第13話

黒さん

「おい!水宇羅!聞いてるのか?。」


「……え、あ、ああ、わるい。」


その黒さんの問いかけに、ふと我に返った。

そして、その思い出していたことを聞いてみたんだ。


「ちょっと、ぼーとしてた。

で、エスケープの件だよな。

それと…ちょっと思い出したんだけどよ……うーんと…、」


黒さん

「何だよ?、どうした?…言ってみろよ。」


「ん、ああ…結局、灰薔薇とはどうなった?。」


黒さん

「お、おお!お前のおかげで上手くいったよ。

灰薔薇が、お前の事かなり気に入ったみたいでなぁ笑。

トントン拍子びょうしで話が進んで、エスケープの時に、残金払ったらOKだって言ってくれてな笑。

信用してるから、リスクヘッジも、いらないでしょうって言ってた。って、あのなー、確か…前にお前に言った気がするんだけど…何だよ?!忘れたのかよ!。」


「あ、あ、そうか…そうだったのか。頭打ってから、記憶きおくが所々抜けてるんだ。すまん。」


黒さん

「ハハハ、まぁいいってことよ!。

少しずつ思い出せ!。なぁ!。」


「ああ。う、うう、痛痛、く、。」


黒さん

「ん、どうした?頭が痛いのか?。」


黒さんと話していると、不意に頭に痛みが走った。

そして、その痛みはかなりの痛みであったが、プライドなのか、仲間なかまに心配かけたくなかったのか、自分でも分からないが、強がって笑ってみせた。

そして、痛みとともに記憶が…。


「い、いや、大丈夫だ!。……う!…痛々…

わ、わかった…少しずつ、お、思い出すよ、ハハ。

……あっ……、い、いや、何でもない。ハハ。」


鮫頭

「??。」


黒さん

「ん?!、今の感じ!。何だ…、何か思い出したのか?…。」


俺 

「い、いや、違うよ。…。」


俺の記憶は、どんどん戻っていた。

まだ、所々抜けている部分はあるが、

何故ここにいるのか、この三人は誰なのか、

これから、どうやってここから抜け出すのか、

そして、自分が何者なのかも…。

だが、ほぼ記憶が戻ったことは、まだせておかなければならない。

なぜか、そう自分に言い聞かせていた。


そして、そんな俺を知ってか知らずか、

そんなことは、お構い無しとばかりに、鮫頭が話しはじめる。


鮫頭

「なぁー、おい!。要約ようやくするとこういう事か?!

どこかに、そのヘリコプターが来て、そこに俺達が行って、そのヘリに乗って、トンズラってことか?。」


俺は心の中で、それは要約とは言わない。

ただ、そのまま聞いたことを、言っただけじゃねぇか。

でも、鮫頭にしては、よくまとめたじゃないか…と。


黒さん

「ハハ、鮫頭君、大正解だいせいかいだよ!笑。

よくわかったね!笑。

ようするに、そこの水宇羅君が、手配してくれたヘリが来るから、それに乗って、

楽園へ…ハハハハ、ってことだ。

その代わりなんだが、そのスカイタクシーヘリの、運賃うんちんだけどな…、

一人1250ずつ払っとけ!いいな!。」


ジローは、口をパクパクさせて、言葉にならなかった。


この、黒さんの話に、鮫頭が噛みつく。


鮫頭

「一人、せん、1250って…高すぎるだろ!。一人1250ってことは…え~と、

×4だから…合計5000かよ!!

そんな金額払えるか!

どれだけの思いで、この金を…。」


黒さんは、みるみる怪訝けげんな顔になった。

それはそうだ。

裏で事を進め、交渉こうしょうをして、自分の手持ちの金を先に払った。

そうだ、即ち投資したのだ。

それも全ては、今回の計画のため、しいては、

俺達全員のためなのだ。


既に自腹じばらを切り、先の先を見据みすえた、黒さんの手腕しゅわんであるのに…。


黒さんは、いきどおっているようだった。


黒さん

「‥ふー、だったら、その荷物持って、一人で

何処でも行けばいい!

