第11話

目を潤ませ、涙をこぼすまいとする、

その、素晴らしき灰薔薇を見つめ、話を続けようとした時、俺の死角しかくから、不意ふいに声がした。



ホテルラウンジの女性の係員

「失礼いたします。コーヒーをお持ちいたしました。…此方でよろしいでしょうか?。」


俺は、一瞬いっしゅんハッとした。

しかし、ぐに冷静を取り戻した。

そして、テーブルの自分のやや真ん中の手前を、てのひらを上に向け、こちらにという形で、ウェイトレスの持ってきたコーヒーを誘導した。


「ええ。こちらにお願いします。」


ウェイトレス

「こしこまりました。失礼いたします。」


そう言うとウェイトレスは、白いソーサーの上に乗った、白いカップのコーヒーを俺の手前に、静かに置いた。


「カチャカチャ。」


白いソーサーの上の、カッブの横に置かれた、銀の小さめのティースプーンが、鳴った。


そして、白いふた付きのシュガーポットを置き、白いクリーマーを置いた。


ウェイトレス

「ご注文、おそろいでしょうか?。」


「はい。」


ウェイトレス

「それでは、ごゆっくりおくつろぎください。失礼いたします。」


「ありがとう。」


そう言うと、ウェイトレスは、帰って行った。



それを見ていた灰薔薇は、



灰薔薇

「まぁ、時間はあります。ゆっくりコーヒーし上がって下さい。」


ウェイトレスの登場で、灰薔薇も冷静さを取り戻したのだろう、初めて言葉を交わした、最初の紳士的な話し方に戻っていた。


「ありがとうございます。」


俺はコーヒーを一口啜ひとくちすすり、また話しの続きを始めた。


「それでは、また先程の話に戻りますが、

灰薔薇さんは、再び放浪しながら妹さんを探しましたね。

しかし、なかなか見つからない…探しても探しても見つからない…

そんな時、ふと思い出しましたね。

そうです。ボスの電話番号です。

あの助けてもらった日に、何か困ったら電話してこいと言ってくれた、あの電話番号の書いてある名刺を、灰薔薇さんは肌身はだみはなさず持っていた。そして、いつもその名刺をながめてるうちに、電話番号を暗記してしまった。

そうです。ボスの電話番号だけは、しっかり暗記していて、少年院に行っても忘れませんでした。

少年院から出て来ても…最初はボスに電話しませんでしたね…。

世話を掛けてはいけない…と灰薔薇さんは考えたのでしょうね…

しかし、妹さんの行方ゆくえ依然いぜんとして分かりません…

そこで…ようやくボスに電話しましたね。

連絡がつくと、ボスは灰薔薇さんを、こころよく迎え入れてくれました。

そして、ボスの所へ行き、妹さんのことを相談します。

すると、ボスは自分あらゆる情報網じょうほうもうを使い、ものの数日で、妹さんは見つかります。

この時灰薔薇さんは、ボスのすごさに驚いたんじゃないでしょうか?!


そして、ボスの車で妹さんの所へ、会いに行きましたね。

その時のことを思えば…他人の自分でさえ、

心が熱くなってしまいます。

ご本人である灰薔薇さんの心情を想えば…いかばかりでしょう…。

…本当に…感無量かんむりょうだったでしょうね…。


そんな、余韻よいんひたりながらも、

この時、灰薔薇さんは、心に決めたことがありましたね。


いつかは、それもなるべく早急そうきゅうに、

灰薔薇さん自身が、妹さんを引き取り、

ずっと一緒に生きていこうと決めたんじゃないですか!?


だからこそ、灰薔薇さんはひとり立ちしなければならない。

誰の世話にもならず…妹さんだけは…。

…どんなことをしても、何をしても、人から後ろ指を指されようが…。


灰薔薇さんは、この時、鉄の決意を固めたんじゃないでしょうか?!


