第6話

アジトにいた俺達は、各自かくじ

バラバラにわかれた。


それから、俺達は黒さんの指示通り、ほとぼりがめるまで、しばらもぐり、身を隠していた。


その間黒さんは、電話で、火馬田ひまだのおっさんと、俺たちの身の安全と、ジローの処遇しょぐうについて、交渉こうしょうしていた。


どうやったら、この状況で、

最高幹部さいこうかんぶの、火馬田のおっさんと、コンタクトをとったのか…、

下手へたをすれば、居場所いばしょ特定とくていされ、追跡ついせきされ、さらわれる可能性も、ゼロではないのだ。

本当に黒さんは、頼もしい人だ。

てきには、回したくない人である。


ここで、黒さんについて少しかたろう。

この黒さんという人は、交渉事こうしょうごとで、負けたことがない。という伝説でんせつを持っている。


組織同士そしきどうしのいざこざも、

大体だいたいは、交渉でまるものだ。

その交渉事において、組織内そしきないはおろか、他組織にも、

名前なまえが知られている、すごい人である。

いや、伝説上でんせつじょう人物じんぶつのようである。


その黒さんが、ジローをふくむ、

俺達の、命の交渉をしてくれている。

こんなに心強こころづよい交渉人が、いるであろうか?


そして、約1ヶ月やくいっかげつに渡り、黒さんが交渉をまとめ上げた。


俺達は、今回のけんでは、一切いっさいのケジメは無し。

普通ふつうなら、ボコボコ。

わるけりゃ、殺されてもおかしくない状況である。

このような沙汰さたは、きわめて異例いれいであった。

まさに、奇跡きせきである。

交渉、負け知らずの黒さんは、

伊達だてではなかった。


どんな魔法まほうを、使ったのか?!

どうやったら、こんな交渉が出来るのか、

教授きょうじゅねがいたいものである。


その魔法のお陰で、俺達は、助かった…が、

ジローはそうはいかなかった…。

ただ、ジローも本来ほんらいなら、公開処刑こうかいしょけいにされても、文句もんくが言えない立場たちばであった。

そのジローの処遇を、黒さんの交渉術こうしょうじゅつで、何とか命だけは、助かったのだ。


然りとて、命は保証ほしょうされたが、ジローは壮絶そうぜつなケジメをとられた。


その、壮絶なケジメを、録画ろくがされた映像えいぞうは、

組織の人間の携帯けいたいに、

動画どうがとして、おくられてきた。

その映像は、壮絶を極め、見ているこっちは、

背中に、冷たいものを感じた。


麻袋あさぶくろを被せられ、何度なんどなぐられ…られ…。

麻袋が、あかくじわじわとまっていく様は、

とても、残忍ざんにんで、恐ろしく感じながらも、うつくしいとも感じられた…。


その後は、人差し指と中指のつめを剥がされた。

しかし、ジローは、「ぎゃ!」とか「やめてくれー」とか、映画えいがや、ドラマみたいに叫ばなかった。


ただ、低いうなり声というか、「ヴーーや、ぐーー、ぐゃーー」などの声にならない声をあげた。


人間は、ああいう場合、リアルに、声にならない声をあげるのだと、そのとき知った。

勿論個人差もちろんこじんさがあり、全員ではなく、ジローだけがそうだったのかも知れない…。

ジローが、きもわっていて、根性者こんじょうもんだったのかもしれない。


そして、その後ジローの前に大きなハサミが…。

俺は、あまりにもおどろき、

生唾なまつばを、ゴクリと飲んだ。

何故なら、俺はあそこを、ちょん切られると思ったからだ…

しかし、そのハサミで切られたのは、

あそこではなく、ジローのパンツであった。


そして、真っまっぱだかになったジローに、何やら異様いようかたちの、てつかたまりようなものが、はこばれてきた。

そして、その異様な形の、鉄の塊は、ジローの股関こかんにはめられた。

よく見ると、鉄の貞操帯ていそうたいであった。

鉄なのか、アルミなのか、よくわからないが、

ん中より、ややしたに小さなあなが空いている。

…なるほど、俺は、あそこから、小便しょうべんをするんだと、何故か冷静に思っていた。

いや、決めつけていた。

何故、そんなことを思ったのか、分からないが…。


こうして、ジローの組織内だけの、公開こうかいケジメは終わったのだ。


「…そうだ!思い出した。俺は、一応組織の一員いちいんで…、そう!そうだ!黒班くろはん!。

確か、そうゆう呼びだった…

!俺は、確かに黒班だった。

黒さんの下で、はたらいていたんだ。」


「そうか?!」


「それで、ジローから渡されたUSBメモリーから、黒さんが今回の計画を立てて、実行じっこうしたんだ。

?…今回の計画…

今回の計画って、…どんなだった…?。

…実行…?実行って…。

俺は、何をしたんだ…。」


「…途中とちゅうで頭を打って……。

…何で頭を打ったんだ?…。

…分からない?…思い出せない…。

どうして…あの時…。

…ん~まだ、全部ぜんぶは思い出せない。」


所々ところどころが…。」


「これは、記憶喪失きおくそうしつなのか、それとも、一時的健忘症いちじてきけんぼうしょうってやつなのか…。」



「とにかく、少しずつ、少しずつ、よみがえはずだ。

焦るな俺!

焦っても、仕方しかたがないんだ。」


「それに、収穫しゅうかくはある。

さっき、自分じぶんの名前を思い出したんだ…。

すげぇ収穫だ!。」


「俺の名前は、水宇羅みずうら…、…下の名前は…、

え~と…、んー…、下の名前は…、分からない!水宇羅…思い出せない。でも名字みょうじは分かった。」


「ハハハ!

もう少しだ。焦らずゆっくりだ。

よし!あとは、発言はつげん慎重しんちょうにしないとな!」


記憶を、少し取り戻し、喜びながらも、

そう、自分に言い聞かせた俺であった。


しかし、この時の俺は、暗闇くらやみから小さな光を見つけ、警戒けいかいしながらも、安堵あんどしていた。


そして、あのような結末けつまつが待っているなんて、思いもしなかったのである。



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