第2話

白タンクトップの男

「あ~それにしても、腹へったなぁー。」


銀縁メガネの男

「そういやぁ、朝から何も食ってねぇなぁ。う~クタクタだよ…。何か食わねぇとな…。」


すると黒シャツの男が、白タンクトップの男のよこにある、グレーのスチールせいたな指差ゆびさしながら、


黒シャツの男

「そこの1番上のだんボールに、食料しょくりょうが入ってるから食べてくれ。」


黒シャツの男に言われ、グレーのスチール製の棚の横に居た、白タンクトップの男が立ちあがった。


白タンクトップの男

「ん?!これか?!。」


白タンクトップの男が段ボールを下ろし、ガムテープをがす。


白タンクトップの男

「おーこりゃなつかしい笑。かんパンじゃねぇか。

俺、けっこう好きなんだよ。でもこれって飲み物が無いと、のどつまっちまうんだよね。」


俺はグレーのスチール製の棚の、1番左の下の段ボールを取り出し、ガムテープを剥がした。そして、350mlのミネラルウォータを取り出し、全員にくばった。


銀縁メガネの男が、いぶかしげに俺を見ながら言った。


銀縁メガネの男

「お前、よく水の入った段ボールの場所ばしょがわかったなぁ!

誰にも指示しじもされてもいねぇのに…。何でだ?。」


白タンクトップの男

「はん、本当だねぇ。」


俺は内心ないしんギクリとした!

その通りだ。何も考えず…反射的はんしゃてきに…ミネラルウォーターを取り出したけど…何で俺は場所を知ってた?

何故だ?

ヤバい!考えろ、考えろ、

なんこたえればいい、

く…ヤバい、頭が、頭が真白まっしろだ。

すると黒シャツの男が、俺の代弁だいべんでもするかのように話す。


黒シャツの男

「ははは笑、そりゃ知ってるさ。

こいつと一緒いっしょ下見したみに来たとき確認かくにんしたからな。

だから知ってるのさ。

水と食料は必要不可欠ひつようふかけつだろ。」


銀縁メガネの男

「なんだよ、そうゆう事かよ。…わかった。」


黒シャツの男

「んー、なんだ?何かすっきりしねぇ言い方だな?

何が気に入らない?。」


銀縁メガネの男

「いや、俺はあんたの事は信用しんようしてるよ。だけどコイツは…ちょっとな…。」


黒シャツの男

「おいおい、コイツとはもう3年の付きいだぞ。それにコイツは、俺らのいのち恩人おんじんでもあるのは、お前らも知ってるだろ!?。」


銀縁メガネの男

「あー…それは知ってるぜ。

ただな…いま考えると、あの時もタイミングがちょっとすぎたからよー…

指示があったとはいえ…あとで、よくよく考えたら…あまりにも…なぁ…

まぁ、何て言ったらいいかわかんねぇけど…

俺のかんとしては…

ふぅ~、いや、すまねぇ…

思い過ごしだろうな…。勘弁してくれ。」


黒シャツの男

「俺にあやまんじゃねぇよ。

謝るならアイツに謝れ。」


銀縁メガネの男

「あーわかった。すまなかったな、ほれ、このとおりだ。」


銀縁メガネの男は軽く頭を下げ、謝る気などまるでないような態度たいどで、謝罪しゃざいした。

だが俺は内心ドキドキしていて、それどころではなかった。何故なら、今、二人ふたりが話した内容ないようが全く記憶にないのである。そして、そのあせりを極力きょくりょく顔に出さないようにしていたのだ。

そして俺は、平静へいせいよそおってあいづちを打った。


「イヤ、気にしないでくれ。」


右手をげて返答したが、気が気じゃない。

俺は心の中で、

「俺と黒シャツの男とは、3年の付き合いなのか…

じゃあ白タンクトップの男とは…

銀縁メガネの男とは…どれくらいの付き合いなのか?

どうやって知り合った?

