第9話 勝ったッ!第一部完!!


「お姉さまになんてことをするの!!」


 刹那、バチっ、と何かに弾かれて王子はふらふらと後ずさる。王子を弾き飛ばしたは、今はシンデレラの肩の上で王子を威嚇している。


「白い、鳩?」


「やりなさい、ダイフク!」


 シンデレラに命じられるまま肩から飛び立った白い鳩は、矢のようにスカーレットを転ばせた兵士の手首を貫いた。


「グワーーーッ!!」


 たまらず兵士は悲鳴を上げて武器を取り落とす。その隙にシンデレラは姉に駆け寄り、優しく立ち上がらせた。


「安心しなさい、峰打ちです」

「峰、とは」

「貫通してるやん…」


 王子たちの突っ込みをまるで無視したダイフクと呼ばれた白い鳥はそのまま何事もなかったかのようにシンデレラの肩に戻る。兵士の手首を貫いたにしては返り血も何もついていない真っ白のままであった。


「その鳥は何なの?」


 よく見ると、どうも鳩のような姿はしているが鳩ではなさそうである。そもそも生物であるかも怪しい。輪郭が炎のように揺らいでいるのだ。

 スカーレットの疑問にシンデレラが答える。


「この子はダイフク。私の能力スキルによって使役された精霊よ」

「スキ…ル?精霊?」


 なんだろう。これでは、まるで。


「私も転生者なのよ、お姉さま」

「な、なんだってー……」


 いろんなことがありすぎてもはや何に驚いていいのかわからない。転生者?シンデレラが?


「私がそのことを思い出したのは、お姉さま達と会った日、お姉さま達が部屋で不思議な儀式をしているところを見た時だったわ」

「!? あなた、あれを見ていたの!!?」

「割と最初から全部見ていたわ」

「いっそ殺せ!」


 もはやスカーレットとヴァイオレットの感情はぐちゃぐちゃだ。シンデレラはそんな二人の背中をやさしくたたいて落ち着かせてくれる。好き。


「でもそのハトは何?私たちにはそんなものないわよ?」

「出し方が違うのよ」


 そう言うと、彼女は指を二本立てて空中にSとCを組み合わせたような図形を描くように動かした。するとその場に紫色の半透明の板が突如として現れる。


「あー、それか。試してなかったのね」

「え?何?ということはここはゲームの中なの?」

「それはわからないけれど、とにかく私はこれを使って精霊使役スキルを取得したのよ」

「はえー、なるほど」


 試しにやってみたスカーレットはステータスに「服飾技術 Lv.10」があるのを見つけた。ヴァイオレットのステータスには「ガラス工芸 Lv.10」があった。シンデレラのドレスや靴を作る過程で入手できたものだろう。ほかにも未使用で放置されたスキルポイントがいくらかあったので、すべてを身体強化に割り振る。途端に体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。


「ふはは、私は人間をやめたぞ、ジョジョーッ!」

「やれやれだぜ……」


 なんだか楽しくなってきた。三人は訳も分からず様子を窺っていた王子たちを睨みつける。


「あなたなんかに私たちの大事なシンデレラは渡さないわ!」

「勝ったッ!第一部完!!」

「まだ早いですよ、ヴァイオレット姉さま」


 王子たちはいまだに何が起こっているのか分かっていないが、連れてきた兵士の一人は手首を抑えて蹲っている。手首を縛って止血はしたようだが、このままでは命に係わる可能性すらあった。ただ単に昨日逃げられた娘を連れ帰るだけの簡単な仕事だったはずだが、一体どこで道を間違ってしまったのか。

 王子は苦々しげに三人娘を睨みつけていたが、このまま帰るわけにもいかない。


「やれ」


 命じると、それだけでどこに隠れていたのか兵士が十人ほど表れて、シンデレラたちを取り囲んだ。


「笑止」


 スカーレットは余っていたスキルポイントを「拳法」に突っ込む。それだけで、どう動けばいいのかを理解した。突き出された槍を左手で軽くはじくと、そのまま懐に飛び込んで背中から突っ込む。身体強化の効果もあり、それだけで兵士は面白いように吹っ飛んでいった。


「貴様ッ!!」


 激高した兵士たちが一斉に槍を繰り出す。その槍は無惨にも三姉妹を貫き、あたりが血の海に……沈むことはなかった。ぐにゃり、と姉妹の姿が揺らぎ、消えてしまったのだ。


「残像だ」

「ひぃっ!」


 兵士は自分のすぐ後ろから聞こえたヴァイオレットの声に戦慄したが、振り返る間もなく火だるまとなり意識を失った。


「何取ったの?」

「光魔法と炎魔法。やっぱこれっしょ」

「わかる~~」


 一方で瞬く間に二人倒されてしまった兵士たちは完全に怖気づいている。母親はといえばいつの間にか気を失って木陰でメイドに介抱されていた。


「くっ、役立たず共め!!」


 悪態をつくが、王子とてバカではない。自分の常識の及ばない何かが起こっていることは理解していた。このまま強引に事を続けることの愚かさも。


「お前は絶対に私のものにする。逃げられると思うなよ!王様にいいつけてやる!!」


 捨て台詞を残して王子は逃げるように屋敷を後にしたのであった。


「おととい来やがれべらぼーめ!おい、ヴァイオレット!塩撒いてやれ!」

「あいよー!ってそんな準備ないよー。えーと、『人間を塩の柱に変える魔法』でいいかな?」

「ちょっと待ってヴァイオレット姉さま、それはさすがにちょっとヤバい気配がしますわ」


「くっ、首を洗って待っていろ!」


 こうして、三姉妹と王子の長い戦いが幕を開けた。

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