第3話

その思い出した断片的な記憶とは…


確かにこの三人はあの場所ばしょにいた。


そしてあれは、確か風が冷たくなってきた季節きせつだった。



白タンクトップの男

「はぁはぁ、くそー、下手うっちまった。

火馬田ひまだのオッサン、はぁはぁ、完全に俺をころす気だ。

くそ、はぁはぁ、謝ったら許してくれねぇかな!?はぁはぁ。」


銀縁メガネの男

「フーフー、しゃ、喋ってんじゃねぇよ!バカやろう!フーフーハァハァ、

あの、あの、火馬田のオッサンがそんなタマかよ。フーフー。」


黒シャツの男

「はぁはぁはぁ、おい、こっちだ。こっちへ来い。早く!いそげ!はぁーはぁーフーフー、 其所そこを右だ!ふーふー、そ、其処のはぁはぁ、よし、その開いたとびらの中へび込め!急げーーー!。」


黒シャツの男の号令ごうれいで、三人は扉が開いていた建物たてものの中へなだれ込んだのだ。

そして、最後に建物に入った黒シャツの男は、

いそいでドアをめた。


三人

「はぁーはぁフーフーはぁはぁーフーフー

もう、もう動けねぇ!あーもー無理むりだ。

これ以上いじょうはー!ふぅーふぅーふぅーふぅー。」


白タンクトップの男は、ゆかの上に大のになり、

銀縁メガネの男はあぐらをかいて、

黒シャツの男は、両膝りょうひざに両手をあてて、中腰ちゅうごしになっている。勿論もちろん三人は、

荒いいきをはずませていた。

そしてその三人がなだれ込んだ、その場所の薄暗うすぐらい奥にひとつのかげが動いた。


そう、そこに居たのは俺なのだ。


俺は薄暗い奥から、そこにゆっくりと歩き、拍手はくしゅをしながら登場とうじょうした。


「パチパチパチ、はい皆さんお疲れさん。」


三人…!


銀縁メガネの男は俺をにらみ付け、言い放つ。


銀縁メガネの男

「はぁはぁはぁ、て、てめぇス、スカしてんじゃねぇよ!はぁはぁ、こ、こっちは必死ひっしなんだよ!はぁはぁフーフー、こんなに走らされたのは、はぁはぁはぁしょ、小学生以来しょうがくせいいらいだっつうんだ!。」


白タンクトップの男が、銀縁メガネの男に

続くが、くるしそうだ。


白タンクトップの男

「フーフーはぁはぁ、ほ、本当に、はぁはぁ

走り過ぎ、息が…はぁはぁ。」


黒シャツの男も続く。

しかし、息がはずんで喋りづらそうだ。


黒シャツの男

「はぁはぁはぁ、いいから…今はフーフー

息が…はぁはぁ、整うまで、はぁはぁ、

喋るな!はぁはぁ。」


俺は、三人にゆっくりと説明せつめいした。


「その通り笑、それに今回こんかい下手打ったのは、

ジロー(白タンクトップの男)お前だろうが笑。

黒さん(黒シャツの男)からのメール見たら、

ジローがヤバいから、至急しきゅうエスケープ手配てはいしてくれって言うからよ。俺がこの場所手配したんだろうが!笑。」


三人…


「ただ、黒さんとジローの二人だけだと思ったらよー、鮫頭さめず(銀縁メガネの男)も一緒だとは思わなかったぜ。それに、」


俺がまだ話をしていたその時、そとから何やらパタパタと足音あしおとがした。

黒さんはすかさず、それをみんなにつたえた。


黒さん

「はぁはぁ、ふー、な、何か来る!はぁはぁ、

しー、し、静かに…。」


四人 …


外の声

「おい、お前はそっちを見て来い!

お前はあっちにまわれ!

よし、こっちは…んー、お前ら二人付いてこい!

いいか、見逃みのがすなよ!。」



その声を聞いて、鮫頭は小さな声でつぶやくように言った。


鮫頭

「はぁはぁー、な、なぁ、な、何か、こっちへ来るぞ。ヤ、ヤバいぞ!。」


黒さん

「フーフー、し、しー、し、静かに…。」


黒さんは、人差し指をはなの前に立てるしぐさをした。

それを横目に、俺はただニコニコと笑っていた。


それを見て鮫頭とジローは訝しげな顔をしながら、俺を睨むように見ている。

黒さんは、軽くうなずきながら俺を見ている。


外の声

「クソー、何処に行きやがった!そっちはどうだ。

こっちには居ませんー!

こっちも居ませんー!

…ヤロー、何処に消えやがった!

えーい、もう一度 さがせ!

行けーおらーー!。」


俺はみんなに両手をひろげて、

さぁどうだ!とおどけてみせた笑。


黒さん

「ふー、み、水宇羅みずうら、ふぅー、い、いつも通り見事みごとだ。ふー、笑。」


ジロー

「はぁ、ふー、な、な、何でだ??

