第15話

それからは、とにかく各々の時間を、潰すことに専念せんねんしていた。

水と食料は間に合っていたので、あとは、只々ただただその時が来るのをひたすら待つ、という感じだった。

しかし、鮫頭とジローの何気ない一言が、現状を大きく揺るがすことになる。



ジロー

「そういえば水宇羅って、うちに来るまでは、何してたんだ?。」


この一言に、俺の心臓はバクバクといった。

記憶を甦らせ、先の事ばかり考えていたが、

そんな事を聞かれるとは、思ってもいなかったからである。

そして俺は、苦しまぎれに、咄嗟とっさに言葉が…いやうそをついてしまった。


「あ、え、うん、実は…探偵たんていだったんだ!。」


シーーン


一時いっときの静けさから、

一気に、みんなの驚きの声に変わった。


一同

「えーーー!。」


黒さん

「おい!本当かよ!俺も、今初めて聞いたぞ!。」


鮫頭

「いやいや…マジかよ!黒さんも知らなかったのかよ!。」


「いや、ん、まぁ、聞かれなかったから、今まで言わなかっただけで…でも、そんなに他人の過去って気になる…か?。」


平静へいせいを装ってはいたが、俺はかなり動揺どうようしていた。

咄嗟に、他に話をふらなければ…と、思い、言葉が出たのだ。


鮫頭

「まぁ、気になるっていうより、興味はあるよな!

こいつはどんな事してたのか?

過去が分かれば、どんな奴か大体わかるだろ!。」


黒さん

「…そうでもないだろ…過去は過去だしよ。

過去より、今だろ!俺はそう思う。それに、俺達のような稼業かぎょうだ…ホントなら、過去は聞かないのがルールじゃねえのか?。なぁ…。」


この、黒さんの言葉に救われた気持ちになった。

俺は、ここぞとばかりにたたみかけた。


「俺もそう思う。過去の事は、武器ぶきにもなるし、足枷あしかせにもなる…どっちにでもなるよな。

それに、黒さんの言う通り、過去は聞かないのが、定石じょうせきだろ!。」


そんな俺の言葉を、無視するかのように、

ジローは、自分の過去をあっさりと言い始めた。


ジロー

「お、俺は、昔、プロボクサーしてた。俺、ケンカしか出来なかったし、

それに、学校の先生に、お前ならチャンピオンになれるって…へへ、言われたから…中学出て、直ぐにジムに入って、ボクシングやったんだ。」


一同

「えーーー!。」


鮫頭

「初めて聞いたぞ!ジロー、お前ボクサーかよ!っていうか、お前…結局チャンピオンになれなかったのな笑。」


ジロー

「あ、い、いや、俺は、日……、」


黒さんは、ジローの話に割り込むように、

自分の観察力かんさつりょくを、話し始めた。


黒さん

「俺は、何となく分かってた…喧嘩けんかの時の身のこなし方とか、フットワークてたら、

元ボクサーか、キックか、どっちかだろうってな。でも、キックはあまり使わないから、やっぱり、ボクサーかー…てそんな風に見えてた!。」


ジロー

「…。」


この時俺は、やはり黒さんの観察力、洞察力どうさつりょくは、半端はんぱなくするどいと、あらためて思っていた。

そして、ふと、頭をよぎった…

もしかして…俺が潜入だと、既に見抜みぬいているのではないか…と。

その時、俺の背中に、一筋ひとすじの冷たいものが走っていた。


鮫頭

流石さすが黒さんだ!その洞察力はすごいね!