それからの灰薔薇さんは、何でもやりました。

ボスの指示とあらば、そりゃ何でも…。


ボスには、返しても返しきれないおんがあると、

灰薔薇さんは、感じていた…だからこそ…。


しかし、妹さんは、そう感じていなかった!。

暫くは、世話になり、恩も感じていたでしょう。


しかし、兄である灰薔薇さんが、少しづつ、少しづつ変わっていく…、何かに、かれているのではないか、とさえ感じ、

日々ひび知っている兄ではなくなる喪失感そうしつかんと闘いながらも、たったひとりの兄を想い、信じる妹さん…。


あのボス(ひと)は、兄に何をさせているのだろう…。


妹さんは、ボスを悪者と見ている節があると、

俺は感じました。


ですから、妹さんは、灰薔薇さんといつしか距離を置くようになった。


灰薔薇さんは、ボスと妹さんの狭間はざまで、苦しかったでしょう。


裏では、自分の手を汚し、その汚れた金で、妹さんを大学まで行かせ…

しかし、ボスには、忠誠ちゅうせいちかっていた。

灰薔薇さんは、自分の幸せは、とっくに放棄ほうきしていた。

自分は…いい…ボスの役に立てれば…

そして、妹さんには、幸せになってもらえれば…

灰薔薇さんは、そう願い、想い、やってきたんじゃないのですか?!


灰薔薇はいばらさん…


灰薔薇さんの幸せとは…妹さんの幸せじゃないんですか?違いますか?。」



灰薔薇

「ハハハ、よく調べましたね。途中、水宇羅さんの感想も混じってましたけど…。

でも…、大体それも当たってますよ…笑。

ただ、ボスは最初から、俺から連絡が来るのを待ってたらしい…。だから出迎でむかえも来なかったし…。

となかく、俺から連絡が来れば、力になるって決めてたらしい…。ふぅー。」


「灰薔薇さん…妹さんは勿論ですが、ボスも…灰薔薇さんにとって…家族なんですね…板挟いたばさみなんですね…。

なら、先ずは妹さんを幸せにしましょうよ!!。

そのために…俺に協力させてください!!。お願いします。」


灰薔薇

「…わかった。話を聞こうか…それで、どうゆうふうにしようとしてるのか、そのプラン、聞かせてくれないか?!。」


「わかりました。先ずは、妹さんの御主人ですが、今現在、無職状態ですね。灰薔薇さんが足抜あしぬけさせたのはいいですが、世の中は、妹さんが思っているよりはるかに冷たいんですよね!

そこで、考えました。

元々もともと、灰薔薇さんは、妹さんの御主人を、自衛隊上がりのヘリコプターのパイロットだから、部下にしたんですよね?。」


灰薔薇

「ああ、そうだ。腕はおれが保証するぐらい

確かだ。」


「それは、何よりです。私も心強い。

我々のミッションは、ヘリの操縦士そうじゅうしの腕にかかっているので…。それでは、私の提案ていあんです!

妹さんの御主人には、ヘリのパイロットの試験を受けて頂いて、実際にヘリのパイロットになって頂きます。」


灰薔薇

「!!そんな事出来るのか?!。」


「ハイ!出来ます。私の知り合いが、ヘリ関係の責任者なので、もう話はついてます。まぁ、普通は無理ですけど笑。暫く、我々の用意した会社で従事じゅうじして頂いて、将来はフリーでも何でも何処へでも、ヘリでけつけるとしたら、立派な仕事として、稼げるんじゃないですか。

日本でも、外国でも需要じゅようはあると思いますよ。

ですから、このプランでいこうと思っています。

そのために、将来は海外へも行けるようにしまして、妹さんも喜ぶ…と笑。

あとは、我々の仕事の依頼いらいとして、破格の5本を用意してます。これなら妹さんにも金の出所はわからないでしょうし、灰薔薇さんが関与してる事にもほぼならないですし…、どうでしょう灰薔薇さん?。」


灰薔薇

「そんな事…本当に実現できるのか?

ちょっと突っ込んだ話するが、

民間会社のヘリってのは、誰でもなれるのか?。」


「誰でもなれて、誰でもなれません。

先ずヘリの免許には、自家用じかよう事業用じぎょうようとあるんですが、」


ホテルラウンジの女性の係員

「失礼いたします。お水の御代おかわりはいかがでしょう?」


灰薔薇

「あ、いえ結構けっこうです。」


ウェイター

「そちらのお客様はいかがでしょうか?。」


「いえ、大丈夫です。」


さぁこれから、核心かくしんの話というところで、

話が遮られてしまった。

そして水を断った後、ホテルラウンジの女性の係員は、

また、他のテーブルを回って行ったのだった。

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