第14話

俺の頭の中は、今までせき止められたいたダムが放出するかのように、その記憶をドンドン流し込んでいた…そんな感覚を楽しむ間もなく、

…黒さんが遠くで俺を呼んでいるようだった…


黒さん

「おい、水宇羅!聞いてるのか?おい!。」


黒さんが話しかけてるのさえ、全く気づかなかった。


「あ、あー、わるい。聞いてなかった!で、何だった?。」


ジローは、なかば馬鹿にしたような言い方で、笑いながらいかけてきた。


しかし、この時の俺は、余裕よゆうがなかったため反撃はんげきする気力もなく、

軽く受け流した。


ジロー

「何だよー笑!まぁた、例の病気か笑?!

記憶が戻ったか?笑。」


「あ、あぁ、い、イヤ、そうじゃない!

ちょっとな…いつものごとくボーとしてただけだ。」


鮫頭は珍しく、少し俺を心配したかのような言い方で話しかけてきた。


鮫頭

「?本当か、…大丈夫か?顔色もあまりよくないし…。お前…具合悪いなら、ちゃんと言えよ。」


「…ハハ、大丈夫大丈夫!元気だって!。」


鮫頭

「はぁー…。ま、そんならいいけどよ…何かあるなら、ちゃんと言えよ!。」


「ん、ああ、わかった、ありがとよー。」


俺は笑って、誤魔化ごまかしてはいたが、心の内側うちがわでは、動揺どうようしていた。

俺の頭の中では、もし、おれの正体しょうたいが知られたら…、その事ばかりが、頭の中を支配しはいしていた。


そして、そんな俺のことより、みんなの気持ちは、

既に自由への希望で、いっぱいになっているようであった。



鮫頭

「だけどよー…、もう少しで自由になれるんだな…、あと少し…、あと少しの辛抱しんぼうだ!皆で楽園へ行こうぜ笑。」


ジロー

「ハハハ!、やったぜ!楽園、楽園、楽園!。」


黒さん

「ああ、もう少し、もう少しだけ、辛抱頼む!

あと数日…、これで…俺も…。」


この、『これで俺も』ってところに、俺は、

ひどく引っ掛かった。

あの、何時いつでも沈着冷静ちんちゃくれいせいな黒さんが、何時でも、自分のことより全体のことを第一に考える黒さんが、ポロっと言った、その一言が…

余裕よゆうのない俺でも、聞かずにはいられないほどの、一言だった。

だから俺は、その疑問を黒さんに聞いた。


「ん?! これで俺も… なぁ、黒さん、俺も…何なんだ?。」


黒さん

「あ、…いや、あの何だ…俺も皆で、楽園に行けるって思ってなぁ!笑。」


「ふーん…?そうか…。なぁー黒さん、何かかくしてねぇか?。」


俺は、どうしても引っ掛かっていた。

直感的にも、黒さんは何かを隠してる。

何で隠す…なんのために…

もしかしたら…そんなことが、頭をグルグルと回っていた。


その時、ジローが茶々をいれてきた。


ジロー

「ふん!み、水宇羅、何だよお前は!黒さんに、突っかかるなよ!ホントに、空気読めねぇ奴だなぁ!。」


この一言で、その雰囲気ふんいきは、一気いっきに変わった。

俺は、完全に悪者扱わるものあつかいだ。

このままでは、雰囲気は悪くなるばかり。

ここで、みんなを敵に回し、黒さんまで敵に回してしまったら…それは…ダメだ!

そんなことになったら…この先…どうゆうことになるか…

下手をすれば…最悪 孤立こりつ、そして、仲間割なかまわれ、そうなれば今までの苦労が…水の泡…メチャクチャだ。

ここは素直すなおに、場の空気を取り戻す。

それが、急務きゅうむと考えた。

黒さんの一言は、気になるが…。


「ん、あ、いや、俺は別にそんなつもりじゃ…、すまん。

だけど…、どうしても、引っ掛かった…。」


それでも、皆は冷たい目で見ている。

しかし、何とここで、黒さん本人が助け船を出してくれたのだ。


黒さん

「…ふぅー、まぁ、いいじゃねぇか!とにかく皆で脱出するぞ!なぁーみんな!一丸いちがんとなって、脱出に集中するぞ!。」


その、黒さんの言葉に、その場の雰囲気はガラリと変わり、またみんなのテンション、バク上がった。


鮫頭

「おう!その通りだぜ!それだけ考えようや!なぁジロー!。」


ジロー

「さ、賛成さんせい!!ここから、出よう!楽園はすぐそこだーー!。」


「おうー!そうしようぜ!。」


黒さんの号令で、みんな脱出することだけを考え、表情も明るくなり、テンションも上がっていた。

しかし俺は…素直に心からは喜べなかった。

やはり、さっきの黒さんの一言が、どうしても頭から離れない…

更に俺は、潜入捜査官…

皆で一緒に脱出するのではなく…

皆を…逮捕しなければならない…

そのXデーが来れば…俺は、皆は…


こうして、一抹いちまつの不安を胸にいだきながら、時間だけが、刻々こくこくと過ぎていくのであった。


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