俺が黒シャツの男の命の恩人って…

何も思い出せない…

もし、下手なこと言ったらOUTだ!慎重しんちょうに話さねば…。」


そんなことを考えながらも、俺はまわりを見渡みわたしてみた。

みんな無言むごんで乾パンをかじりながら、水を流しんでいる。

すると、白タンクトップの男が急にしゃべはじめた。


白タンクトップの男

「あーあ~、キンキンに冷えたつめてぇビールが、みてぇなぁー。」


銀縁メガネの男

「あー、ビールもいいけど、

俺はレモンをぎゅーっとしぼった、ハイボールが飲みてぇ笑。」


黒シャツの男

「ふふ、俺は断然だんぜんあかワインだぜ。それになんといっても、赤ワインは常温じょうおんより、冷たく冷やした方がウマイんだ。それに、ポリフェノールもたっぷりだしよ。

お前らも身体からだに気を使えよ。

あ、そーだ、たしかお前はあのーあれだったよな、なんだった…あれ、度忘どわすれしたぜ。

なぁーお前、なんだったかな?。」


黒シャツの男は俺の方を見、

俺を指差ゆびさしながら、その人差ひとさし指を小刻こきざみに、上下じょうげらしながら、質問してきた。

!…俺は完全かんぜんかたまった。

「俺は一体何が好きだったんだ?…。」


心がざわついた。


三人が俺に注目ちゅうもくしている。

背中せなかに冷たいものを感じ、それから俺のひたいからツーっと冷やあせが流れてくる。

俺は心の中で「くそ、思い出せない…何か言わなきゃ…えーい、ままよ!。」


俺がくちを開こうとした時より、一瞬いっしゅん早く黒シャツの男が言う。


黒シャツの男

「おーそうだそうだ、思い出した。たしか、こいつはジンジャーエールが好きなんだよ笑。

こう見えて下戸げこなんだよ。

なぁーお前、一滴いってきめねんだったよなぁ笑。」


俺はすかさず同調どうちょうする。


「そ、そうなんだよ。じつはアルコールが苦手にがてで、

ジンジャーエール専門せんもんだ。あはは笑。」



白タンクトップの男

「ハハハハハ、何だよ!一滴も呑めねぇのかよ、なさけねぇーワハハハハハ。」


銀縁メガネの男

「くくく、おいおい、そんなに嗤うもんじゃねぇよ、呑めねぇー奴ってのは沢山たくさんいるからよー、なぁー、くくく。」


俺は突然とつぜん、腹のそこから、マグマのように怒りがき上がり、もう自分を止めることなどできないと、さとったと同時どうじに、俺を嗤った二人に言いはなつ!


「あ、何がそんなに面白おもしれぇんだ。

さけが呑めねぇだけで、そんなに面白ぇか!この野郎やろう?!

なめてんのか!コラ!上等じょうとうだよ!

俺がどんな人間か、きっちりおしえてやるよ!。」

俺は素早すばやこしをあげ、立ち上がると、二人めがけてっ込んでいく。

すると黒シャツの男が俺の前へスッと立ちはだかった。


黒シャツの男

「おいおいおい、待て待て!落ち着け!