何で奴らはこ、此処に入って来なかったんだ!

ふぅーふー、たまたまか??

イ、イヤ、違う!

ふー、く、黒さん…と水宇羅は、此処に、はぁーはぁー、や、奴らは来ないって、し、知ってたのか…??何でだ?な、何でだ?。」


鮫頭

「ふぅー、…どうゆう事だ!?。」


黒さん

「ふー、水宇羅、ふぅー、説明せつめいしてやってくれ。」


「ふふふ、まぁ簡単に言えば、

奴らがいやがる事を、アピールしておいたってことだけ笑。

二人とも、急に此処に入れって言われたから、

ちゃんと見てないと思うけど、

監視かんしカメラ作動中さどうちゅう看板かんばんとダミーの監視カメラ、

入り口に設置せっちしておいただけ笑。


奴らや俺らみたいな連中は、無意識むいしきかも知れないけど、監視カメラをつねに意識して、行動するくせがついちゃってるだろう。まぁ、今回こんかいみたいにあわてて、きゅうようする場合ばあいべつとしてだけどね。」


ジローと鮫頭

……


「なんつっても最近は此処彼処ここかしこに、監視カメラ、カメラ、カメラ、だろ。

やりにくいよな笑!

だから奴らや俺達は、監視カメラをけて行動こうどうする習慣しゅうかんがついちまってる。

さらに、俺達の商売しょうばいは、世間一般せけんいっぱんが思ってるような、

危険きけんかえりみないやからと、ちがうだろ笑。


ミスは勿論、組織に危険きけんおよぼす可能性かのうせいがあるだけで、始末しまつされる…

だから危険かどうか、バレするかどうかに、かなり神経質しんけいしつになるよな。

そして、慎重しんちょうに慎重をかさねる。

下手打ったら死が待ってるからな。

げんにジロー!お前、追われて殺されかけてるじゃねぇかよ!笑

だから、かりにもチンピラをたばねてるような奴は、

ずは石橋いしばしを叩くだろうが!

すなわちそのドアは、

簡単には開かれないって事なんだよ笑。」


俺が話し終わると、ジローはなるほど、というような顔をしていたが、

鮫頭は、も知っていたかのような顔をしながら、俺に言い返した。


鮫頭

「フン、だろうな。まぁ冷静に考えてみりゃ、

ぐにわかることだわな。フン!

それにしても、こんなことになったのも、…

ジロー!てめぇのせいだからな!

このヤロー!。」


鮫頭が怒り、ジローに言い放った。


ジローは目の焦点しょうてんさだまらず、あたふたし、

大量たいりょうの汗を流している。


ジロー

「い、いや、ホント、す、すまねぇ!。いや、ゴメン。」


鮫頭はめんどくさい、腹が立つという表情ひょうじょうで言い放つ。


鮫頭

「フン、で、これからどうするんだ?

ドアが開かねぇってことは、分かったけどよ…

俺達も此処から一歩も動けねぇってことじゃねぇかよ!怒。」


鮫頭の怒り口調くちょうに、俺は冷静れいせいに答える。


「フフ、笑、イヤ、此処から出て行く!そのドアからな!!笑。」


鮫頭とジローは訝しげに、そして、

そんなこと出来るわけがないという表情で、

俺を見ながら、


ジロー

「…」


鮫頭

「…チッ、ホントかよ!?。」


そのやりりをていた黒さんが、

少し微笑みながら、


黒さん

「なるほどなぁ。」


ジローと鮫頭は、何がなんだか解らず、

キョトンとした表情で、


ジロー、鮫頭

「??、え!な、何??。」


俺はこの二人には、到底理解は出来ねぇーだろうなと、心で思いながら、


「ハハハ、黒さんは解ったみてぇだけど、さすがにお二人さんは解らねぇか笑。」


すると、鮫頭は顔を紅潮こうちょうさせ、


鮫頭

「て、てめぇ!笑ってんじゃねぇよ!怒。」


鮫頭はかなり怒っている。

俺はまた、冷静に対処たいしょする。


「フ、すまんすまん、そうゆうつもりで笑ったんじゃねぇんだ。

誤解ごかいさせたんなら謝る。

すまんすまん、この通りだ。」


俺は頭を下げたが、鮫頭の怒りはあまり収まらなかったようだ。


鮫頭

「はん、分かったから早く説明せつめいしろや!。」


俺は少しあきれながら、


「あー分かった。説明するよ。」


俺はボストンバッグからおもむろに、緑色みどりいろのジャケットを取り出して羽織はおり、紺色こんいろ制帽せいぼうを被って見せた。


「フフン、ん、どうだ?!何者なにものに見える!笑。」


鮫頭は然も当たり前のように、


鮫頭

「あ、そんなもんタクシーの運転手うんてんしゅにしか見えねぇだろうが!…それがどうしたってんだよ!。」


鮫頭はかなりイラついている。


俺は説明を続ける。


「俺が、このまま此処のドアを開いて出て行ったら、外にいる奴らはどう思う?!。」


今度はすかさずジローがバカにし、嗤いながら、

そして噛みつくように話す。


ジロー

「ハハハハハ!そりゃ、タクシーの運転手が、めし食って出てきたって思うに決まってるだろ。…あ!そうだろ!。」


「やっと解ったか笑。」


鮫頭

「バカヤロー、解らねぇよ!

