだ!

こんな話ししたって、意味ねぇよ!

仮説も潜入も、なんか…もういいじゃねぇかよ!。」


黒さん

「ハハ、そうだな。もうこの話は終わり。

止めようぜ。終わり終わり。」



ジロー

「…うん…わかった。んーーーだけどなー…。」


ジローは何かを感じているのか、はたまた、何かをつかんでいるのか…

何か納得していないジローの険しい表情に皆、口を閉ざす。


ただ…俺だけは、ジローの表情、口調、態度から、コイツは只者じゃないかもしれないと、確信に近い直感を感じていた。


もしかしてコイツは…

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