な、とにかく落ち着けって、な、落ち着け!。」


黒シャツの男は、そのまま俺の前から素早く後ろへまわり、両脇から俺を羽交はがめにした。

それでも俺は、その黒シャツの男を引きずりながら突進していく。

黒シャツの男は、俺に引きずられながらも必死で二人に言う。


黒シャツの男

「おら、お前ら!早く謝れ!早くしろ!さっさと謝れよバカヤロー!。」


と言いながら、羽交い締めはゆるめない。


その状況と、俺のあまりの怒りにおどろいたのか、ビビったのかは知らないが、二人は俺に謝ってきたのだ。


白タンクトップの男

「わ、わかったって、す、すまねぇ!本当にすまねぇ!ゆるしてくれ。」


銀縁メガネの男

「い、いや、俺もちょっと冗談が過ぎた。すまねぇ。な、だからそんなに怒らねぇーでくれよ!。」


だが、俺の怒りはおさまらず、


「冗談だぁ…この野郎…

ほうー、そうかよ、冗談かよ…

だったら俺もこれから、てめぇらグッチャグッチャにするけどよ…

ただの悪い冗談だからよ…気にしねぇで大いに笑ってくれよ…。」


その声は自分でも驚くほど、ひくおもい声だった。


すると今度は黒シャツの男が…


黒シャツの男

「おい…俺が待てって言ってるのがからねぇのか?!おう…どうなんだ。」


その声は何の感情かんじょうもないような…しかし毅然きぜんとした低くふかい声だった。


その、あまりの低音ていおんひびく声に、俺のあれほど怒り狂った感情はえ、そしてふとわれに返った。


「ふーーー、わ、わかった、すまない…。

ちょっとみだした。」


黒シャツの男は少しホッとしたような、

しかし、あきれたように少し微笑ほほえみ、俺を見ながら言った。


黒シャツの男

「分かればいい。でもまぁ…お前らしいよ。」



俺は、その言葉にハッとした。

そうか!?今、自分でも思ってもいなかった、

言葉や態度が出たけど…記憶きおくくす前は…

本当の俺は、こうゆう感じだったのか。

しかし、そう感じている間もなく、黒シャツの男が続けざまに言う。


黒シャツの男

「お前は普段ふだん大人おとなしいけど、一度いちどキレちまったら大変たいへんだからなぁ。ホントおそろしい奴だよワハハ笑。」


黒シャツの男が言いえると、銀縁メガネの男が、しずかに言う。


銀縁メガネの男

「本当に恐ろしいのはあんただろ。いつも冷静れいせいで、周り、ひともの、状況、全てを観察かんさつして、

最良さいりょう決断けつだんくだす…!

たとそれ冷徹れいてつな決断だとしても、

あんたはそれをやってのける…。

俺は今まで、色んなワルを見てきたけど、

あんたほどの人間は見たことねぇ…!

だからこそあんたとんだんだけどな!。」


黒シャツの男

「おいおい、そんなかぶるなよ。

俺はそんな人間じゃねえよ。

ただ、人一倍ひといちばい臆病おくびょうなだけだ。だから慎重に行動してるだけだよ。」


謙遜けんそんしたのように黒シャツの男が言った。

しかし、銀縁メガネの男は、いかに黒シャツの男が恐ろしい男なのか、ということを簡潔的かんけつてきに言ってのけた。


銀縁メガネの男

臆病者おくびょうものが、あんな冷酷無比れいこくむひな事が出来るかよ!?。」


黒シャツの男

「冷酷無比じゃねえ。

ああするしかなかったから、そうしただけだ。あの時、ああしなかったら

多分たぶん、ここにいる全員、確実かくじつんでただろ…。

だからあれは、最終手段さいしゅうしゅだんってやつだ。」


白タンクトップの男

「そ、そのとおりだぜ。俺達が誰もが放心状態ほうしんじょうたいだったよな。誰も動けなかった…

でもみんな、今、きてる…。」


そして、黒シャツの男がみんなを鼓舞こぶするかのように、まとめようとするかのように言う。


黒シャツの男

「おいおい、くらくなっちまってるぞ!

あのなぁー俺が言いたいのは、俺達は一蓮托生いちれんたくしょうってことだ。

こんな所で、仲間なかまうちで、めんなってことだ。

俺達が揉めたらよろこぶのは、組織の連中れんちゅうだろうが!?。」


黒シャツの男が言いえると同時に、

俺の頭の中は混乱こんらんしていた。


黒シャツの男の言ったことも、

銀縁メガネの男の言ったことも、

白タンクトップの男の言ったことも、

話のながれは理解りかいできても、

内容は分からず…記憶がなかったのだ。


そう…、自分が言ったことさえも…

自分じゃない誰かが、頭の中で言った事を、

そのまま言葉にした感覚かんかくだった。

そして頭の中に、一つのちいさなひかりのような断片的だんぺんてきな記憶が、

頭痛ずつうともよびがえってきた。


ズキッ


確かにあの時…俺とこの三人は…


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