自分の命の値段ねだんだ!

安いか高いか、各自で決めればいい…

誰が抜けても、文句はない!

足りない分は俺が払うからよ!

さぁ!遠慮えんりょはいらないぞ!!

どうするんだ?!自由だぞ!。」


さすがは黒さんだ。俺は心でそう思った。


「俺は、払うぜ!安いもんだ!。」


ジロー

「だ、だ、だったら俺だって払うよ!安いもんだ!。」


鮫頭

「あー、んだよ!わー、わかったよ!

払えばいいんだろ!払えば!

‥まぁ考えてみりゃ、此処から安全に脱出できるんなら…安いもんか…。」


黒さん

「ふぅー。…まぁ、分かってもらえたんなら、…文句はねぇよ。

とにかく、そうゆうことでもう少し辛抱してもらって、その時が来たら、その場所まで最短さいたんで行って、ヘリに乗ってトンズラってことだからよ。」


黒さんは、自分に言い聞かせるように話し、

その憤りを納めた。


そうして俺達は、一通り《ひととおり》話しを聞くと、

そこから、不自由で退屈な時を過ごしていった。

全員で、無事ぶじに脱出して…自由になるために…

とにかく、我慢がまんに我慢を重ねて…

そうするしかなかった。


その不自由な間、皆との会話等で、俺の記憶は、どんどんよみがえっていった。


そして、その甦った俺の本当の姿は、此処にいる奴らには、絶対に知られてはいけないのである。

何故なら俺の正体は、潜入捜査官せんにゅうそうさかんなのだ。


ある日俺は、上官じょうかんの命令で、今居る、この犯罪組織の中に潜入することを、命ぜられた。


上官から、これまでに解っている、犯罪組織の捜査内容そうさないようは、全て聴かされてはいた。

しかし俺は、潜入するまでの準備期間中じゅんびきかんちゅう徹底的てっていてきにこの組織を独自どくじに調べた。


この組織は、今現在の任侠団体にんきょうだんたい暴力団ぼうりょくだん等とは違い、組織名等を持たない。

組織のトップは、どれだけ調べてもわからなかった。

また、上層部じょうそうぶ幹部かんぶの名前さえ解らない。


下の人間の、上下関係じょうげかんけいはとてもゆる曖昧あいまいではあるが、

命令系統等めいれいけいとうなどは、しっかりしていることは解った。

命令系統は、各ブロックごとに別れていて、ブロック長がいること。

そして、それをたばねる総ブロック長(今現在の俺の所属しょぞくするトップ)がいること。

そのブロックの中にははんがあり、班長はんちょうがいること。

そして、その班の中にはまた、各部隊かくぶたいがあり、

その部隊には、リーダーがいることが分かっていた。

また、これとは全く干渉かんしょうを受けない、独立どくりつした人間も、数十人いることが解った。


この独立した人間逹は、一見いっけん、この犯罪組織とは全く関係なく見えてはいるが、実のところはやはり、この犯罪組織の立派な一員なのである。


俺が独自に調べた限りでは、この者逹は、

犯罪組織への情報提供じょうほうていきょうや、他団体ただんたいとのトラブル回避かいひや、橋渡はしわたし等の活動を、になっているようであった。


だが、調べても調べても、本質ほんしつの情報は解らなかった…。

やはり、奥の奥まで潜入しなければ、解らないのである…。


そうして、1日、1日と、日は進み、俺はその日を迎えたのである。

そう、潜入する日である。


俺は以前、独自に調べた黒木という男に近づくことにしていた。


そして、この黒木こそ、今の俺の上司であり信頼のおける相棒の、黒さんである。


黒さんは、犯罪組織から独立した集団の中の、ひとりであった。


俺は、中に潜入しても、先ずは、部隊の下っ端から始めなければならないのであれば、

時間が掛かりすぎるため、黒木に近づき、

仲間になり、そこから、犯罪組織の全貌ぜんぼうあばこうとしたのだ。


そして…

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