お前だけ出て行けても俺らはどうするんだよ?!あ!。」


鮫頭は完全に、頭にきているようである。


「フフン、まったく鈍いなぁ…笑。いいか、俺がタクシーの運転手なら、お前らはきゃくだろうが。

俺が、向かいの駐車場ちゅうしゃじょうめてあるタクシーに乗って、このみせの前にタクシーを停める。

お前らは、タクシーに乗り込めばいいだけって事だろ。

更にねんには念を入れてだな…変装へんそうしてくれ。俺達の顔写真かおしゃしんすでに出回ってる可能性が高いからな。見えないとは思うが、もしも、目がいい奴でもいたら…バレるかもな。だから保険ほけんをかけて変装してもらう。」


黒さんは、なるほど!という表情で頷いている。

鮫頭とジローは、キョトンとしたような表情を浮かべているが、

俺はかまわず続ける。


俺はボストンバッグからジャケットやシャツ、眼鏡めがねなどを取り出した。


「お前ら、このふく着替きがえて待機たいきしててくれ。車とってくるからよ。あーそれと黒さん、店の前に車をつけたら、電話でんわするよ。」


黒さん

「あー、分かった。」


鮫頭とジローは、まだポカンとしていたが、

言われた通りにシャツやジャケット、眼鏡などを、各々おのおの着替えて待機していた。

黒さんも、鮫頭とジローに続き、着替えていた。


そして、俺は堂々どうどう正面しょうめんの扉から出て行った。

扉から出ると、何気なにげなく周りを見た。組織の下っしたっぱらしき者が

チラホラいたが、構わず向かいに停めてあるタクシーに乗り込んだ。


そしてエンジンをかけ、車を動かし店の前につけ、黒さんに電話をかけた。


「俺だ。店の前に停めた。乗り込んでくれ。」


黒さん

「ああ、わかった。」


俺はタクシーの後ろのドアを開け、三人が乗り込むのを待った。

三人は、三様さんようちで、タクシーに乗り込もうとした、その時…


鮫頭

「ん!…オイ、何かあの見張みはり、じっと此方見てるぞ!。」


俺は三人に警戒けいかいするように、

しかし、感ずかれないように言った。


「おい!そのまま自然しぜんに目をらせ!自然にだぞ!あと、あいつをもう見るなよ!。さぁ早く乗り込め。」


三人…「わ、分かった。」


三人はそそくさと乗り込んだ。

俺は、バックミラーで、

三人が乗り込んだのを確認し、内心ほっとした。

しかし、ほっとしたところを三人に感ずかれまいと、おどけてみせた。


「では、お客さん。シートベルトを、おしめください。

それでは、発車はっしゃいたしまーす。」


三人は無言むごんだ。

俺は心の中で、はずしたか~と、

思ったが、ち込んでるひまはない。

直ぐにハンドルを握り、タクシーを発車させた。

タクシーは、そのまま見張りの横を通り過ぎていく。

俺は、バックミラーでその見張りを確認をする。


「ハハハ、あの見張り、全くうたがってねぇよ!

この車を見もしねぇ!やったぜ、ちくしょう!

ハハハ、さぁかえろうぜ!。」


後部座席こうぶざせきの三人も、小さくガッツポーズをとっている。

黒さんは静かに、俺に話し掛ける。


黒さん

「水宇羅、たすかった。れいを言う。…ありがとな。」


バックミラー越しに黒さんが、頭を下げたのが見えた。

散々さんざん世話せわになってきた黒さんが、俺に頭を下げてる…。

俺は恐縮きょうしゅくして、直ぐに

言い返した。


「黒さん、頭上げてくれよ。あんたには色々いろいろ世話になってるからよ。そんなことしないでくれ…。」


ポリポリ、頭をかく俺。


黒さん

「いや、ホント助かった。」


黒さんにつられたように、鮫頭とジローも

礼を言ってきた。


鮫頭

「…おー水宇羅、ありがとよ。」


ジロー

「ほんとほんと、助かったぜ!ありがとよ。」


俺は、少しれてしまった。


「ニヤ笑、ポッ…お、おう。」


そんなことを話しながら、

車はそのから走りって行く。


そのころ火馬田が放った見張りの居る店の前では…

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