黒さん!、もしかして、此処にいる皆のことも、大体分かってんじゃないのか?。」


黒さん

「ハハハ。さすがに分からねぇよ。只、見当は少しつくかな…!ハハハ。


じゃあ当たるか知らねぇーけど、オレ流の見解けんかいを言ってみるわ。


鮫頭は、とにかく直感がするどいよな。

ということは、元ギャンブラーか刑事ってところか?笑。」


この黒さんの何気ない言葉への、鮫頭の次の反応に、俺はなぜか違和感を感じていた。

この時は、その違和感は何なのか、からなかったが、

後で、この時の違和感が何だったのかを、

思い知ることになるとは、この時はまだ、分かっていなかった。


鮫頭

「…ハハ。流石だ…、俺は、元ギャンブラーだよ。ギャンブラーって言えば聞こえはいいが、

結局のところ、博打ばくちして破産はさんだよ笑。

じゃあ黒さん!。水宇羅は、何だと思ってたんだ?。」


鮫頭は、話題を直ぐに俺へ向けた。

俺は、注目が自分に向くことがとても怖かったが、平静をよそおっていた。


黒さん

「探偵って聞いた時は、そう言われれば…んーそれもありうるか?!って感じだったよ笑。

まぁ、最初に感じたのは、ここ一番の度胸どきょうと、頭の回転かいてんの良さ、それから顔の広さから言って、

詐欺師さぎしか、経営者か、マルぼう辺りかって気がしたけど、見事に外れだな笑。」


俺はギクリとした。マル暴…黒さんは俺を…警官だと思っていたのである。

この事に、俺は完全にテンパった。


「ハハ…、お、俺がマル暴?!詐欺師?!そんな風に見えるのか!?笑いやいや、俺はマル暴じゃないよ。ま、マル暴?って、何だよ。」


ジロー

「…俺は…水宇羅は、刑事に見えたぞ笑!。」


俺はの心臓はまた、バクバクといっていた。

もう、のどからでてきそうな位に…

ジローの奴、…こいつ、カンが鋭いのか?!…それとも…

俺は、酷く動揺どうようしていた。

ここで、普通にしていればよかったのだが、

俺は動揺のあまり、更に空回りした。


「な、な、何言ってんだよジロー!

刑事ってあり得ねぇだろ!ったく。俺が刑事って、それだけはありえねぇーよ!…うん。ありえねぇー…

あ、そ、そうだ、

で、黒さんは何やってたんだ?

黒さんこそ、刑事に見えるけどな!

ど、洞察力の凄さなんか、刑事だろ。あー全くよー。何だよー。刑事だろ。」


鮫頭

「…おいおい!何だよ水宇羅!いきなりどうした?何をそんなに動揺してんだよ?!ウーン。

…まぁ、いいか。

確かに…黒さんが刑事だったら、名刑事めいけいじだったろうな!

犯罪者や俺らのような稼業の奴らは、

黒さんは、絶対敵に回しちゃいけない相手だよな…

仲間で良かったよ。


まぁ、水宇羅みたいに、すぐテンパって、シドロモドロになる刑事なら、犯罪者なら大歓迎だろうけどな!笑。分かりやすくてよ!笑。」


黒さん

「…おいおい笑、俺が刑事だって?刑事ってガラかよ。

水宇羅も、わざとテンパって見せてるよな…

探偵ってよー、刑事なんかによく間違われるものなんだよ。

そこを、あまりに冷静にしてると、相手はホントに刑事かもって疑って、口数が減るんだよ。

そしたら探偵は、やりづらくてしょうがないから、わざと動揺して見せたりするもんなんだ。

本物の刑事ほど、顔色一つ変えないからな…まぁそうゆうことだ。


あーそれと、実はな俺も探偵だったんだよ。」


シーーーン


しばらくみんなが凍りついていた。


そして、次の瞬間、みんなが一斉に驚く。


一同

「お、お、あ、えーーー!はぁーーー!。」


鮫頭

「…く、黒さんも、まさかの、探偵…嘘だろ。…マジかよ。」


ジロー

「…」


黒さん

「まぁー、探偵10年やって、その後、この稼業だ。最初は違う組織にいたけどな…色々あって、今に至るってことだ。」


鮫頭

「探偵、10年もやってたのかよ!…そ、それに、…違う組織って…

なぁ!どこの組織にいたんだ?。」


黒さん

「そんなこといいだろ笑。何処でも!そんなに興味持つなよ笑。そこは、ソッとしておくところだ笑。」


「そ、そうだぞ!黒さんにだって、言いたくないこともある!そんなに詮索せんさくするなよ!。」


鮫頭

「い、いや、俺はそんなつもりじゃ…

まぁ、言いたくないならいいよ…別に。」


ジロー

「もしかして、言えない組織なのか?

うちの組織とは反目とか?!あるいは、

犯罪組織の反対の組織とか?即ち、ホントの、け、い、さ、つ、か、ん、だったりしてな笑。

…なんちゃってな笑。」


この時、俺は心の中で、ジローって男…

バカのふりしてるだけで、本当は…かなりの切れ者なんじゃないかと思った。


そして、ジローは次々つぎつぎと、鋭い質問でめ立ててきた。


ジロー

「なぁー水宇羅!水宇羅ってば!おい!。」


「あ、おう、ゴメンゴメン。で、なんだった?。」


ジロー

「水宇羅は探偵になる前は、何してたんだ?。」


このジローの言葉で俺たちの雰囲気が変わり始めていくのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る